<米国調査報告書>

第3章 リーチ・エア・アンビュランス

(つづき)

  

9 計器飛行

9−1 エンルート計器飛行

 運航の安全を確保するための、もう一つの手段は計器飛行である。そのためパイロットの経験、資格、能力の高いことはもとより、機体の方も、飛行機ばかりでなくヘリコプターにも計器飛行装備をして、気象条件の良くないときでも安全な飛行が出来るような体制をととのえている。

 リーチ社の計器飛行は、空港への進入に加えて、病院と病院または病院と空港との間を結ぶ経路上でも実施している。ルート幅は中心線からそれぞれ4.8km。最低飛行高度は、最も高い地形や障害物の上空1,700フィート(510m)である。

 こうした計器飛行ルートはリーチ社独自の私企業専用ルートである。また計器飛行中は衛星通信を利用し、ルート上全ての地点において常に管制機関や会社との無線交信が可能である。

 計器飛行に使用するのはGPS(全地球測位システム)である。リーチ社は、このGPS技術をいち早く採り入れ、ヘリコプター専用の経路上計器飛行(エンルートIFR)を米国で初めて認められた。また病院への計器進入もアメリカ西部では最初であった。

 これにより従来ならば飛行できなかったような気象条件でも、リーチ機は病院間の患者搬送ができる。また救急現場からの搬送にあたって途中で天候が急変したようなときも、リーチ機は目的の病院へ無事に患者を降ろすことが可能となる。

 具体的には、たとえば次のような事例である。ある病院からメンドチーノ・コースト病院へ緊急状態の患者搬送をおこなう場合、事態は急を要するにもかかわらず途中の気象条件が良くない。こんなとき従来ならば飛行を断念し、時間をかけて救急車で搬送するか、別の病院への搬送を考えなければならなかった。しかし計器飛行が可能となった今は、下図に示すような所定の経路を通ってメンドチーノ病院へ飛ぶことができる。

9−2 計器進入と計器出発

 そして下図に示すように、あらかじめ設定された定点(ポイント・イン・スペース)から降下に入り、途中で雲の中に入るようなことがあっても地上450ft(135m)までは安全に高度を下げてゆく。ここでヘリポートを視認できればそのまま着陸するわけだが、雲や霧のためにヘリポートが見えないときは元に戻り、待機をして進入をやり直すか、最初の出発点に戻るという飛行方式である。

 逆にメンドチーノ病院の患者をよその病院へ移送する場合、その患者をのせたリーチ社のヘリコプターは、気象条件の悪いときであっても、下図のような手順で病院ヘリポートを出発することができる。

 

 このように病院ヘリポートでの計器進入や計器出発が可能であることに加えて、区間の途中でも計器巡航ができるように飛行経路が設定されている。そのため比較的低い高度で飛べるので、上空の氷結気象状態を避けることも可能となる。それだけ、いっそう安全性が増すわけである。

 こうした計器飛行の開始以来、2年間で患者搬送数は200人増加した。これで、計器飛行経路の開設に伴う経費は十分もとを取ったという。

10 運航経費の回収

 アメリカの医療費は保険会社の医療保険によってまかなわれる。日本のような全国民加入の健康保険制度ではなく、65歳以上の年配者にはメディケア、生活保護を受けるような人にはメディエイドといった公的な支援制度もあるが、全額補助というわけではない。

 したがってヘリコプター運航経費の回収にはさまざまな困難が伴う。出動1回当りの費用は8,000ドルだが、リーチ社の場合、回収率は65%程度にとどまっている。

 そんな状況で、よくやっていけるとは思うが、保険に入っていないからといって、当然のことながら救急出動を拒否することはない。法的にも何か規定があるらしい。

 リーチ社の説明では、半分冗談ではあろうが、「この地域は貧乏な人が多いから」ということだった。その点、アメリカ東部の方は費用回収も楽だそうである。 


天気の良いときはまことに美しいサンフランシスコだが、
霧のかかりやすい土地柄でもある。したがって計器飛行が必要になる。
念のために、計器飛行は悪天候の中を無理に飛ぶための手段ではない。
そのような意味もないとは言えないが、もっと大きな意義は
天候急変の場合の安全の確保である

計器飛行の装備をしていない航空機や計器飛行の心得と資格のないパイロットが
天候急変に遭遇して、どれほど死んだことか。

(HEM-Net、2003.12.11)

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