
<HEM-Netシンポジウム>
ヘリコプター救急システムの構築をめざして
―― パネル討論発言要旨 ―― NPO法人、救急ヘリ病院ネットワーク(HEM-Net)は10月31日、「ヘリコプター救急システムの構築をめざして」を主題とするシンポジウムを開催した。後半は霞ヶ関の関係官庁から課長級のパネリストが出席して討論が行われた。
各パネリストは、それぞれの担当部署における現状を報告、会場からの質問や要望に答えた。この討論によって、ドクターヘリ導入がなかなか進んでいない問題点が浮き彫りになったが、HEM-Netはこれを踏まえて、今後約1年間をかけて調査研究を進め、ヘリコプター救急システムの構築に向けて具体的な提言をまとめる予定である。
各パネリストの発言要旨は次の通り。
ドクターヘリ導入促進事業について 厚生労働省医政局指導課、佐藤陽次郎課長補佐はドクターヘリ事業のこれまでの導入経緯と平成16年度の予算要求額について紹介した。それによると、予算額は764百万円(前年度738百万円)、箇所 数9ヶ所(前年度9ヶ所)、補助率2分の1(負担の割合は国と都道府県が半分ずつ)、基準額1ヶ所当たり年間約170百万円、実施主体は救命救急センターとなっている。
なお15年度も9ヵ所の予算を準備したが、現在のところ7県しか実施していない。また当初は5年間で30ヵ所の目標を立てたが、地元の費用負担があること、病院の調整など課題があり、進展していない。
ドクターヘリへの健保適用 厚生労働省保険局医療課の中村健二企画官は、ドクターヘリの利用に対して健康保険を適用することはできない。機内での治療に対しては可能だが、運航・搬送部分については今の制度では無理、と語った。
消防・防災ヘリコプターと救急 総務省消防庁の吉崎賢介救急救助課長は、消防・防災ヘリコプターの歴史について、昭和41年の東京消防庁での運航を皮切りに政令市の消防本部が先行、平成に入ってからは道府県が本格導入をはじめ、阪神淡路大震災以降全国整備が進んだ。現在は14消防本部と37道県に合わせて68機が配備されていると語った。未配備県は宮崎、佐賀、沖縄の3県である。
これらのヘリコプターによる救急活動は平成14年が2,068件で増加しつつあるものの、絶対数は少ない。それというのも機材が他の任務と兼用であること、病院に付属していないためドクターが乗っていないこと、病院に寄ってドクターをピックアップすると救命までに時間がかかること、消防隊員の医療行為に制約があること、コスト負担が大きいことなどの課題があるため。
電波通信手段の取り組み状況について 総務省総合通信基盤局電波部の富永昌彦移動通信課長によると、総務省では平成14年1月18日「電波法関係審査基準」の一部改正を行い、医療業務用の無線局に係わる審査基準を新たに整備した。割当周波数は143.66MHzと147.66MHzである。
なお会場からは「医療無線のヘリコプター搭載申請および使用範囲を県単位でなく、全国単位にしてほしい」との要望が上げられた。
高速道路着陸に関する基本的見解 国土交通省道路局の横田耕治高速国道課長は次のような見解を示した。高速道路は一般道に比べての死傷事故率が低いが、いったん事故が発生すると重大事故につながり、死傷事故に占める死亡事故の割合は約3倍となる。このためサービスエリアやパーキングエリアに救命活動支援ヘリポート(場外離着陸場)の整備を進め、9月現在で全国29ヵ所が完成、1ヵ所が工事中、あと1ヵ所が計画中で、今年度中に合わせて31ヵ所となる予定。
高速道路は2車線のところでも幅が10mないところが多く、ヘリコプターの着陸には充分でない。また着陸時のローターによる横風の影響や反対車線の脇見運転や急減速など、2次災害を懸念している。なお聖隷三方原病院の岡田ドクターから「サービスエリアやパーキングエリアヘリパッドは必ずしも事故現場に近いわけではなく、実際には余り役に立たない」との意見が出た。
ドクターヘリ運航の安全 国土交通省航空局技術部谷寧久運航課長は、ドクターヘリは航空法第81条の2(捜索または救助のための特例)の適用を受ける航空機として運航しているので、法規上は高速道路への離着陸も可能であると述べた。運航基準上の課題としては、離着陸の場所(高速道路、屋上緊急離着陸場など)、飛行経路、最低気象条件、気象条件の維持、飛行計画の通報などを上げた。
警察機による救急業務 警察庁生活安全局の殿川一朗地域課長は、警察のヘリコプターは現在全国に97機存在する。これにドクターを乗せて救急業務に使えるかといった問題については、警察業務に特化した装備になっており、また小型単発機も多く、難しいと考える。
交通事故の現状 警察庁交通局交通企画課北村博文企画官によると、今年初めから10月30日までの実績では、交通事故死は6,136人で昨年より減っている。しかし高速道路上の死傷者は減っていない。多重衝突が多く、致死率も一般道の3倍である。
