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自衛隊の災害派遣とは「基本編」

最終更新日2007.1.8

『防衛用語辞典』(真邉 正行/編著 国書刊行会)によれば災害派遣とは

 「自衛隊の行動の1つで、天災地変その他の災害に際して人命・財産を保護するため、長官又はその指定する者部隊等を派遣することをいう。都道府県知事等要請を受けて行うが、特に緊急を要すると思われる場合には、要請を待たずに行うことができる。」

と定義されている。なお、平成19年1月9日に防衛省設置法施行に伴う法改正により、「長官又はその指定する者」は「大臣又はその指定する者」と改正されている。この定義に沿って解説する前にまず、災害派遣の大前提を記載しておきたい。

災害派遣の前提

災害派遣は地域の防災能力では対処不能な事態に、防衛用の組織と装備を活用して地域を支援すること

 自衛隊・警察・消防は実力(強制力)により危機に対処する組織という一面を持っている。そして、その役割はそれぞれ異なる。

 本来地域にあって災害に対して実力を持って対処する組織は「消防」や「海上保安庁」などといった組織である。それぞれの組織は、全国に消防署や船舶、航空機を配置し、要救助者や関係者による通報、自らの情報収集により災害現場に出動し災害対処を行っている。

 一方自衛隊の行う災害派遣は原則的に「都道府県知事等」(知事のほか海上保安庁長官、管区海上保安本部長、空港事務所長)と呼ばれる特定の地域、海域、施設について防災活動に責任を有する立場のものからの要請により行われることになっている。

 これは自衛隊の災害派遣がこれら責任者の行う活動が不十分である。あるいは緊急性を要するため、自衛隊の派遣が必要な場合に限定されていることによる。自衛隊法上も災害派遣は「事態やむを得ないと認める場合には、部隊等を救援のため派遣することができる。」として極めて限定的な表現がなされている。

 とはいえ、災害派遣は自衛隊の役割のなかでもっとも簡単な手続きで実施できるものでもある。一般のものであれば大臣により指定された職にある自衛官(おおむね2佐以上)、近傍派遣であれば条件さえ整えば階級がどれだけ低くとも派遣を命じることが出来る。自衛隊のその他の任務は大臣又は首相の命令が必要とされているのに比べて極度に簡単な手続きで実施可能となっている。それは自衛隊法の前身となる保安庁法整備の過程で、武器を用いずもっぱら人命救助が主たる活動となる災害派遣が積極的に行えるようわざわざ治安出動から分離し、条文を整備したためである。

定義に基づく解説

自衛隊の行動の1つ

 自衛隊の役割には任務とされる国の防衛や治安維持、国際貢献活動、雑務とされる各種民生支援活動に分けられる。一般的に災害派遣は雑務で民生支援活動の一種と見られがち(諸外国ではそのような取り扱いが多い)である。現に防衛白書でも阪神・淡路大震災までは雑務と同じ扱いでの掲載が多かった。

 しかし、自衛隊法において成立以来災害派遣は「必要に応じて行う任務」とされ、優先度は防衛出動に次ぐ地位で治安出動、国際貢献活動などと同等にあるとされる。このことは、各種民生支援活動が自衛隊法第8章(雑則)に規定されているのに対して、災害派遣が自衛隊法第6章(自衛隊の行動)に記載されていることから読み取れる。

 災害派遣された部隊の指揮官には本来その職務を行うことができるもの(警察・消防・自治体職員等)が現場にいない場合に限り、これらの職務を行う(行うことを命じる)ことができる。権限については下記のとおり。

 また、災害派遣を命じられた3等海曹以上の海上自衛隊の自衛官には付近の船舶に協力を求めることができるとされている。(海上保安庁法第16条の準用)

天災地変その他の災害に際して人命・財産を保護するため

 自衛隊が災害派遣される対象は自然災害はもちろん、それ以外の事件や事故にも派遣される。なお、自衛隊法上の「災害」に対する定義はなく、実務上災害対策基本法の定義とも微妙に異なる。(離島の急患も災害とみなしている)また、派遣の時期は災害が発生した後に限定していない(「災害に際し」)このため、災害予防のための出動も行われている。

 なお、いわゆる「国民保護法」(「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」)第二条第四項 に規定する武力攻撃災害及び同法第百八十三条 において準用する同法第十四条第一項 に規定する緊急対処事態における災害については、適用しない。とされており、武力攻撃やこれに準じる事態における災害については、自衛隊法第77条の4国民保護等派遣で対応することになっており、これらは災害派遣の対象とならない。

