霧箱キットによる α線の測定実習テキスト
 
                   武蔵工業大学 原子力オープンスクール
 
1.霧箱の原理
 密封された容器の中にエチルアルコールを入れ,底をドライアイスで冷やす。エチルアルコールの沸点は78.3℃であり,常温でもある程度は蒸発しているので,密封容器内にはエチルアルコールの気体が充満することになる。
 エチルアルコールの融点が-114.5℃であることから,底側ではドライアイスの温度が-78.5℃(昇華温度)であるため,容器の上部で蒸発した気体が冷却された底部に向かう過程で飽和状態より気体が多く存在する過飽和 状態の領域が容器内下部にできる。過飽和状態の気体はわずかな刺激で液体になる。
 この過飽和部分にα線が飛び込むと,電気を帯びたα線が空気と衝突することによって,酸素や窒素等の原子がイオンになる。このイオンを核にしてエチルアルコールが液化する。この液滴はα線の通過した後にできるのでα線の軌跡が細い線上の雲のように見えることになる。ジェット機の通過後に見られる飛行機雲と同じ原理である。
 
2.部品の確認
1)プラスチック製容器とふた
2)すき間テープ
3)ペンライト
4)容器入りエチルアルコール
5)黒い紙
6)はさみ
7)両面テープ
8)吸盤つきマントル片(線源)
9)軍手
10)ドライアイス
 
3.組立方法
1)底紙の切り取り
 防光用の黒い紙をプラスチック製容器のふたの内側の大きさより少し小さい程度に切る。この紙(黒い面が上)をふたの内側に両面テープで簡単(1cm程度の長さで5箇所ぐらい)に止める。
 
2)すき間テープの取り付け
 すき間テープをプラスチック製容器の内側に合う長さで切り,容器の底(ひっくり返すので上になる)の側面に沿って貼る。
 
3)吸盤の取り付け
 プラスチック製容器の底の中央に吸盤を取り付ける。針金に刺したマントル片(線源)が3cm程度の高さになる。
 
4.観察準備
1)エチルアルコールの注入
 取り付けた すき間テープに均等にエチルアルコールを注入する。
 
2)ドライアイスで冷却
 軍手をはめ,ドライアイスを布の上に置く(凍傷に注意)。
 プラスチック製容器をふたをして,上下逆さまに,ふたを下にして,ドライアイスの上に置き,ふたの部分を冷やす。3分間程度放置する(ふたがドライアイスに良く触れていないようならば,おさえておく)。
5.観察方法
 室内を暗くして,プラスチック製容器の横からペンライトの光を当てる。マントル片から帯状の霧が放出されるのが見える。これがα線の飛跡である。
 
 飛跡が観察されない場合の主な原因
a)エチルアルコールの注入量が少ない→逆さまにして,ふたを開けて,素早くエチルアルコールを注入する。
b)ふたがよく閉まってなく,密封性が悪い→黒い紙が大きすぎたのならば,小さくする。
c)マントル片の位置が悪い→針金を引っ張って,マントル片を少し下げてみる。
6.線源について
 キャンプ用のガスボンベを燃料にしたランプ(ランタン)は網目状のガラス繊維でできたマントルを芯に使用する。
 マントルの発光効率を向上させるために,一部のメーカーではごく微量のトリウムをマントルに含浸させてある。トリウムは放射性物質であるが,法令で規制を受けない量であり,ホームセンターなどで売られている。
 トリウム(232Th:半減期141億年)は放射性で,次々に壊変していく。これをトリウム系列という。トリウム系列の気体の放射性元素であるラドン(Rn)はマントル片から出て周りの空気中に存在することになる。
 このトリウム系列のラドンは220Rnであり,通称トロン(Tn)と呼ばれ,半減期は56秒である。放出されるα線のエネルギーは6.3MeVである。壊変後は220Rnは放射性の216Poになる。216Poの半減期は0.15秒であり,放出されるα線のエネルギーは6.8MeVである。これらのα線の飛跡が霧箱の中で観測されている。
 V字型の飛跡が見えることがあるが,これは連続発射されたもので,詳しく観測すると,やや短い飛跡が先に現れ,ほんの一瞬(0.15秒位)遅れてやや長い飛跡が現れる。どうして,このような特徴が現れるのだろうか。(ヒント:飛跡の長さはα線のエネルギーに比例する。)
 
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     http://www.geocities.co.jp/Technopolis/9262/kiribako.htm