<日本経済新聞>

ドクターヘリ導入進まず

 

導入は計画の3分の1

 救急医や看護師が乗りこんで救急現揚に駆けつける「ドクターヘリ」の導入が進んでいない。厚生労働省は2001年度から5年間で全国30か所に整備する計画だったが、干葉、愛知、岡山、福岡など7県どまりで増設予定はない。着陸地点など規制も多いが、導入ずみの地域では実績を上げており、「国はもっと支援すべきだ」という声が上がっている。

 同省によると、2001年度から本格的に開始した「ドクターヘリ導入促進事業」は初年度に川崎医科大学病院(岡山県)、聖隷三方原病院(静岡県)、日本医大干葉北総病院(干葉県)など5県、2002年度は2県で導入された。しかし今年度の新規導入施設はゼロ。来年度予算の概算要求では2,600万円上積みして7億6,400万円を計上したものの、7県9カ所から増設する計画はない。

「都道府県の理解を得られていないのがネックになっている」と同省担当者は説明する。国の補助率は2分の1で、基準額は1カ所当たり年間1億7千万円。残り半分は都道府県が負担しており、「消防・防災ヘリコプターがあるのを理由に、費用がかかるドクターヘリの導入はなかなか実を結んでいないのが実情」という。

救急機の着陸を道路公団が認めず

 着陸地点など規制が多いのも導入拡大と運用に課題を残している。今年6月23日に東名高速道路で起きた玉突き事故では、愛知県と静岡県の2機のドクターヘリが飛来したが、高速道路上の着陸を日本道路公団から許可されなかった。ヘリコプター2機は上空での待機を余儀なくされ、約10分後に近くの空地に着陸。「素早く到着したのに1分1秒を争う救急現揚で時間をロスした」という指摘があった。

 こうした中、NPO法人の「救急ヘリ病院ネツトワーク」(HEM-Net)は10月31日、東京都内で「ヘリコプター救急システムの構築をめざして」と題するシンポジウムを開催。厚労省のほか国土交通省、消防庁、警察庁など救急ヘリコプターにかかわる省庁の課長級も参加して、医療関係者などと議論を交わした。

 今年4月に同ネットの理事長に就任した国松孝次元警察庁長官は「渋滞している高速道路や山間部などでは救急車より救急ヘリの優位は明確」と指摘する。同ネツトは費用負担や離着陸や飛行制限の緩和策など関係省庁と協議を進めるとともに、導入拡大に向けた提言をまとめる。

死亡率低下し後遺症も大幅減

 2001年10月からドクターヘリを導入した日本医大干葉北総病院によると、導入後1年で299人の患者を搬送した。このうち患者の状態から、救急車搬送では78人が死亡しただろうという推計に対し、実際に亡くなったのは37人と半減した。

 同病院の益子邦洋救命救急センター長は「死亡だけでなく、後遺症を抱えるケースも大幅に減少している」と話す。

 例えばクレーン作業中に鉄くいが落下、胸と腹部を強く打った五十代男性のケースでは救急要請を受けて8分後に救急車が到着したが、ひん死の状態だったためドクターヘリを依頼。要請から28分後には医師が到着、治療を進めながらヘリコプターで病院に搬送した。到着後に手術を本格的な緊急実施して、約3か月後には後遺症もなく退院できたという。 

立ち遅れの感は否めない

 ドクターヘリは、医療機器を装備、救急救命センターに待機させ、消防や病院からの要請に基づき、救急医や看護師が同乗する救急医療專用のヘリコプター。搬送時間の短縮に加え、救急隊員が乗務する防災ヘリと異なり、病院に搬送する間も医師が救急医療を行えるため救命率が高いとされる。米国やドイツ、スイスでは1970年代前半から導入されている。

 国内では旧厚生省が1999年度から試行的に導入、2000年6月には政府の「ドクターヘリ調査検討委員会」が「諸外国の状況に照らして立ち遅れの感は否めない」とする報告書をまとめた。それにもとづき、2001年度から本格導入されたが、十分に進んでいない。(日本経済新聞、2003年11月4日付記事より要約)

(HEM-Net、2003.11.17)

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