増毛の波力発電

(メールマガジン「海の関係者」に連載)



増毛駅

 先日「鉄道員(ぽっぽや)」が映画のいろいろな部門で受賞したという新聞記事を 目にした。高倉健や大竹しのぶ、広末涼子らが好演した昨年の話題の映画だ。舞台は北海道の幌舞駅。列車が着くと「ほろまい、ほろまい」と高倉健が言うシーンが何回か出てくる。幌舞の駅名を時刻表で調べてみるが見当たらない。それもそのはず。それは実在しない駅名で、実際のロケは根室本線の幾寅駅で行われたらしい。

  かなり古くなるがやはり北海道を舞台に「駅・STATION」という映画があった。そのロケ現場が増毛(ましけ)駅。留萌本線の「終着駅」である。札幌から旭川に向かう途中の深川から日本海側に突き当たった留萌からさらに日本海に沿って左に
折れた先に、増毛駅はある。

増毛港の防波堤で、波力発電が行われていたことがあって、私はその見学のため、ディーゼルカーに揺られて行くこととなった。それは秋も深まる頃。泊まった駅前の小さな旅館ではもう「だるまストーブ」が焚かれていた。このシーズンにこの辺りを訪ねる人は珍しいらしく、その日旅館に泊まったのは私ひとりだった。



エネルギー科学館
 「よく来たねえ。ゆっくりして行って…」

 北海道の人は口数は少ないが暖かみがある。私の率直な印象だ。挨拶を済ませ、重い荷物を旅館に置いて、早速「エネルギー科学館」に行ってみることにした。何でも 当時の増毛町の町長さんが新エネルギーの導入に熱心で、町の施設を建てる際に太陽や風力、波力、中小水力などの新エネルギーを利用する構想を取り入れたり、「エネルギー科学館」を建てたり、ということだった。今でこそ北海道のあちこちで風力発電の計画がされているが、当時としては増毛町が最先端をいっていたように思う。



 地図を広げれば分かるのだが、増毛の町は南側に標高1491mの暑寒別岳(しょかんべつだけ)がある。そこから流れだす暑寒別川は増毛の町を通って日本海へと流れ込んでいる。「エネルギー科学館」は町から少し山の方に寄ったところにあった。



防波堤の航路標識
 増毛エネルギー科学館には魚眼レンズのような太陽の光を集める装置があったり、2枚羽根の小型の風車が回っていた。この小さな町に本格的な展示物が揃っているものだと感心をしてしまう。「海」に関係するものとしては、潮汐発電、海洋温度差発電、そして波力発電の仕組みについての説明パネルなどが展示されていた。とくに、H造船が提供したのではないかと思われる増毛港にある波力発電の展示パネルが目をひいた。

 翌朝、増毛港の波力発電装置を見せてもらう。予め町の担当課の方にお願いをしてあったので、普段鍵のかかっている防波堤の中にも入れてもらうことができた。そして防波堤の先端の方にある装置のところまでご案内をいただいた。途中、赤く塗られた航路標識があった。冬の厳しい波に洗われたのであろう。コンクリートの標識はか
なり傷んでいた。


 増毛港の防波堤の外海側には大きな消波ブロックが置かれている。冬は日本海の荒波がまともに押し寄せる場所にあるからだ。しかし波力発電装置のある周辺にだけは消波ブロックはなく、前があいている。波力発電装置の組み込まれているケーソンの外海側には超音波波高計が固定されていていた。
 増毛の波力発電について簡単にいえば、波のあるプールなどでもお馴染みの波を起す装置の逆の原理で電気を起こす。つまり波のプールでは、電気の力でモーターを動かし、油圧を変化させて造波板を動かして波を起こしているが、ここの波力発電はその逆で、波の力で板を動かし、板が動くことで油圧を変化させ、それを電気に変換することになる。

 装置を上の方から覗き込むと、重そうな厚い鉄板が波の周期に合わせるように前後に動いていた。穴があけられているその鉄板は2代目とのこと。最初は、穴のない鉄板だったが、大波の時にトラブルがあって、改良が加えられたようだ。穴をあけると鉄板の後ろ側にも海水が入り込み、それが鉄板を前に戻す力になるんだ、そのように私は理解した。波の大きさに応じて後ろ側に回り込む海水の量も変わってくるので、うまくバランスが保たれるのかも知れない。

 油圧は「はずみ車」のような仕掛けによって滑らかな動きで発電機を回す仕組みになっている。そこで起きた電気は、そこから約450メートル、防波堤に沿って這わせた送電線によって、防波堤の付け根にある漁民センターへと送られていて、給湯器のお湯を沸かしていた。

 もともとの発想は町の漁師の人たちに、海が荒れた時に漁村センターでゆっくり風呂に入ってもらおう、ということだったようだが、海の男たちが一番風呂に入りたいと思う時は、実は漁から帰ってきてからということなので、なかなかうまくいかないものだ。漁が出来るような波の穏やかな時には、波力発電装置はフル稼動していないということだ。
                                (完)

 注) ここに掲載している内容は当時のもので、現状とは異なる部分があるかも知れません。予めご了承ください。

増毛港


スリットケーソンから海水が出入りする

  
     受圧板    漁村センターの給湯器


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