● 強制執行の実際については、消費者金融より銀行やクレジット会社の方がシビアなのが現状。特に銀行は、人的保証(保証人)より物的保証(担保)の方を重視するため、不動産などに対して強制執行をかけることが多いようだ。逆にサラ金は、人的保証(保証人)を重視する。面倒なことは避けたがる消費者金融は、手間と時間のかかる強制執行より、手っ取り早く保証人から回収した方が良いという考えのようで、強制執行の実例はそれ程多くは無い。たまに“見せしめ”で実行することもあるが、大抵は「払わないと強制執行するぞ」という脅しに使われる。サラ金が簡易裁判所に申立てをして、「支払督促」が送られることもあるが、これも申立てをすればその内容に関する審査や債務者の意見聴取などをせずに簡単に発送されるものなので、脅しに使っていると考えて良いだろう。事実、体験者の話を聞くと、「支払督促は来たが、そのまま1ヵ月放っておいても次のリアクションは無く、調べてみたら申立ては取り下げられていた」という報告がほとんどだ。
● さて、問題はヤミ金融業者である。法的に存在自体が違法なヤミ金融業者は、公正証書や白紙委任状まで取って「強制執行するぞ」と言ってきたとき、本当にそれを実行するだろうか?それを確認するため、ヤミ金融を積極的に扱う某弁護士に聞いてみた。回答は、「過去に強制執行を実行した例は、ほとんど無い」ということだった。ただし、実行された例が全く無いわけではなく、2、3件は申立てをしたケースがあったそうだ(いずれも貸金業の登録はしているものの実際の内容がトイチの業者。無登録業者の強制執行の例はまだ無いとのこと)。当然、高利である上に契約書等の控えも渡していないなど貸金業者であれば当然行わなければならない条項を無視しているため、いずれの場合も貸金業者としてでなく「一般個人として、頼まれたから貸した」という事にして、申立てがされたとのこと。ただ、相手がヤミ金融業者であれば対処法はあり、このケースでも「相手が一般個人ではなく業として貸金行為を行った」ことを立証した上で、警察に介入してもらい、「公序良俗に反する契約と、それに基づく請求だから」ということで申立てを却下させた。もしくは、「貸金業法違反(または出資法違反)で相手を告訴」した上で、告訴取り下げの条件として強制執行の申立て取り下げを提示し、両方の交換条件が成立した時点で和解を交わしたとのこと。白紙委任状を使ったり債務者が理解していない公正証書の作成があった場合は、裁判所に中止命令を出させることも検討できるが、それ以前に相手が出資法違反のヤミ金融業者であれば、公正証書自体が無効になる。
そもそも考えてみれば、裁判所に権限を委ねる強制執行手続きをしたら、債務者には異議申立ての機会が設けられて下手をすれば訴訟になるわけだし、利息制限法の上限以上の金利は請求できないし、それ以前に自分が違法な貸付けをしたことが公になれば裁かれかねないなど、ヤミ金融にとっては損なことが多い。請求できる金額(実際の貸付け金額)が少ないのに、面倒な上に費用もかかる強制執行は割が合わない。対象が土地や建物など高額でも、裁判所で権利が認められない限りは同じこと。
つまり、よほど業者が巧みであり、債務者側が弁護士を頼んだり法的な対抗策を全く講じないという前提にない限り、ヤミ金融業者の違法な請求に基づく強制執行は成功はしないということ。違法な請求は、違法な手段でなければ回収はできないというのが結論だ。

