EBI (Evidence-Based Investment)の基礎(2)

3.ディストレス・リスクのファクターの有効性について

(1)ディストレス・リスクのファクター

低ディストレス・リスク銘柄の平均リターンは、インデックスのリターンを上回る

ディストレス・リスクのファクター運転資本/総資産、有利子負債/総資産、予想純利益/総資産、予想経常利益/負債)は、PERやPBRなどのバリュー系ファクターとは独立したファクターである

ディストレス・リスクのファクターとしては、ROD(予想経常利益/負債)が最もよくリターンを反映している

(A)米国株での検証

ディストレス・リスクのファクターーとしては、Z-scoreとOhlson's scoreが代表的です。ここでは、Ohlson's score (O-score)を用いた検証を示します。

O-scoreは、倒産リスクや不振リスクなどデフォルトやクレジットに関するリスクの定量化のために計算されたモデルで、数値が低いほど財務不振に陥る可能性が低いことを示します。運転資本/総資産有利子負債/総資産予想純利益/総資産予想経常利益/負債(ROD)などが、O-scoreを計算するために使われます。

NYSE、Nasdaq、AMEXに上場している全銘柄をO-Score、PBR別に分類し倒産に陥る率を、1965年から1996年まで調べたもの 。O-Scoreが高いほど、倒産確率は高くなる(Griffin and Lemmon)。

上のグラフから言えることは、

@ PBRに関係なく、O-scoreが高いほど、倒産確率が高い

A 高O-scoreの銘柄においてのみ、PBRが高いほど倒産確率が高くなる

この結果から、伝統的ファイナンスの説明、「低PBR銘柄の高いリターンの源泉は、ディストレス・リスクに起因するリスク・プレミアムである」は誤りであることが明らかです。実際には、高PBR銘柄のほうが、ディストレス・リスクは高いのです。

(B)日本株での検証

日本株では、ディストレス・リスクのファクターとしては、ROD(予想経常利益/負債)が最もよくリターンを反映しています(data not shown)。RODとリターンとの関係は下図のごとく、RODが高いほど、リターンがよくなっています。

なお、理論上、有利子負債がゼロの企業は、株主資本コストが相対的に高くなるので、投資収益性のハードルが高くなります。有利子負債を低金利で調達できる環境下では、借入金などのレバレッジを多少増やしたほうが資本コスト上有利になります。

上のグラフは、東証一部に上場されている企業(金融を除く)をRODで5つのグループにランク分けし、1995年から2002年までの月間パフォーマンスを測定し、年率に換算したもの。RODは、1が最も高く、5が最も低い(AMSUS)。

(2)ディストレス・リスクおよびバリュー系ファクターとリターンとの相関

1.高PBR銘柄においては、O-scoreが高いほどリターンが低くなる

2. 高PBR銘柄も、低PBR銘柄も、RODが高いほど、リターンがいい

3. リターンは、高ROD・低PBR高ROD・高PBR低ROD・低PBR低ROD・高PBR の順によい

4. リターンは、高ROD・低PER>>高ROD・高PER低ROD・低PER低ROD・高PER の順によい

(ROD、PBR別に、上位20%および下位20%のクラスについて検証したもの。赤字は平均値、中央値ともにインデックスを上回る。緑字は平均値はインデックスを上回るが、中央値はインデックス以下。青字は平均値、中央値ともにインデックス以下)

(A)米国株での検証

NYSE、Nasdaq、AMEXに上場している全銘柄をO-Score、PBR別に分類し1年後のリターンを、1965年から1996年まで調べたもの(Griffin and Lemmon)。

上に示した、米国株での検証から、高PBR銘柄においては、O-scoreが高いほどリターンが低くなることがわかります。低PBR銘柄においては、リターンはO-scoreの高低に関係しません(有意差なし)。

(B)日本株での検証

東証一部に上場されている企業(金融を除く)をPER、PBR, RODで5つのグループにランク分けし、1995年から2002年までの月間パフォーマンスを測定し、年率に換算したもの。PER、PBRは、1が最も低く、5が最も高い。RODは、1が最も高く、5が最も低い(AMSUS)。

4.収益性のマーカー(ROE、ROA、マージン)の有効性について

高ROA、高マージン銘柄の平均リターンは、インデックスのリターンを上回る

ROE、ROA、マージンは、バリュー系ファクターおよびディストレス・リスクファクターとは独立したファクターである

1. リターンは、高ROE・高ROD低ROE・高ROD>>高ROE・低ROD低ROE・低ROD の順によい

2. リターンは、高ROE・高マージン低ROE・高マージン>>低ROE・低マージン高ROE・低マージン の順によい

3. リターンは、高ROD・高マージン>>低ROD・高マージン低ROD・低マージンの順によい(高ROD・低マージンは該当銘柄なし)

(ROE、ROD別に、上位20%および下位20%のクラスについて検証したもの。赤字は平均値、中央値ともにインデックスを上回る。緑字は平均値はインデックスを上回るが、中央値はインデックス以下。青字は平均値、中央値ともにインデックス以下)

ROE=純利益/株主資本
ROD=経常利益/負債
マージン=営業利益(または経常利益または純利益)/売上高

ROAは、@分子に税引き後純利益を用いる場合と、A事業利益(営業利益+受取利息・配当金あるいは経常利益+支払利息・割引料)を用いる場合があります。@は、分母(総資本)に負債が含まれているのに、分子は利払い後の利益が使われており、分子と分母の対応関係を欠いていますが、一般に@を使う場合が多いようです。

Aの定義のROAにおいて、ROE(純利益/株主資本)=[ROA+(ROA-i)×D/E]×(1−T)、(但し、D=負債の簿価、E=株主資本の簿価、i=負債利子率、T=法人税率)という関係があり、ROAが負債利子率(i)を上回る限り、負債の株主資本に対する割合が高いほどROEが高くなります(財務レバレッジ効果)。ふつうはROAは負債利子率(i)を上回ることが多いが、不況時ではROAが負債利子率(i)を下回ることもあり、その場合は負債比率の高い企業ほど急激にROEは低下します(負のレバレッジ効果)。

日本株の検証での検証結果を下に示します。

東証一部に上場されている企業(金融を除く)をROE, MARGIN, RODで5つのグループにランク分けし、1995年から2002年までの月間パフォーマンスを測定し、年率に換算したもの。ROE, MARGIN, RODは、1が最も高く、5が最も低い(AMSUS)。

上に示した、一連のグラフから、ROE、マージン、RODはたがいに相関のあるファクターですが、どれか1つ(あるいは2つ)だけで投資判断するすることは、間違った判断になることがわかります。

しいて、重要度の順をつければ、ROD>マージン>ROEの順になると思われます。

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