EBI (Evidence-Based Investment)の基礎(3)

5. アナリストによる格付けについて

アナリストの買い推奨銘柄のリターンは悪い

アナリストの推薦株、証券会社の推薦株、ニュースレターの推薦株は、いずれもインデックス以下のリターンしかあげられないことが実証されています。

最近の東証1部上場企業における研究でも、最高位のレーティングの銘柄の株価のリターンは、TOPIXを2.3%(年率)下回り、逆に最低位のレーティングの銘柄の株価のリターンはTOPIXを11.4%(年率)上回ったことがわかっています(栗田)。つまり、本来のレーティングの意味とは逆に、「買い推奨」銘柄は買わず(保有していれば売り)、「売り推奨」銘柄を買ったほうがリターンがよくなる可能性が大です。

行動ファイナンスの立場から上記のことを説明すると、コントラリアン投資を実行するときに発生する心理的に緊張を緩和するために、低PERと同時に「レーティングが高い」ということを投資家が併用しているとするならば、その分だけロングバイアス(保有に偏っている状況)が掛かってしまうと考えられます。

低PERに放置され、かつレーティングが高くない(もしくはレーティングが低い)ような「誰にも見向きもされていない銘柄への投資」という行動を採った場合、多くの投資家が「低レーティングで低PERというオンボロ株」を避けてしまいがちになることを反映して株価は大きくディスカウントされており、その結果期待リターンは高くなるのではないか、と推察されます。

(註)新興市場では、上記の結果とはやや異なった結果(レーティングの絶対的な水準とリターンは正の相関がある)が得られています。


リスキー・シフトとコーシャス・シフト

集団思考によるバイアスも問題になります。凝集性の高い集団の中では、そのメンバーが集団の決定にとって重要な情報を適切に処理しそこなうことがしばしば観察されます。一般的には、個人の意見より集団の意見のほうが中庸になると考えられがちですが、Stonerによると、アナリストなど類似した態度・考えをもった個人が集まった討議による意志決定は、一人での意志決定に比べて、常により冒険的な性格を帯び、危険な決定になる傾向があると言われています(リスキー・シフト)。例えば、グループ内の各メンバーの意見が「まあまあよい」と言う場合、集団で討議すると、話し合いの後には集団の意見としては「絶対にいい」になりがちです。つまり、話し合いにより、メンバー同士が話し合い以前から持っていた共通認識がより強調され、その一方メンバーが個別に持っているユニークで私的な情報は過小評価され、その結果グループ全体としては方向は同じでも、その強度が強化されます。

リスキー・シフトという現象がなぜ起こるのかということについて、誰も集団決定について個人的に責任を負わなくてもよくなる責任が拡散される過程によりリスキーな選択が行われやすいという考え方、あるいは個人は自己をより望ましいものと知覚したいという動機を持ち、他者の自分よりも極端な意見を知ることにより自分の意見をより望ましくしようとより極端な意見を表明するようになることなどが考えられます。それが集団内の各メンバーに起こり、結果として集団全体の意見が極端な方向へシフトします。またこのような冒険的な選択をする人は、社会的状況ではリーダー的要素を備えていることが多いということも、集団の討議でリスキー・シフトが起こりやすい一つの要因です。

不確実性が高い中で判断を下さなければならない時、集団全体にストレスがかかり、集団内部での意思統一が強く求められます。メンバーが個人的な疑問を抑圧し、他メンバーに対してその批判的思考をさえぎる「満場一致の幻想」や自分がグループの一員として行動・発言をしているか、集団から逸脱していないかを見る「自己検閲」などがこの傾向を一層顕著なものにします。そして、このような状況下では集団の判断が誤りであることが判明した場合、その修正が遅れ、また修正されたとしても、小幅になり、予想の修正は複数回に及ぶことが多いこともこれにより説明されます。

一方、冒険的ではなく慎重的な(コーシャスな)考えを主張する「コーシャス・シフト」という反対方向へのシフトが起きることも指摘されており、リスキー・シフトとコーシャス・シフトとあわせて「集団極性化」と言われています。つまり、「集団で討議をする」ということは、結果がよい方向へ出ることもありますが、逆にとても危険な方向へ出ることもあり、集団の決定の質がしばしば個人の決定の質よりも劣ることがあることは認識しておく必要があります。

6.業績予想修正の方向性についてー万年割安株を掴まないために

● 割安性のファクターと業績予想修正

(A) 米国株

NYSE、Nasdaq、AMEXに上場している全銘柄をO-Score、PBR別に分類し業績予想修発表後3日間のリターンを、1971年から1996年まで調べたもの(Griffin and Lemmon)

