更新日 2015/10/12

日本ALS協会

平成9年度 ALS基金
「在宅ALS患者におけるインターネット支援ガイド
―Macintoshの操作ガイドブック・Ke:nxのスキャンキーボードの作成―
The Internet support guide in ALS patient.

研究報告書(所属は、当時のままです。)
代表研究者
埼玉県戸田・蕨保健所保健師 金森晶
共同研究者
日本ALS協会 鈴木献司
埼玉県総合リハビリテーションセンター 医療局 神経内科医長 兼 福祉局 地域リハビリテーション課長 市川忠
埼玉県総合リハビリテーションセンター 医療局 作業療法科 作業療法士 奥田澄江
埼玉県総合リハビリテーションセンター 医療局 リハビリテーション工学研究室 河合俊宏

機器情報へのクイックアクセス
Ke:nx Discover:Switch 伝の心 オペレートナビ メロディマウス(AD/HA−V) USB-メロディマウス できマウス。 トーキングパートナー ずっとeパートナー 漢字Pワード Hearty Ladder みてらCS SwitchXS
ウィルス対策は、されていますか? ご注意ください。

目的
埼玉県総合リハビリテーションセンターでは、地域への訪問リハ相談事業として在宅筋萎縮性側索硬化症患者(以下ALS患者)と関わっている。
在宅の方のコミュニケーションニーズは高く、全く周囲に対しての的確な伝達方法が無くなったという状況から始まり、呼出音を発生出来る、Yes/Noでの質問に答える・文字板を使える・透明文字盤を使える・手紙等を使って目前に居ない外部の人とのつながりがとれる、などである。
近年コンピュータを利用しての即時的なニーズが高まっている。
本報告においては、在宅支援において難渋しているコンピュータ自体の操作の補助となるガイドを作成することを目標とする。

方法
埼玉県総合リハビリテーションセンターでは訪問リハ相談事業をおこなっている。
在宅筋萎縮性側索硬化症患者(以下在宅ALS患者)のインターネットアクセスの希望に対しては個別のスイッチづくり、介護者の労力軽減に関する開発をリハビリテーション工学研究室が担当してきた。
訪問リハ相談事業が始まった当初は、ALS患者は障害が固定しているわけではないという事から、従来からのリハビリテーションの概念から逸脱した思想であるとの考えによって、ALS患者に対しての埼玉県独自の予算が無く、研究・開発には難渋していた。
ところが、ALSに関しての種々の教示をいただいている狭山神経内科病院と共同研究をすることが可能となり、平成7年度・8年度とALS基金の支援を受けることが可能となった。
平成7年度の物は、病院においての介護者の労力軽減という点で、機器開発を志向したアンケートを実際にALSに関る看護・介護者から取得することが出来た。
情報の一つの結実として、ALS患者だけに留まらない介護軽減機器として、開発を行う事が出来た。
平成8年度の物については、前年の結果を基に、ALS独自に対応する新たな機器の開発を行った。
しかしながら圧倒的に入院者よりも多い在宅者に関してのインターネットアクセスについては、電子メールやWWW (World Wide Web) アクセスという時間差・距離差を解消する道具に対するニーズが強く、個々のケースに応じての場当たり的問題解決を脱却する事が、伝統的なリハビリテーションと比べて圧倒的に情報の少ない難病であるALS患者にとっては必要と考えられた。
研究開始時は、個人的に購入可能と考えられるコンピュータを1つのスイッチで操作できるシステムが、アップルコンピュータ社製のMacintosh(以下Mac)のみであったため、文献調査・患者自身により使用を通じての問題点抽出を行った。これを「WWWアクセスまでのガイド製作」とする。
またインターネットに初めてつながった場合のきっかけとして、ホームページのアドレスリストを作成する予定であったが、日本ALS協会でもホームページを立ち上げたことが周知されてきているため、最初のとりかかりとしては、日本ALS協会のページを紹介する事で、WWWのアクセスリストの代わりとする。
これは社会背景的に、ニーズが変わってきていることの一つであることであり、研究開始時の平成9年には予測が仕切れなかったことの一つである。

