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自衛隊の災害派遣について知ることのできるページ

目次

急患輸送-最も頻繁な災害派遣-

急患輸送の実像

(3) 救急患者の輸送
従来、自衛隊は、医療施設に恵まれない離島などの救急患者を、災害派遣として航空機で緊急輸送してきている。平成12年度は、全体の災害派遣878件のうち560件がこの急患輸送であり、南西諸島(沖縄県、鹿児島県)、五島(ごとう)列島(長崎県)、伊豆(いず)・小笠原(おがさわら)諸島(東京都)などへの派遣が多かった。(『防衛白書』平成13年度版)

防衛白書にもあるとおり、自衛隊が行う災害派遣の中でもっとも頻繁に行われる活動、それが急患輸送である。以下に関連リンクを掲載するが、多くの離島を抱え、また、「1979年の海上における捜索及び救助に関する国際条約」(SAR条約)および関係する協定などに基づき、「日本の北太平洋における捜索救助区域は,おおむね北緯17度以北,東経165度以西の海域となり,日本からからおよそ1,200海里にも及ぶ」日本が避けては通れない任務である。

 海上保安庁パンフレット JAPANCOASTGURD p28より引用

日本の担当区域は米領のウエーク島やグアム島に近い範囲まで及ぶ

自衛隊が行う急患輸送は離島などから急患を輸送し、空港やヘリポートまで輸送し救急担任に引き渡すのが任務のようだ。ちなみに鹿児島県議会では急患輸送に関してこのような問題が取り上げられている。

平成十三年中の急患搬送の実績は、県の防災ヘリが四十件、鹿屋の海上自衛隊が五十五件、沖縄の陸上自衛隊が三十九件で、このうち沖縄の病院への搬送は二十一件となっております。
平成十三年の実績によりますと、谷山救難用ヘリ広場から鹿児島大学附属病院までの搬送時間は約十四分、鹿児島市立病院までは約十七分となっております。
ヘリポートの整備につきましては、平成四年に「鹿児島県救難用ヘリ広場検討委員会」を設置いたしまして、鹿屋海上自衛隊のヘリコプターによります飛行調査等も実施しながら、鹿児島市内の複数の候補地につきまして検討を行ってまいりました。その結果、いずれも飛行の安全性の確保、騒音等の環境問題などもありますことから、恒久的ヘリポートとしては「マリンポートかごしま」が最も適当であると判断されたものでありまして、現在その完成に向けまして最大限の努力をしているところであります。
また、谷山救難用ヘリ広場を使用するに当たりましても、ヘリコプターに添乗する医師の救急車によります搬送や災害応急業務嘱託員を配置いたしまして二十四時間体制で対応いたしますなど、可能な限り時間短縮に努めているところであります。
いずれにいたしましても、私どもといたしましては、これまでいろいろと検討をしてまいりましたが、飛行の安全性の確保や騒音等の環境問題など、それなりに問題点もございますことから、「マリンポートかごしま」に恒久的なヘリポートをつくるということにしたところであります。
今後ともさらに検討をしてまいりますけれども、なかなか難しい課題があるということも十分御理解を賜りたいと存じます。
(鹿児島県議会平成14年第3回定例会(第6日目)南徹朗議員の谷山暫定へリポートが医療機関まで遠すぎるとの質問に対する須賀龍郎知事の答弁)

急患輸送には根拠がない?

急患輸送はこのように災害派遣の中でも重要な地位を占める活動であるが、ひとつの「」がある。自衛隊が急患輸送をするときの根拠である。私自身個人的に急患輸送に反対しているわけではないので、ひとつの思索として考えていただきたい。

「謎1」急患は「災害」か?