上のグラフでわかるように、高PBR銘柄はO-scoreに関係なく、業績予想修正の発表後リターンが下がっています。高PBR銘柄に対して、「楽観的な予想」に基づいてつけられた株価が業績予想修正(その多くは下方修正)により、適正な水準に訂正されることを示しています。一方、低PBR銘柄は、「悲観的な予想」に基づいてつけられた株価が業績予想修正(その多くは上方修正)により、適正な水準に訂正されます。

(B) 日本株

上のグラフは、東証一部に上場されている企業(金融を除く)をPERで5つのグループにランク分けし、低PERの2グループと高PERの2グループにおいて、東洋経済新報社の業績予想の修正回数を調べたもの(1995年から2002年まで)。

高PER銘柄では下方修正が多く、低PER銘柄では上方修正が多くなっています。

東証一部に上場されている企業(金融を除く)をPERで5つのグループにランク分けし、東洋経済新報社の業績予想の修正の発表後1ヶ月のリターンを見たもの(年率換算)(1995年から2002年まで)。PERは、1が最も低く、5が最も高い。REVISIONは1が大幅上方修正、2が小幅上方修正、3が修正なし、4が小幅下方修正、5が大幅下方修正。

上方修正により株価は上がりますが、その程度は低PER銘柄で強く、下方修正による株価下落も低PER銘柄では軽度です。

上のグラフは、業績修正がリターンに与える影響をPBRおよびPER水準別に見たものです。90年以降の年率換算TOPIX超過リターンを表しています。低PBR銘柄も低PER銘柄も、上方修正では勿論ですが、下方修正でもTOPIXに対して、超過リターンがあることが注目されます。高PBRおよび高PER銘柄では、上方修正されても、TOPIX以下のリターンしかあげられません

業績予想訂正による株価の修正は、短期だけでなく、3ヶ月にわたり持続することが、日本株での検証で実証されています。また、下方修正の場合のほうが、上方修正の場合よりも、より長い期間影響が持続します。

アナリストには保守性のバイアスあるいは自信過剰バイアスがかかっているので、上方(下方)修正する場合も控えめになる傾向にあります。

TOPIX Large100採用銘柄に限定したものですが、業績予想修正後の再修正の確率を調べたレポートがあります(栗田昌孝、BNPパリバ証券、2004)。それによると、営業利益予想の最高値が上方修正された銘柄はその後4週間以内に78%の確率で再度上方修正がされます。下方修正は5%です。コンセンサス予想が修正された場合も、64%が再度上方修正されます(下方修正は8%)。営業利益予想の最低値が上方修正された場合でも、58%が上方修正されます(下方修正は8%)。

逆に下方修正の場合は、営業利益予想の最低値が下方修正された銘柄はその後4週間以内に81%の確率で再度下方修正がされます。上方修正は14%です。コンセンサス予想が修正された場合も、66%が再度下方修正されます(下方修正は27%)。営業利益予想の最高値が下方修正された場合でも、56%が下方修正されます(下方修正は36%)。

中でも、売上高と営業利益の両方が上方修正(下方修正)された場合、今期と来期の営業利益が上方修正(下方修正)された場合は、ビジネスの発展(衰退)が著しく、続いて上方修正(下方修正)される確率が高くなっています。

多くの投資家は企業の輝かしい過去の収益あるいは不振続きだった過去を外そうして将来を見る傾向にあるので、楽観主義あるいは悲観主義に偏りがちです。過去の業績が好調だった企業は今後もその好調が続くと考え、不調だった企業は今後も不振が続くと考えがちです。

その結果、過去の業績が好調な企業は実態以上に高く評価され、株は買い進められ、PERが上昇します(自信過剰バイアス)。一方、不振企業の株は売り込まれます。しかし、実際には企業間競争により、好調だった企業の業績はやがて落ち、不調だった企業の収益が伸びることが多く、高PER銘柄は下方修正の頻度が高く、逆に低PER銘柄は上方修正の頻度が高いのです。

「大胆者」のアナリストの業績予想修正が大きなリターンをもたらす

さらに詳しく見ると、アナリストの業績予想の変更は一斉に行われるわけではありません。例えば、「中立」で一致していたレーティングの銘柄について、その中からレーティングを上げる先行者が出てきた場合、彼は多数意見に反する意見を表明するわけですから非常に強いストレスを感じるはずですが、その同調圧力に打ち勝つだけの新たな情報を独自に入手し自らの「大胆な」予想を確信していることになります。

Clementは、前回の自分の業績予測より上方修正(下方修正)し、かつコンセンサス(平均)予想より高い(低い)業績修正予想を出したアナリストを「大胆者」と定義した上で、最初に業績予想の修正を行う「大胆者」は、過去においても遅れて修正を行う「追随者」より業績の予測能力が高く、またその後の予想の精度も高いことを実証しています。そのような「若い上方修正」銘柄を選択した場合に高リターンが望めます。この点はDanielとTitmanも初期の勝者株が末期の勝者株をアウトパフォームすることを示しています。

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