結果
WWWアクセスまでのガイド製作
1.インターネットに接続する前に
昨今のパーソナルコンピュータの低価格化、高機能化によって、インターネットがより身近な物となった。ところが言葉だけが正直なところ氾濫しており、目的がはっきりとしないまま、要望として「インターネットをしたい」という表現をされる事がある。支援の一助をするものとして、非常に曖昧で、本当の要求を満たすという事が困難な点であるため、対応の必要な条件を3点列記する。
1-1.緊急時のコミュニケーション
1-2.通常のコミュニケーション
1-3.機器の限界
それぞれについての定義をする。
1-1.緊急時のコミュニケーション
機械・機器を使う以上、緊急な時には対応出来ない。また機械は必ず壊れる。
予期せぬ事態に、故障する可能性が高いという事を理解・納得する事が最低限必要である。最初の前提として、言葉では簡易であるがコンピュータに頼り過ぎるのは、非常に危険である。
しかしながら悲観的ではあれ絶望的ではない、不具合のある状態を伝える事が出来るのが機械・機器の長所であり、適切な対応さえすれば故障を防ぐ事が出来る。
機械・機器を使うのはあくまでも患者であるので、患者の確認作業だけは、ずっと必要な物である事を理解し、より自己の可能性を広げる事を望むものである。
自分の疾患・障害を適切に、自分なりの生活のリズムを適宜把握する事が、インターネットを使いこなす第一歩である。しかしこれは非常に難しい事である。なぜなら病気の進行は、誰も予測が高い確率で予想する事は出来ないからである。
1-2.通常のコミュニケーション
コミュニケーションは、側にいる人だけで成立するものではない。しかも四肢麻痺が重篤なALS患者にとって、側にいる人とコミュニケーションが取れないのは最大の悲劇であり、この状況が確立出来ない状況で、より広い世界といった意味でのコミュニケーションの広がりは絶対に有り得ない。
どんな機械よりも早くかつ手軽なので、アイコンタクト・文字盤・透明文字盤といったたぐいでの確立をする事が必要である。
我々の経験上、身近なコミュニケーションが取れないままに、インターネットへの希望が時にしてあるが、問題点の意志疎通が出来ないため、成功した事例は無い。そしてこれからも無いと確信している。
1-3.機器の限界
僅かな動き・活動を把握する事は、工業関係で利用されている技術を転用する事で、不可能な事ではない。
多くの技術の中でも、常用しているスイッチとセンサを大別すると、オン−オフという離散的な動作をさせるものをスイッチという。電気を利用した技術においては、極めて微視的に見ればすべてがスイッチ動作をしているという事になる。
見掛け状連続的な動作をさせるものをセンサという。センサの場合は動かすための電源を必要としているものが多い。
理論においては、すべての患者の状況を把握する事は可能であるが、現実としては、設置をする時間・設置のための費用負担・本人の意欲・介護力の状況によって不可能な場合が多い。
一般的には、僅かな動きを検知するのに比例して、スイッチが確実に動く位置に設置する複雑さ・困難さは増加する。

2.コミュニケーションの定義
コミュ二ケーションをとるというそもそもの定義については、疑問を持たれている方は少ないが、送り手と受け手との物理的距離に応じて場合分けをすることが必要である。
在宅では、「側に居て向き合っている人と」「同じ部屋に居る人と」「離れた部屋に居る人と」という3つに分けて考えると良い。
それぞれの場面に応じてのコミュニケーション用の道具がまず必要である。
「側に居て向き合っている人と」とは、会話・筆談・Yes/No・ジェスチャ・文字盤・透明文字盤・意志伝達装置という方法がある。
「同じ部屋に居る人と」とは側に居て向き合ってもらう必要があるため、合図・ベル・ランプによって向き合ってもらう必要がある。
「離れた部屋に居る人と」は、「同じ部屋に居る人と」と同じで、合図・ベル・ランプによって側に来てもらい、向き合う必要がある。