強制執行・公正証書

● 強制執行には、動産への強制執行、債権への強制執行、不動産への強制執行がある。動産執行の対象は、家財道具、家電製品、貴金属類、骨董品、商品、機械類、株券や国債、社債など。債権の場合は、給与、ボーナス、退職金、預金など。いずれも債務者名義のものが対象で、裁判所の手続きを経て行われる。現金以外のものは、競売にかけられる。ただし、動産については差し押さえができない物、債権については差し押さえ可能範囲が決められている。
● 動産に対する強制執行の場合、申し立ては地方裁判所の執行官に行い、執行官との打ち合わせで執行する。債権の場合は、地方裁判所に申し立て、差押命令書を第三債務者(預金なら銀行、給与なら勤務先など)に送付する。同時に、債権を債権者に支払う転付命令が送られる。不動産は、地方裁判所に申し立て、競売で売却されるか明け渡しが行われる。
● 強制執行を行うためには、債権者が「債務名義」を有していなければならない。債務名義となるものは、例えば裁判所が出した確定判決、仮執行宣言付きの判決、和解調書、調停調書、支払督促(債務者から異議申立てがされなかったもの)、強制執行認諾約款付きの公正証書などがある。これら債務名義は、簡易裁判所や公証役場の手続きを経て債権者に渡ることになるが、強制執行は債務名義だけでは行えない。他に、裁判所の「執行文」、債務者に債務名義や執行文を送ったことの「送達証明書」などが必要だ。債務者に事前の送達が必要ということは、債務者が知らないうちに勝手に強制執行が行われてしまうことは無いということで、止める手段を講じる余地はある。一番良いのは、債権者に債務名義を与えないこと。裁判の時点で異議を唱え、判決に不服があれば上訴する。公正証書の作成には応じないようにし、作成承諾委任状に変えられてしまいそうな白紙委任状は記入・押印しない。
● 動産や債権に対する強制執行費用はそれほどかからない。ただし、動産の場合、執行官への予納金以外に立会人や錠前屋が必要なときは、費用も2ケタになることがある。不動産の場合は、不動産鑑定にかかる費用の予納、登記手数料、登記所への納金、執行官への予納金など数十万円からの費用がかかる。
● 不動産の明け渡しは、執行官立会いの下で行われる。これを介さないものは占有となる。立ち退きに際し、引越し先が見つからない場合や引越し費用が無い場合などは、債務者の居住権を主張したり立退き料を請求することもできる。強制執行の目的が不動産の明け渡しでなければ、不動産は競売にかけられ、売却代金が債権者に渡される。競売は、差押え後7日以上の期間をおいて行われ、競売期日が公告される。
● 公正証書は、債権者と債務者が共に公証役場に行き、公証人によって作成される。そうした公正証書は強制執行に必要な債務名義となるが、執行を行うためには「強制執行認諾約款」付きの公正証書を作成しなければならない。また、金銭に対する強制執行であれば公正証書で足りるが、不動産の明け渡しの場合は他に訴訟の確定判決や和解調書の作成が必要になる。

差し押さえの範囲・差し押さえ禁止対象

民事執行法第131条により、以下の物は差押えが禁じられている。

@ 債務者等の生活に欠くことの出来ない衣服、寝具、家具、台所用具、畳および建具
A 債務者等の生活に必要な2月間の食料および燃料
B 標準的な世帯の1月間の必要生活費を勘案して政令で定める額の金銭
 (税金と社会保険料を控除した月額手取額で
28万円未満の場合は、その4分の3
  手取額が
28万円以上の場合は、21万円)
C 主として自己の労力により農業を営む者の農業に欠くことの出来ない器具、肥料、労役の用に供する家畜および
   その飼料ならびに次の収穫まで農業を続行するために欠くことが出来ない種子その他これに類する農産物
D 主として自己の労力により漁業を営む者の水産物の採補または養殖に欠くことの出来ない漁網その他の漁具、えさ
   および稚魚その他これに類する水産物
E 技術者、職人、労務者その他の主として自己の知的または肉体的な労働により職業または営業に従事する者
  (前2号に規定する者を除く)のその業務に欠くことが出来ない器具その他の物(商品を除く)
F 実印その他の印で職業または生活に欠くことのできないもの
G 仏像、位牌その他礼拝または祭祀に直接供するため欠くことのできない物
H 債務者に必要な系譜、日記、商業帳簿およびこれらに類する書類
I 債務者またはその親族が受けた勲章その他の名誉を表章する物
J 債務者等の学校その他の教育施設における学習に必要な書類および器具
K 発明または著作に係る物で、まだ公表していないもの
L 債務者等に必要な義手、義足その他の身体の補足に供する物
M 建物その他の工作物について、災害の防止または保安のため法令の規定により設備しなければならない消防用の機械   または器具、避難器具その他の備品

 生活する上で欠かせないものとされる年金や生活保護支給金、失業保険給付金、受取人が決まっている保険金、労災保障金、恩給などは、差押え禁止。受給手帳を担保に取ることも、原則禁止されている。

家財については、具体的には以下の物が差し押さえ禁止になる。   (東京地裁の場合)

