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自衛隊の災害派遣について知ることのできるページ

目次

FAQ

最終更新日2006.10.1

災害派遣の目的はどのようなものですか?

 災害派遣は戦災を除く災害発生(発生しようとしている)時に人命又は財産の保護のための活動を行うことで、「公共の秩序の維持」を実現することを目的としています。

 このことは、自衛隊法第3条(必要に応じ、公共の秩序の維持に当るものとする。)と災害派遣を規定する第83条が自衛隊法第6章(自衛隊の行動)に規定されている関係からこのように解釈します。

災害派遣はどのような仕組みで行われますか?

 災害派遣は原則として「知事等から要請」→「災害派遣」→「知事等から撤収要請」→「撤収して災害派遣終了」という流れで行われます。

要請の流れ(防衛白書平成17年版)

要請の流れ(『防衛白書』平成17年版より)

 なお、詳細については自衛隊の災害派遣とは「基本編」にて確認してください。

災害派遣が始まったのはいつですか?

 公式には昭和26年10月ルース台風の被害に見舞われた山口県に、当時山口県小月に駐屯していた警察予備隊の第11連隊が災害派遣されたのが初めてす。当時は「災害派遣」という制度がなく警察予備隊令第3条1項の警察予備隊は、治安維持のため特別の必要がある場合において、内閣総理大臣の命を受け行動するものとする。という規定に基づき吉田首相の命令を受け出動したとされます。(警察予備隊としても初めての公式出動)

 ただし、非公式なものとはいえ防衛庁が編集した『自衛隊十年史』には、これ以前に福知山、善通寺の部隊が派遣されたとの記述もあります。

 また、戦前にも軍が内地・外地問わず災害時の救援活動を行った記録が残っています。

では、災害派遣という制度はどのようにしてできましたか?

 災害派遣は警察予備隊が「治安維持のため特別の必要がある場合」に行動していたのが始まりでした。もともと規定もなかったので昭和27年(1952)3月に「準拠」が示され、これに基づき行われるようになります。

 法律上明文化されたのは昭和27年(1952)7月の保安庁法成立時です。このときは武器を使わずもっぱら人命救助という手段で治安維持を行うから制度を「狭義の治安出動」と「災害派遣」に分け、積極的に活用しようようという考え方により法律上明文化された規定として制定されます。

 昭和29年(1954)6月の自衛隊法成立時にはいわゆる「自主派遣」に関する規定が追加されます。このときもより積極的な災害派遣を行うべく規定が設けられましたが、その後の政治的な対立の中で「自主派遣」の規定は事実上効力のない条文とされてしまいます。この規定が実効性あるものとなるのは阪神・淡路大震災(1995年)の後まで待たなくてはなりません。

 昭和53年(1978)東海地震対策のために「大規模地震対策特別措置法」が成立しこれに伴い自衛隊法も改正され「地震防災派遣」という制度ができました。「警戒宣言」が出されたら「地震災害警戒本部長(首相)」が地震発生前でも自衛隊の派遣(地震防災派遣)を要請できますが、この法律に基づく要請は2006年8月現在までで一度もありません。

 平成7年(1995)の阪神・淡路大震災で自主派遣すべきと思われた被害に対し、「近傍派遣」や訓練名目での派遣等が行われたため、「自主派遣」に関心が集まり、災害対策基本法や防衛庁防災業務計画で運用基準の明確化が図られました。

 平成11年に茨城県東海村のウラン加工工場で発生した臨界事故の教訓を踏まえ、「原子力災害対策特別措置法」が制定され、これに伴い新たに「原子力災害派遣」という制度ができました。これは「原子力災害対策本部長(首相)」が自衛隊の派遣(原子力災害派遣)を要請できるしくみですが、この法律に基づく要請は2006年8月現在までで一度もありません。

 平成16年には自衛隊が災害派遣を行っている現場において、政府の要請に基づき災害応急対策のための活動を行う合衆国軍隊に物品・役務の提供できるようになりました。この法律に基づく提供は2006年8月現在までで一度もありません。

災害派遣要請は都道府県知事による文民統制を期待したものだと聞きましたが本当ですか?