 人命以外に財産の保護をも目的とするのは、災害対策基本法や消防法と同一である。災害派遣の例については次のとおり。

自然災害に対する派遣の例
阪神・淡路大震災(H7)・雲仙岳噴火災害(H3-7)・伊勢湾台風(S34)
事故やテロによる派遣の例
東海村ウラン加工施設事故(H11)・地下鉄サリン事件(H7)・近鉄大阪線特急正面衝突事故(S46)・その他海難事故、山岳等での遭難等
予防派遣の例
九州地区における風倒木の撤去にかかる災害派遣(H4)・鳥インフルエンザ(H16)
社会的欠陥の是正
離島からの急患輸送(一般的ににも災害対策基本法上も通常の疾病は災害とみなされず、離島において適切な医療サービスを提供することは地方公共団体の責務である。しかし、これが提供されていないという社会的欠陥の是正を公の要請により災害派遣として行っている。これは法整備時の想定活動と異なる。 なお、災害派遣は毎年数百件実施されているが、その大半は離島からの急患輸送である。)

大臣又はその指定する者

 災害派遣の要請を受理し、派遣を命令できるのは防衛大臣又はその指定する者である。その指定するものとは駐屯地司令の職にある部隊等の長などで、この職には概ね2佐以上の階級のものがあてられている。

部隊等を派遣する

 部隊等=「機関」(学校・補給処・病院・地方連絡部など地域固定され主に後方支援等を行うもの)と「部隊」(野外において実力行動を行うもの。師団・連隊・大隊など)を総称して言う。

都道府県知事等

 都道府県知事以外で政令に定めるものは海上保安庁長官・管区海上保安本部長・空港事務長である。これは下記の根拠による。

「知事などが災害対策の第一次的責任を負っており、災害の状況を全般的に把握できる立場にあることから、知事などの要請を受けて自衛隊の派遣を判断することが最適と考えられたことによる。」(防衛白書平成13年版)

 一部にはこの規定を根拠に自衛隊の「民主的な地方自治への介入」を拒否するためのものであると解釈しているものもいるが法制定時の答弁内容からこれは誤った解釈であるといえる。。

また、災害対策基本法第68条2では、市町村長が都道府県知事に災害派遣要請をすることを要求できる。また要求ができない場合には市町村長がその旨及び当該市町村の地域に係る災害の状況を防衛大臣又はその指定する者に通知することができる。

 災害派遣実務においては災害対策基本法改正前より、市町村長等が災害派遣要請を出すよう都道府県知事に依頼し、これを受けて知事が派遣を要請するという流れが一般的である。阪神・淡路大震災を受けて改正された災害対策基本法では、市町村長が知事に災害派遣の要求をできることを明文化するとともに、緊急を要する場合には市町村長からの通知を受けて要請がなくても自衛隊が側の自主的な判断により災害派遣ができる(いわゆる自主派遣)よう法及び防衛省防災業務計画等によりその条件が明文化されている。

要請を受けて行う

 最終的に災害派遣を行うかどうかを判断するのは、自衛隊側(大臣又はその指定する者)である。ただし、要請を受けた場合これを完全に拒否することは諸般の事情(防衛政策・政治的な圧力や無医地区における急患輸送の場合は責任をもってその可否を判断できるものが現場にいないなど)により困難である。

 また、撤収(災害派遣行動を終了し部隊を引揚げること)を行うにあたっても都道府県知事等から撤収の要請を受けて撤収することが実務上の原則となっている。これは、特に大きな災害派遣の場合関係者の了解を得た上で撤収することにより撤収を円滑に行うためである。

要請の流れ(防衛白書平成17年版)

要請の流れ(『防衛白書』平成17年版より)

特に緊急を要すると思われる場合には、要請を待たずに行うことができる。

 災害派遣は都道府県知事等の要請を受けて実施することが原則であるが、災害時においては都道府県知事等と連絡が取れない事態も想定されるため、事態に照らし特に緊急を要し、要請を待ついとまがないと認められるときは、要請を待たないで、部隊等を派遣することができる。(自衛隊法第83条第2項) この規定を適用して派遣される場合一般的に「自主派遣」とよばれる。

 自主派遣はあくまで特に緊急を要する場合に行われるものなので、「できる限り早急に都道府県知事等に連絡し、密接な連絡調整のもとに適切かつ効率的な救援活動を実施するよう努める。(防衛省防災業務計画)」とされている。また、事後に要請があった場合は、その時点から要請に基づく活動を進める。

 自主派遣に関する規定は自衛隊法制定時(83条第3項)から存在したが、その後の政治情勢により事実上無効になっていた。(阪神・淡路大震災時の呉地方総監・加藤海将は要請前に救援部隊を派遣したことに対し責任を問われたときのために派遣期間中辞表をしたためていたとされ、自主派遣の無効化が自衛官の行動を強く縛り付けていた様子が理解できる)

 1995年の阪神・淡路大震災はこの中で発生し、激甚な災害が発生していたにもかかわらず現地部隊が「自主派遣」規定を適用しての本格的な災害派遣に踏み切れなかった(近傍派遣や訓練名目で派遣した)ことの反省に立ち、防衛庁の防災業務計画において判断の基準とすべき事項を下記のとおり定めた。

 近年では上記の基準に照らし、粛々と自主派遣が実施されることが多い。

主要参考文献

作者と連絡先