
<米国調査報告書>
第4章 メディカル・コントロール ![]()
1 はじめに 今回の米国ヘリコプター救急の現況調査では、スタンフォード大学病院のLife Flightと、リーチ・エア・アンビュランス社のシステムについて調査した。
ヨーロッパの救急ヘリコプターは医師同乗のシステムが主流であるが、米国のシステムはこれとは趣を異にしている。すなわち、救急ヘリコプター搬送の主役はフライトナースと称される看護師とパラメデイックと称される救急隊員である。
スタンフォード大学Life Flightではフライトナースのチームが、またリーチ・エア・アンビュランス社ではフライトナースとパラメデイックがペアで搭乗していた。
このように、医師以外の職種による病院前救護(プレホスピタル・ケア)に際しては、そこで提供される医療の質を如何に確保するかが鍵であり、その役割を担っているのがメデイカル・コントロール体制である。
Life Flightのフライトナース・スタッフは、表4−1に示す高度な医療処置をおこなうことができる。このような高度な医療処置を安全におこなうために、メデイカル・デイレクターと呼ばれる担当医によって現場活動指針(プロトコール)が策定され、基本的手技について定期的な教育・訓練が実施され、現場で困ったときには無線等で直接必要な指示が出され、現場活動に関する事後検証がきちんとおこなわれていた。
表4−1 Life Flight フライトナースが施行可能な医療処置
- Radial Arterial Line Placement(動脈圧モニタリング)
- Surgical Cricothyroidotomy(輪状甲状間膜穿刺・切開)
- Escharotomy(燒痂切除術)
- Femoral Intravenous Catheter Insertion(大腿静脈内カテーテル挿入)
- Intraosseus Insertion(骨髄輸液)
- Endo-Tracheal Intubation(気管挿管)
- Needle Thoracostomy(胸腔穿刺)
- Pericardiocentesis(心嚢穿刺)
そこで本章では、これまでわが国で余り聞き慣れない言葉である「メデイカル・コントロール」について述べる。
わが国においては、この1〜2年、救急救命士の処置拡大とからんで、メデイカル・コントロール(MC)体制構築の論議が盛んになされている。本来、MC体制構築の議論は平成3年の救急救命士法成立の際になされていなければならなかったのだが、これが置き去りにされた形で救急救命士が誕生してしまった。そのため、救急救命士制度に係わるさまざまな問題が明らかになり、MC体制の構築が改めて議論されるようになった経緯がある。
2 メデイカル・コントロールとは メディカル・コントロール(MC)とは、「救急現場から医療機関へ搬送されるまでの間において、医師以外の者が医療行為を実施する場合、当該医行為を医師が指示又は指導・助言及び検証して、それらの医行為の質を保障すること」であると言われている。
MCは、オンライン・メデイカル・コントロール(直接的MC)とオフライン・メデイカル・コントロール(間接的MC)に分けられる。
前者は、救急隊等の現場活動に際し、医師が対面しながら、または電話回線や無線等を通じて直接的に指示・指導・助言をおこなうものをいう。ホットラインを介しての指示等の他、ドクターカーやドクターヘリ内での共働においても直接的MCがおこなわれる。
一方後者は、事前(ガイドライン/プロトコールの作成及び研修)と事後(救急活動の検証、症例検討会・研究発表会)に分けられる。
3 直接的MC 直接的MCはオンラインMCとも呼ばれ、電話回線等により、救急救命士等に対して直接的かつ具体的に指示・指導・助言をおこなうものである。スタンフォード大学病院のLife Flightでは、基地病院であるスタンフォード大学救急部(emergency room; ER)のスタッフが、交代でヘリコプター運航管理室に勤務し、現場のフライトナースからの指示要請に対し、リアルタイムに必要な指示を与えていた。また、リーチ・エア・アンビュランス社では、ヘリコプター基地が病院ではなく空港内にあるため、近隣の基幹的病院の救急医が交代で運航管理室に常駐し、フライトナースやパラメデイックに対して必要な指示を無線で与えていた。
ちなみに筆者の施設では、千葉県ドクターヘリを運用しており、現場へ出動するのは救急専門の医師とフライトナースのチームであるため、ヘリコプターで出動したチームに対する直接的MCのシステムは必要ない。しかしながら、救急隊員等からの要請に対して、救急医が24時間体制でリアルタイムに必要な指示・指導・助言を与えるために自動録音式ホットラインを活用している。
担当の救急医が何時でも何処にいても、適切な指示、指導・助言を与える事が可能となるよう、ホットライン専用の受話器はER、ICU、HCU、救命救急センター医局ならびに当直室、ドクターヘリ運航管理室、運航クルー待機室、救急事務室等に設置してある。ホットラインの通話内容は全ての受話器で聞くことができるため、患者受け入れに関係するスタッフ全員が患者情報を把握し、共通認識を持って受け入れ態勢を整えることが可能となっている。
また、自動録音式であることから、救急隊員の教育、救急隊指導医の教育、オンラインMCの検証など、間接的MCにも幅広く利用している。この他、ドクターカー内での共働も極めて有効な直接的MCであると考えられている。
米国にはドクターカーやドクターヘリのシステムは見られないが、わが国では札幌や船橋において既に、救急救命士を始めとする消防職員と医師が、ドクターカーに同乗して現場活動をおこなうことにより、消防職員の意識、知識、技術が飛躍的に向上したと報告されている。
「命の飛行」の乗員3名。フライトナース2名とパイロット。(HEM-Net、2003.12.14)
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