3.インターネットと接続するために
在宅ALS患者がインターネットを使う場合に必要なのは、インターネットに関する知識と、設定の運動機能か側にいる人への指示である。
球麻痺から進行している方の場合、取り組みが早ければ自ら機器設定・調整をしておくことは可能である。もちろん上肢型・下肢型の方でも初期段階での設定をすることはもちろん可能である。
運動機能の制限が重度になってくると、スイッチ・コンピュータに関しても知識が不可欠である。コンピュータに関しては種々の機種があるが、在宅に持ち込め・多くの方がなじみやすいパーソナルコンピュータを用いるのが一般的である。 WebTVやゲーム機でもインターネット接続をすることは可能であるが、病気の進行に応じた設定が難しいことや、今まで関わってきた中でのニーズが少ないため、本報告では省略する。同じく携帯電話による電子メールの可能性もあるが、1つのスイッチによる操作ができる物は入手出来ない現状であるので、同じく省略する。
周囲で支援する医療職がいれば、姿勢保持の観点からの支援を受けるとより良い。姿勢保持は、「座る」ということに代表される座位保持だけに限らず、寝た姿勢、画面を見るための首の保持、スイッチ操作に効率的な腕(上腕・前腕)の支持、手首の固定、手掌の保持、指の保持、スイッチ操作に効率的な足(大腿・下腿)の支持、足関節の固定・保持、足指の保持といった方法である。

4.パーソナルコンピュータの設定
パーソナルコンピュータの入手は、家電取扱店・コンピュータ専門店からと、福祉機器取扱店からとに分けることができる。
在宅ALS患者本人が、キーボードに全く触ったことが無いという場合は、株式会社日立製作所グループの「伝の心」がインターネット接続も出来る意志伝達装置であるため、選択することが現実的である。福祉機器取扱店経由になる。
「伝の心」は身体障害者福祉法に基づく日常生活用具として公費負担によって入手することが可能であるため、最寄りの福祉事務所経由で身体障害者手帳の交付を受けるのが良い。肢体不自由と共に言語障害の認定も必要なので、主治医と相談する必要がある。
キーボードに多少でも触れ、コンピュータ操作をより希望される場合は、MacかWindowsを選択する。キーボード・マウス操作ができる場合には、インターネットを使う上での大きな違いはない。パーソナルコンピュータはいろいろなことが出来る変わりに、それなりの知識・サポートが必要なので、周囲の支援者が使っている物と同じにするとより使えないという危険性が少ない。
パソコンボランティアや技術ボランティアの知り合いをつくるというのも危険回避になる。
日本障害者協議会パソコンボランティア
技術ボランティア 技術ボランティアの事務所
キーボード操作が難しい場合には、マウス・トラックボールの操作で文字入力の可能な画面表示のあるソフトウェアキーボードを利用する。市販品としてはヒシキ社の愛の文字盤がある。またシェウウェアという試用してから対価を払うという物もある。ビリカラボのトレイルソフトキーボードが有名である。
ピリカラボ

市販品としてNTTPCコミュニケーション社のイージープロローグを紹介していましたが、サイトの
NTTPCコミュニケーション社
が既に閉鎖されております通り、平成13年12月27日をもって販売中止となり、サポートも平成14年12月で終了したようです。
これらは、平成13年9月30日の日本リハビリテーション工学協会コミュニケーションSIGのメーリングリストからの情報によるものです。発信者の日向野様、ありがとうございました。

マウス・トラックボールの操作が難しくなってきた場合には、スイッチによる入力を検討する必要がある。
意志伝達装置と同様に、1つのスイッチによるスキャン方式(走査方法)が出来るのが最低条件である。スキャンとは、スイッチで自動的に文字盤を移動し始め、確定したいところでスイッチ入力すると、その文字・機能を実行することである。
1つだけでなく機能を選択・確定と分け、複数のスイッチをつなげられる物もあるので、障害の進行に応じて、支援者と決定する必要がある。スイッチの数が増えると介護者の設定がより必要となるので、兼ね合いが必要である。
キーボード・マウス・トラックボール・スイッチのいずれかを使うことで、コンピュータの機能を使うことが出来る。多くは設定を補助してくれるソフトウェア(ウィザード)があるので支持通り設定するだけでインターネット環境と接続出来る。


5.インターネットと接続出来たら
インターネットと接続する場合の多くは、WWWアクセスとE-mail(Eメール)である。
news・telnet・ftpといったものの設定もあるが、WWWとE-mailをまず活用することが必要である。メールニュース・メールマガジン・メーリングリストはEメールの応用である。


6.Ke:nx(キネックス)

7.Discover:Switch(ディスカバースイッチ)

8.伝の心(でんのしん)

9.オペレートナビ(オペレートナビ)

10.メロディマウス(AD/HA−V)