自衛隊法第八十三条 都道府県知事その他政令で定める者は、天災地変その他の災害に際して、人命又は財産の保護のため必要があると認める場合には、部隊等の派遣を長官又はその指定する者に要請することができる。

となっているが、災害対策基本法(第2条)の災害の定義は以下のとおりである。

「暴風、豪雨、豪雪、洪水、高潮、地震、津波、噴火その他の異常な自然現象又は大規模な火事若しくは爆発その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する政令で定める原因(放射性物質の大量の放出、多数の者の遭難を伴う船舶の沈没その他の大規模な事故)により生ずる被害をいう。」

この定義でいくと事故の場合はともかく普通の急病の場合はどうやら「災害」とはいえないようである。自衛隊法には「災害」の定義はないので似たような業務を行っている消防がどのような根拠で急患輸送(救急業務)を行っているのか見ておきたい。

消防法第2条第9項

救急業務とは、災害により生じた事故若しくは屋外若しくは公衆の出入する場所において生じた事故(以下この項において「災害による事故等」という。)又は政令で定める場合における災害による事故等に準ずる事故その他の事由で政令で定めるものによる傷病者のうち、医療機関その他の場所へ緊急に搬送する必要があるものを、救急隊によつて、医療機関(厚生労働省令で定める医療機関をいう。)その他の場所に搬送すること(傷病者が医師の管理下に置かれるまでの間において、緊急やむを得ないものとして、応急の手当を行うことを含む。)をいう。

消防法施行令

(災害による事故等に準ずる事故その他の事由の範囲等)
第四十二条 法第二条第九項 の災害による事故等に準ずる事故その他の事由で政令で定めるものは、屋内において生じた事故又は生命に危険を及ぼし、若しくは著しく悪化するおそれがあると認められる症状を示す疾病とし、同項 の政令で定める場合は、当該事故その他の事由による傷病者を医療機関その他の場所に迅速に搬送するための適当な手段がない場合とする。

この法律を素直に読んでいくと、「生命に危険を及ぼし、若しくは著しく悪化するおそれがあると認められる症状を示す疾病」は災害ではないということになってしまうのです。

「謎2」急患は誰が助けるのか?

今までに「急患」はどうやら災害でないということがわかったが、もしわれわれが「急患」になってしまったとき誰が助けてくれるのだろうか。

消防法

第三十五条の五
政令で定める市町村は、救急業務を行なわなければならない。
第三十五条の六
都道府県知事は、救急業務を行なつていない市町村の区域に係る道路の区間で交通事故の発生が頻繁であると認められるものについて当該交通事故により必要とされる救急業務を、関係市町村の意見をきいて、救急業務を行なつている他の市町村に実施するよう要請することができる。この場合において、その要請を受けた市町村は、当該要請に係る救急業務を行なうことができる。
○2 都道府県は、救急業務を行なつていない市町村の区域に係る高速自動車国道又は一般国道のうち交通事故により必要とされる救急業務が特に必要な区間として政令で定める区間(前項の要請により救急業務が行なわれている道路の区間を除く。)について、当該救急業務を行なつていない市町村の意見をきいて、当該救急業務を行なうものとする。この場合において、当該救急業務に従事する吏員その他の職員は、地方公務員法(昭和二十五年法律第二百六十一号)の適用については、消防職員とする。

消防組織法

(救急業務を行わなければならない市町村)
第四十三条
法第三十五条の五の政令で定める市町村は、消防組織法(昭和二十二年法律第二百二十六号)第十条の規定に基づき、消防本部及び消防署を置かなければならない市町村とする。

ここまで見ていると、市町村や都道府県が「救急業務」することになっているもののどうも念頭においているのが「交通事故」で一部の地域では「救急業務」を行う義務がある団体がない地域もあるようだ。ちなみに「救急業務」法制化の経緯は東京消防庁のホームページに詳しい

解決の手がかり?「沖縄県内における急患輸送等の救援に関する申し合わせ

以下に引用するのは沖縄県議会平成12年 第2回 沖縄県議会(定例会) 第 5号7月7日議事録である。

(安里進議員)
1)つ、離島診療所で対応が難しい重症救急患者は医療施設の整った施設に陸上自衛隊や海上保安庁のヘリコプター等で搬送しているが、平成11年の搬送件数は何件か、またそのうち北部離島3村(伊江村、伊是名村、伊平屋村)はそれぞれ何件になっているか。
文化環境部長(宮城光男)
ヘリコプター等による離島からの救急患者の搬送実績はどうかという御質問にお答えします。
離島において対応が困難な重症救急患者が発生した場合、主として沖縄本島周辺離島から沖縄本島への搬送は陸上自衛隊に、それから宮古、石垣島周辺離島から宮古島、石垣島への搬送は海上保安庁に要請しております。 平成11年中における搬送件数は、陸上自衛隊が210件、海上保安庁が66件で合わせて276件となっております。
そのうち北部離島3村については、伊江村が1件、伊是名村8件、伊平屋村4件で合わせて13件となっております。