 「都道府県知事による文民統制を期待した」という解釈は災害派遣の歴史的にも法的にも正しくありません。当初災害派遣(警察予備隊の「出行」)は当初知事どころの話ではなく、内閣総理大臣の命令が無ければ出来ないものでした。(警察予備隊令第3条)最初の災害派遣であるルース台風災害ので、台風通過から(昭和26年10月14日)「出行」(昭和26年10月20日)まで、わずか300名の派遣にもかかわらず当時の吉田首相の命令を得るまで6日もの時間がかかったのです。

 その後、保安庁法や自衛隊法の整備が進められる中で、現在の自衛隊法第6章(自衛隊の任務)に相当する規定の中で「災害派遣」は非常に簡易に実施できるように定められました。具体的には防衛出動以下他の任務が内閣総理大臣もしくは防衛庁長官を命令権者として規定する中で、災害派遣のみが唯一「長官又はその指定する者」として自衛官に命令権を委任しています。また、当時の国会での答弁を見ると「便利だし、武器も使わないから」という旨の答弁がなされ「災害派遣」についての反対意見もありませんでした。

 委任された自衛官の地位も限りなく低級のものに及びます。通常は駐屯地司令など2佐以上。近傍派遣については、「この際、部隊規模はいかに小さくてもかまわない(班、分隊等でも可)。」(陸上幕僚監部『災害派遣の参考』平成12年 1-11)とされており、理屈上は少年工科学校卒業したての19歳の3曹が災害派遣を命じることも可能なのである。さらに昭和29年の自衛隊法成立時には「自主派遣」に関する規定がもうけられ、「ただし、天災地変その他の災害に際し、その事態に照らし特に緊急を要し、前項の要請を待ついとまがないと認められるとき」や近傍派遣の場合は部隊の社会的義務として要請がなくても災害派遣できるように法は整備されました。現在では災害発生日に大規模な災害派遣が行なわれることも珍しくありません。法の趣旨はあくまで「簡易に派遣し役立てる」なのです。

 また自衛隊法上災害派遣の要請の有無によって都道府県知事等が自衛隊の行動を規制することは出来ません。(物理的に出来ないのではなく法律上できない)「その指定する者」(自衛官)はたとえ都道府県知事の要請がなくても法律上は部隊を派遣し撤収させることが出来ます。

 自衛隊の災害派遣に関する訓令第16条では「都道府県知事等から撤収の要請があった場合速やかに撤収を命じなければならない」旨定めていますがこれはあくまで防衛庁長官の訓令であるので、都道府県知事による統制とは言いがたいのです。訓令同条第2項で大規模震災の派遣では撤収要請の有無にかかわらず長官の命令により撤収することが明示されています。都道府県知事等の「要請」は自衛隊の行動への強制力を伴うものではないのです。

 災害派遣における文民統制、つまり自衛隊の行動を抑制するものは、直接的には災害派遣すべき様態、つまり自衛隊法第83条第1項「天災地変その他の災害に際して、人命又は財産の保護のため必要があると認める場合」および第2項の「ただし、天災地変その他の災害に際し、その事態に照らし特に緊急を要し、前項の要請を待ついとまがないと認められるとき」と災害派遣時の権限、つまり自衛隊法第94条1、第94条3、第94条4に示される警察官職務執行法や災害対策基本法の準用許可という形での国会からの統制と国務大臣たる防衛庁長官による命令により行なわれていると考えることが妥当であり要請という部分に直接的な文民統制は期待されていないのです。

では災害派遣を行なう際に原則として要請が必要なのはなぜですか

 災害派遣の要請が文民統制のためのものではないとしても都道府県知事等の「要請」が重要であることには変わりありません。災害派遣が都道府県知事等の要請を原則とする理由は次のようなものです。

  1. 災害応急対策に関する第1次的責任を有する機関であること
  2. 当該地方の実情及び災害の状況をもっとも把握していること
  3. 警察・消防といった都道府県及び市町村の他の災害救援能力を承知していること
(陸上幕僚監部『災害派遣の参考』平成12年 1-3)

 一方「陸上自衛隊の災害派遣に関する達」第8条では「要請を受けるいとまがない場合の措置」について以下のように示されています。

  1. 事態が人命の緊急救助に関するものであり、かつ、市町村長又は警察署長等からの通報に接した場合は、速やかに部隊等を派遣し救助措置を行う。
  2. 要請を待つことなく派遣を行うに当たっては、関係公共機関と緊密に連絡するとともに、努めて事後都道府県知事等の災害派遣要請文書の受理の措置を行う。