整理ダンス、*洗濯機(乾燥機付き含む)、ベット、*鏡台、洋ダンス、 調理用具、食器棚、食卓セット、
*冷蔵庫(容量は問わない)、 *電子レンジ(オーブン付き含む)、*瞬間湯沸かし器、*ラジオ、
*テレビ(29インチ以下)、*掃除機、冷暖房器具(エアコン除く)、 *エアコン、*ビデオデッキ
* のものは、数点あればその一点のみが差押禁止動産となる)

 自己破産の場合、債務者の所有財産は全て裁判所が選任する破産管財人の下で競売により処分されるため、特定の業者が有する抵当権により個別に処分することはできない。自己破産申請中の強制執行に対しては、裁判所に申し立てて、財産の保全処分をすることができる。

支払督促

● 債権者が裁判所(債務者の住所を管轄する簡易裁判所)に申立てると、債務者が履行しない債務の返済について、「支払督促」という形で簡易裁判所から請求文書が届く。手続きに際して、裁判所で債務者の事情を聞くという行為はされず、費用の納付と申立ての書面についての審査だけで発送される。支払督促が発送されると、2週間の異議申立て期間に入る。この異議申立て期間中に債務者が異議を申し立てなければ、仮執行宣言の申立て手続きに移る。反対に、債務者からの異議申立てがあれば、通常の訴訟(貸金返還請求訴訟)に移行する。仮執行宣言の申立ては、異議申立て期間終了後から30日以内に行う。30日を過ぎてしまうと、支払督促の効力は失われてしまう。申立てを行うと、債務者の下には仮執行宣言付きの支払督促が届く。その場合にもまた、2週間の異議申立て期間がある。この間に異議申立てをしないと、債務者が支払督促に応じない場合、いよいよ強制執行が開始される。
 遠方の債権者から支払督促が出され、これに債務者が異議を申し立てた場合、債権者がいる場所の裁判所まで行って訴訟を行うのではなく、債務者の住む場所の簡易裁判所での訴訟となる。
 各異議申立て期間中に債務者から異議が出なかった場合、支払命令についてに勝訴判決と同一の効力を与えることになり、支払命令が強制執行に必要な「債務名義」となる。債務名義の無いものは強制執行の手続きに入れないので、支払督促が届いたら必ず2週間以内に異議申立て書(支払督促に同封されている)を返送すること。異議の理由はとりあえず問われないので、ただ「異議がある」とだけ書けばいい。
金銭に対する支払請求でも、利息制限法違反の高利の請求、違法または公序良俗違反の請求、期限未到来の債権の請求などは請求できない。

仮差押さえ・仮処分

● 支払督促や貸金返還請求訴訟を起こされた債務者が、強制執行前に金銭や財産を隠したり他人名義に変える心配があるとき、そうした資産の保全手続きとして「仮差し押さえ・仮処分」がある。ただし、資産を回収する手続きではなく、あくまで勝手に処分されてしまうのを防ぐための一時的な保全処置だ。手続きを行うには、請求する予定の権利の存在と保全の必要性の存在が必要で、他に保証金(債権額の2〜3割)を納める。保証金の納め方は、法務局に供託する方法と、銀行に預金して銀行の保証書を裁判所に出す方法がある。仮差押えは金銭に対し、仮処分は金銭以外の動産・不動産に対して行うもの。執行の権限は地方裁判所にあり、保全処置は執行官が行う。

白紙委任状

● 金銭に対する強制執行を行うとき、公正証書があればそれを債務名義として申立てを行うことができる。公正証書の作成は、原則として債権者と債務者が共に公証役場に行って公証人にやってもらう。しかし、債務者からの作成承諾の委任状があれば、債権者だけで公正証書を作ることも可能だ。この公正証書作成の承諾委任状にするために、ヤミ金融などがよく使う手が、「白紙委任状」だ。大抵の場合、白紙委任状は「委任状」としか書かれていない。債務者はそれが何に使われるものか判らないまま、書名、押印させられる。そういう場合には、請求に対して異議を訴え、強制執行停止決定の申立てを行う。その場合、債務額の1〜2割の保証金の納付を命じられることがある。
 業者がこうした委任状を作成する意図がある場合、まず印鑑証明と実印の持参を要求されるので、そうした要求をする業者の誘いは断ること。また、内容がはっきり確認できない書面には、記入、押印しないことを心がけよう。
 ちなみに、2003年に8月1日公布された「ヤミ金融対策法」 (貸金業規制法及び出資法の一部改正法)では、白紙委任状の取得が禁止され、違反者(無登録のヤミ金融業者を含む)は、「1年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金」になる。