先ほど引用した鹿児島県の場合は年間40件の急患輸送を行っていたが沖縄県の場合は0件、調べた範囲では防災ヘリも保有していない。答弁にもはっきりと「離島診療所で対応が難しい重症救急患者は医療施設の整った施設に陸上自衛隊や海上保安庁のヘリコプター等で搬送している」とある。この謎を解く鍵は第11管区海上保安本部のホームページにあった。

沖縄県内における急患輸送等の救援に関する申し合わせ」は、答弁の「それから宮古、石垣島周辺離島から宮古島、石垣島への搬送は海上保安庁に要請しております。」という部分を裏付けるものとおもわれる。前文はLINK先で確認していただきたいが、重要な部分のみ引用しておくと、

(前文) 第十一管区海上保安本部長(以下「十一本部長」という。)と沖縄県知事とは、第十一管区海上保安 本部(以下「十一本部」という。)が沖縄県からの要請によって実施する沖縄県内における急患の海上輸送、緊急医療要員及び医療器材の海上輸送(以下「急患輸送等」という。)の救援に関し下記のとおり申し合わせる。
4 救援の要請通報を受けた十一本部は、救援区間、入出港地、離着陸地の気象、海象の状況、水路、地形の現状等巡視船艇あるいは航空機の安全運航に関する諸条件を調査、検討し、その安全性を確認したうえ救援の可否を決定するものとする。
5 沖縄県は、十一本部が行う急患輸送等に伴い同乗者及び積載物件に死亡、負傷、破損等の事故が生じたときは十一本部には、その事故に対する損害賠償等の責はないことを確認する。

この文面を見る限り沖縄県には一方的かつ重大な責任があり、第11管区海上保安本部にはほとんど(というかまったく)責任が発生しない。ということはこの申し合わせを行った背景には、「急患」を保護する責任・義務はやはり県側にあるという考えが背景にあったことになる。

終わりに-根拠が?な急患輸送は残った-

災害
天災地変その他の災害
災害でない
生命に危険を及ぼし、若しくは著しく悪化するおそれがあると認められる症状を示す疾病(現地医療施設の質を問わず)
大規模でない事故の負傷者
公衆の出入りしない屋内で起きた事故

結局私の力では、急患輸送を行う根拠は「災害」によって負傷した方を運ぶ時には自衛隊法第83条によることができるが、文面上は「自衛隊が」急患輸送をする根拠を見つけることができなかった。もし急患輸送を「自衛隊」でしか行い得ない場合は

日本国憲法第二十五条
すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
○2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

を用いて説明することができるかもしれない。あくまで、これを行いえるのが自衛隊しかない場合であるが・・・

結局、消防の行う救急業務自体も法律上の疑義が生じた時代があり、自衛隊についてはこれが解決されていないというのが実情ではなかろうか。

(平成15年5月4日追記)陸上幕僚監部による『災害派遣の参考』という資料に根拠が書いてありました。

 これを災害派遣とするのは本来公の機関が提供すべきサービスが提供されていないという社会的欠陥の是正を公の要請により行うということにより、公共性の原則を見たいしていると考えるからである。ただし、この場合にあっても、緊急性の原則および非代替性の原則が満たされる場合に限られることはいうまでもない(1-25)

 詳細については特別企画の災害派遣50年の集大成『災害派遣の参考』(陸上自衛隊災害派遣マニュアル)に掲載しているのでご覧ください。

(平成19年8月19日追記)『災害派遣の参考』昭和36年3月版 p204-205には次の記載があります。

5.遭難等でない病人,薬等の緊急輸送について
 事人命に関することであるので自衛隊でなければ出来ない緊急の場合は災害派遣として取り扱って差支えないが,そのときの状況が自衛隊でなければ出来ないかどうかの判断が決め手となるので,自衛隊の濫用防止から時期に適した判断を必要とする。
 厳密な法解釈から言えば本事例は災害に基づくものではないので災害派遣ではない。道徳的立場から災害派遣の範囲に入れて処理して差支えないと言うことである。

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