 上記の趣旨は、災害派遣を迅速に行なうこと、災害派遣を行なう公正な根拠を明らかにすること、事故発生時において恩給、叙位、叙勲、補償に関連して防衛庁以外の国の機関との調整において自衛隊法第83条第2項但し書きによる部隊の行動であることを明示することです。(陸上幕僚監部『災害派遣の参考』平成12年 2-5-5)

 災害派遣の「要請」が重要視される理由は客観的に見て災害派遣されるべき状況かどうかを確認するためのものであるといえるでしょう。

災害派遣専用部隊はありますか?

 災害派遣専用の部隊というのはありません。ただし、海上自衛隊第71航空隊(救難飛行艇を装備)のように本来は海上で故障や破壊された飛行機・艦船等の乗員を救助するために創設された部隊が、幸い平和なためにもっぱら洋上の船舶の急患・遭難者の救助、小笠原諸島の急患輸送に活用されている例があります。(岩国基地の訓練用シミュレーターには父島での急患輸送を訓練できるプログラムも用意されていました 平成13年時点)

災害派遣専用の装備はありますか?

 災害派遣専用の装備としては「人命救助システム」があります。「人命救助システム」は民生用の救助用資機材1個連隊(400人)分をコンテナに収納し、全国で50セット以上を各地の駐屯地にに保管しています。詳細は災害派遣ものしり事典でご確認ください。

 また、自治体の所有物で自衛隊の装備ではありませんが、空中消火に使う水嚢(ヘリコプターから吊り下げ、空中消火に利用)を駐屯地で預かることもあるようです。

各地域で災害派遣に当たる人員はどれくらいですか

地上からの場合

 陸上自衛隊の場合、即応部隊として全国で約2,700人、実働部隊として北海道を除いて各都府県あたりに500人から1000人が配置されています。(北海道はもっと大量に配備されています)通常の災害では300人を超えて派遣が必要な事態はまれです。

 勿論これを超える被害があれば周辺地域、全国から部隊の増強を受け最大で50,000人規模の派遣ができるとされています。(陸上自衛隊の自衛官は約148,000人いますが、災害派遣されない隊員は派遣された補給・装備品の整備・訓練・施設の管理・交代要員としての待機などさまざまな任務についています。)

 海上自衛隊や航空自衛隊では地上から派遣するようなことはあまりありませんが、必要に応じて施設隊などや給水・給食部隊を派遣することがあります。また、海上自衛隊の一部の部隊(鹿屋航空基地等)は、災害発生時、陸上自衛隊の部隊が活動できるまでの間、基地の周辺地域に派遣できるよう要員を指定し、訓練をしています。航空自衛隊の一部の部隊(経ヶ岬分屯基地)は近傍災害に対する協定を地元と締結し、陸上での災害派遣を行っています。

航空機による場合

 災害派遣用として陸上自衛隊が各方面隊につき少なくとも1機以上(方面隊は全国で5個)航空自衛隊が関東地方に1機以上ヘリコプターを常時待機させています。また、航空救難(墜落した航空機の捜索救助)にあたる部隊にも航空機が常時待機していてこれらの航空機も災害派遣が必要な場合は利用されます。(平成17年版防衛白書によれば全国で30機が待機している)

艦船による場合

 応急的に出動できる艦艇を基地ごとに指定しています。

災害派遣では具体的に何をしているのですか?