11.USB-メロディマウス

12.できマウス。

13.トーキングパートナー

14.ずっとeパートナー

15.漢字Pワード

16.Hearty Ladder

17.みてらCS

18.SwitchXS

・WWWアクセスリスト
方法で既に述べているが、我々の意図した「WWWアクセスリスト」は役割を終えている。
日本ALS協会のホームページがより充実する事を切望する。
日本ALS協会ホームページ


・コンピュータの1スイッチ操作入力用キーボードの製作
現在1スイッチでMacを操作できるKe:nxを用いて、標準外のスキャン入力用のキーボードを製作する事を目的とした。
しかしながら効率という観点から明確な解決方法が出ていないため、なぜ出来ないのかという事を書き、今後の課題としたい。
出来なかった理由は2つである。
1.単語予測
国内でも数名の先生方の報告・実践があり、海外には実用とされているシステムさえある。
しかし調査出来た範囲の中においては、システム評価として用いられた文章が本当に適切なのかという疑問を払拭出来るものがなかった。
もちろん伝の心に搭載されているように、常用していた文字板・ワープロ・著作物からの推測というメリットはあるが、通常のコミュニケーションとしてみた場合には、即時的なものは意志伝達装置に搭載するほどの必要が無く、メール等のやりとりをする場合に直接的な介護者ではないこともあって、ほとんど頻出の度合いが適切とは思えなかった。
介護者とのメールなどからの分析が出来ると可能性はあるのかも知れないが、推論を越える物では無し、具現する方法を見つけられなかった。
2.辞書の学習機能
欧米の単語予測調査をして決定的に感じるものであるが、キーボード入力が即文章になる言語を用いていない日本語においては、個々の単語入力である予測よりも、変換効率の高いかな漢字辞書を用いる方が、スキャン入力を利用する場合には、より効果的であるという感触がある。
特に固有名詞が無い文章作成を関わっている在宅ALS患者はされず、短文・固有名詞登録の登録が、入力効率をより高めていた。
スキャンキーボードの配置をするよりも、標準のスキャンに短縮した語句登録をして、変換した方が遙かに速いというのが現在の結論である。

以上の点が現存する、「あかさたな・・・」と子音行をスキャンした後に、母音列を「子音+あいうえお」とスキャンする五十音表のステップを区切った入力により効果的である方法を見出せない理由である。

平成24年6月追記
単語予測に関しては、T9 や POBox が有名で、障害者用ということで、POBoxをベースとした Pete が出ている。
辞書登録も出来る POBox の Windows版が増井先生のページにあるので、今後とも注目してゆきたい。
POBox for Windows

課題
現状として支援する物がハードウェアだけに限らずソフトウェアとしても増えてきたことは喜ばしいが、当初考えていた計画に対しては、Mac向けのKe:nxに対するニーズが相対的に低くなっている。
Macに関しては他の代替機があるわけではないので、絶対的なニーズには取り組んでいく必要性がある。
個別性を高めることで汎用性を狭めている現状ではあるので、関わる在宅ALS患者さんとよりコミュニケーションを深める必要がある。
スキャンキーボートに関しては、調査した範囲においては用いる仮名漢字変換の辞書、特に登録用語によって効率が改善するという感触であるが、科学的知見で証明し切れているわけでもない。ソフトウェアのバージョンアップとの兼ね合いをより考え、今後も対応してゆきたい。

報告書をまとめる期日を大幅に遅れたため、出来る限りの最新情報を取り入れたつもりであるが、多くの方のガイドとなるには常に更新してゆく必要がある。
当方のサイトで適宜公開してご意見を伺えればと考えているので、ご意見をいただければ幸いである。「筋萎縮性側索硬化症」「ALS基金」の予定
最後に多くの評価を頂いた患者さん、支援者である家族・療法士の皆さんに感謝する。
また最新の機器開発に僅かながらとはいえ当方の意見を取り入れてくださり、試作品評価の場として活用くださった企業の皆さんに深謝する。

共同研究者の鈴木献司氏は、平成19年4月、ご逝去されました。
今までのご指導、ありがとうございました。




なお研究代表者の職場移動のため、内容に関しての問い合わせは、以下まで。
連絡先 郵便番号 362-8567 上尾市西貝塚148-1 埼玉県総合リハビリテーションセンター 福祉局 相談部 福祉工学担当 河合俊宏(かわいとしひろ)
FAX 048-781-1552
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