ドクターヘリ運航者の立場から 全日本航空事業連合会の安川醇ドクターヘリ分科会委員長の説明では、同分科会の参加14社中12社の調査で、運航人件費、減価償却等の各費目ごとに最大値と最小値を除いた10社の平均運航コストは、ヘリコプター1機に運航従事者3名がついて、年間1億9,568.1万円(固定費1億6,314.4万円、変動費3,253.7万円)となる。ということは補助金1億4,463.7万円〜1億5,225.0万円を上回っている。つまり運航会社は1機当たり年間約4,000万円〜5,000万円の赤字になる。
運航従事者と医療スタッフの役割分担については、業務内容全24項目中、15項目は運航管理業務の経験がなくても可能である。整備士については全18項目中12項目が同様である。すなわちヘリコプター救急業務の仕事の分担をもっと合理的に整理し、分け合ってゆく必要がある。
夜間運航については、いずれ実施に移す必要があるかもしれないが、そのためには気象条件を定め、航路を確保して、病院間搬送からはじめるのがいいであろう。また夜間の離着陸ができるヘリポートを市町村に確保し、救急車とのランデブー方式も可能性が高い。装備品としてはワイヤーカッターやNVG(ナイト・ビジョン・ゴーグル)等の採用を検討している。
消防・防災機の活用とメディカル・コントロール 日本医科大学付属千葉北総病院の益子邦洋救命救急センター長による発言要旨は以下の通り。
ドクターヘリ事業の結果、医師による現場からの医療開始と迅速な高度医療機関への搬送によって重症患者の転帰を大きく改善させたことが明らかになった。治療着手の時間も救急車にくらべて平均22分間早くなり、死亡率ばかりでなく後遺症も低減し、社会復帰も早くなった。
一方、平成14年に全国で68機ある消防・防災ヘリコプターの救急出動件数は1,966件で年々増加傾向にある。この中には離島、僻地の医療搬送も含まれているが、消防・防災機が日常のプレホスピタルケアに十分活用されているとはいえないのが現状である。
米国では主としてフライトナース(看護師)とパラメデイック(救急隊員)がヘリコプターに搭乗して救急活動に当たっている。その業務内容には高度な救急処置や薬剤投与などが含まれ、医師が現場に赴くのと遜色ないプレホスピタルケアを提供している。この背景には、高度な医療処置を安全に実施するため、メデイカルデイレクターと呼ばれる担当医によって現場活動指針(プロトコール)が策定され、基本的手技について定期的な教育・訓練が実施され、必要に応じ無線等で直接医師から必要な指示が出され、事後に活動の検証が実施される体制が確立している。
このメデイカル・コントロール体制を基盤としてプレホスピタルケアの質の管理がなされている。メデイカル・コントロールとは、医師にだけ許されてきた医療行為を、看護師や救急救命士等、医師以外の職種が行う場合に、その質を担保するために、医師が直接あるいは間接的に教育、指導、助言、検証などをする仕組みである。
わが国では、ドクターヘリ事業が全国7か所で実施されているが、全国的に見れば未だ一部の地域で実用化したに過ぎない。全国を広くカバーし、どの地域住民も質の高いプレホスピタルケアを享受できるシステムの構築を考えた場合、消防・防災ヘリの有効活用は緊急の課題である。
消防・防災ヘリには医師が搭乗していないことから、その活用方策は二つの側面から検討する必要がある。一つはこれらのヘリに医師を同乗させることであり、医師が当番制等によりヘリコプター基地に待機し、要請があれば航空隊員と共に出動するか、或いはヘリが必要に応じて病院へ向かい、医師をピックアップして現場へ向かう方式が考えられる。他方は消防・防災ヘリに救急救命士の搭乗を義務付け、メデイカルコントロール体制を確保した上で、心停止前の輸液等、施行可能な処置範囲を拡大する方式である。
平成15年4月から、包括的指示下の除細動実施に併せ、メデイカルコントロール体制の整備が全国的に進められているが、消防・防災ヘリに本体制を導入する検討は未だ始まっていない。わが国を網羅した航空救急医療体制を構築し、国民全てに安心・安全なプレホスピタルケアを提供するためには、消防・防災航空隊を対象としたメデイカルコントロール体制を構築し、救急業務の高度化を達成しなければならない。
(「日刊航空通信」2003年11月10日付より要約)
【関連頁】
HEM-Netの活動計画について(
2003.11.8)
アメリカ調査報告とドクターヘリの成果(
2003.11.11)
(HEM-Net、2003.11.14)
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