 災害派遣で行うことは「人命と財産の保護」ですがその方法にはさまざまなものが存在します。

人命の保護について

 たとえば人命救助といった場合、土砂崩れ現場であれば土砂の除去、倒壊家屋ならば瓦礫の除去、洪水の川に取り残された人の救助であれば舟艇やヘリでの人員輸送といった活動がメインになるでしょう。

 行方不明者の捜索といった場合、陸上から探すなら隊員を一列に並べて、声をかけながら前進といった「山狩り」の手法になるでしょうし、海上で捜索するなら航空機や艦船から目視等で探すことがメインになるいでしょう。残念なことに場合によっては状況から見て遺体収容的な作業を行う場合でも、関係者に配慮し行方不明者の捜索とされる場合もあるようです。

 給食支援では自衛隊が本来戦場で隊員の食料を調理する装備を利用して給食を行います。ライフラインが停止していても燃料と材料があれば暖かい食事を提供できるのが特色です。また、状況が悪ければ自衛隊の非常食を配給することもあります。非常食といっても缶飯のように温めて提供できるものもあります。

 入浴支援では被災地に自衛隊の装備品である仮設浴場を設置し、被災者に入浴のサービスを提供します。入浴の効果により災害関連の死亡や疾病を予防できることが期待されます。

 医療支援は外科・内科・歯科など各種医療サービスを被災者などに提供します。

 自衛隊が保有する天幕(テント)の設置は大規模な災害において仮設住宅が設置されるまでの間の仮住まいとして、自治体等を通じて被災者個人(世帯単位で)に提供されます。季節によってはテント内にストーブが設置されます。

財産の保護について

 堤防の決壊防止や決壊した堤防の修復は主として土嚢の作成、仮設堤防の構築などて行われます。

 警戒区域等への立ち入りを支援することがあります。実際に自衛隊の車両(装甲車等)や航空機により住民の輸送を行う場合と、安全監視要員の配置のみの場合があります。また、各省庁や大学等の研究・調査要員の立ち入りも支援し災害状況の把握を支援します。

 流出原油等の回収はその物質に応じて、手作業により回収を行います。このような派遣は地域住民の生活を圧迫し、放置できない場合に限られ、回収場所は自衛隊でなければできない場所に限られます。

 豪雪の際に特定地域の除雪を行う場合があります。除雪用の器材が少なかった昔は大規模に行われたこともありましたが、自衛隊が行う作業は基本的には手作業ですので、これらの器材が普及している現在はあまり行われていませんでしたが、近年の高齢化・過疎化の進展に伴い最近は増加傾向にあるようです。

災害派遣にかかる費用は誰が負担しますか?

 災害派遣に関する費用で主要なものである人件費など大部分の費用は原則として防衛庁の経費となります。ただし、派遣部隊が現地で利用した宿舎、電話、光熱水道などの費用(これらについては通常公共施設を利用します)、災害派遣中に与えた損害の補償(適法な行動の結果与えた損失に対する補填)費用、その災害に限り特別に必要になったものについては要請した側の負担となり細部は各自治体の地域防災業務計画や災害派遣の都度締結される協定で定められます。

 その災害が犯罪行為によって発生したものであっても、その犯人に費用を請求することはありません。自衛隊の災害派遣は秩序を維持するための行動ですから、警察が犯人に捜索費用を請求しないように自衛隊も費用請求はしません。

 例外的に、海洋に流出、投棄された油濁等については一定の条件の下、法律(「海防法」「油賠法」)に基づき人件費も含めすべての経費を船舶所有者などに請求することになっています。

自衛隊を縮小・廃止して消防の増強や災害救助隊のような専門組織を作ったほうがよいのではないでしょうか。?

 災害救助ということを考えるのであれば消防の増強や専門組織を創設したほうが災害派遣よりよい成果を挙げるでしょう。(ただし予算のかけ方によりますが)

 しかし、この手の話は一般的に「自衛隊はいらないから」あるいは「自衛隊が大きすぎるから」自衛隊を削って災害派遣に頼っている部分は専門組織にさせろ。という前提に立って進められています。当然「今の自衛隊は小さすぎる」と考える人からすれば、市町村単位で無駄の多い消防をもっと大きな単位で整理して、ういた予算を自衛隊にまわせ。と考えるでしょう。

 つまり、この手の話は「災害対処」の話ではなく、「自衛隊をどうするか」という話なのです。どちらの立場に立つか決めれば答えはおのずと決まってくるでしょう。一般に主義・主張の問題ですから正しい答えはありません。

 なお、このサイトでは基本的に「自衛隊をどうするか」という話には立ち入りません(それをするといつまでたっても災害派遣の話はできませんので)のであらかじめご了承ください。

その他

 災害派遣に関する各種の記録については災害派遣ものしり事典もあわせてご覧ください。

主要参考文献

作者と連絡先