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平成13年(ネ)第2434号 損害賠償請求控訴事件
控訴人 (原告)甲野太郎(仮名)外5名
被控訴人(被告)学校法人早稲田大学
判決要旨
(事案の概要)
早稲田大学は、平成10年11月28日、大隈講堂において、中国の江沢民主席による講演会を開催した。大学は、これに先立ち、参加希望の学生に対し、参加者名簿に氏名、学籍番号、住所及び電話番号を記載させ、この参加者名簿を本件講演会の警備に当たる警視庁に提出したが、これを提出することについて参加者の同意を得なかった。
本件訴訟は、本件講演会の参加者である学生6人(控訴人ら)が、本件名簿の提出によってプライバシーを侵害されたとして、早稲田大学を設置する被控訴人に対し、それぞれ慰謝料30万円及び弁護士費用3万円の損害賠償を請求するものであり、原審東京地裁は、控訴人らの請求を全部棄却していた。
(当裁判所の判断)
1 本件名簿の提出は控訴人らのプライバシーの権利を侵害するか
コンピューター等を用いた情報管理技術の発展に伴い大量の個人情報が官公庁、企業、団体等に収集、蓄積される一方で、時にこれが大量に流出する事態が生じたり、あるいは、ストーカー行為が多発したりしている現状においては、個人情報の保護を図ることの重要性について、国民の関心ないし法的意識が急速に高まりつつある。
本件個人情報は、控訴人らの氏名、学籍番号、住所及び電話番号並びに控訴人らが本件講演会の参加申込者であることであって、基本的には個人の識別などのための単純な情報であり、思想信条、前科前歴、資産内容、病歴、学業成績、家族関係等のプライバシー情報と比較すれば、他人に知られたくないと感ずる度合いが低いものではあるが、それでも、社会一般の人々の感受性を基準とした場合、みだりに開示されることを欲しないであろう情報であると考えられる。
したがって、控訴人らの同意を得ず、法令上の根拠もないのに本件名簿を警視庁に提出した行為は、控訴人らのプライバシーの権利を侵害する行為に当たる。
2 本件名簿の提出について違法性が阻却されるか
本件個人情報は、上記のように他人に知られたくないと感ずる度合いが低いものであり、控訴人らが被った不利益は、現実的、具体的なものではなく、自己に関する情報の開示について自ら決定する利益が侵害されたという観念的、抽象的なものであるにとどまる。そして、本件個人情報の開示は、警察機関が保有する要注意人物のリストに載っている者が参加申込者の中にいるかどうかを事前にチェックするなどして、本件講演会の警備に万全を期し、江主席の安全を確保するという正当な目的のためにされたものであり、この目的に照らして有用かつ必要なものであった。
しかし、大学は、本件名簿の提出について、これを秘匿するよう警視庁から求められていたわけではなく、これを参加申込者に告知するのに何らの支障もなく、これを行うことも容易であったのに、控訴人らにあらかじめ告知してその同意を得ようとはしなかったのである。これは大学の手抜かりによるもので配慮に欠けるものであったといわざるを得ず、同意を得ないことがやむを得ないと考えられるような事情があったということはできない。
本件個人情報の開示については、これについて控訴人らの同意を得ないことがやむを得ないと考えられるような事情がないという点で、その違法性は阻却されないものというべきである。
3 慰謝料の額について
本件個人情報の開示が違法であることが本件訴訟において認められるならば、控訴人らの被った精神的損害のほとんどは回復されるものと考えられ、控訴人らの本訴提起の目的も、金銭による賠償を求めるというより、むしろ、本件個人情報の開示が違法であることの確認を求めるという意味が大きいとうかがわれるから、控訴人らの精神的損害を回復させるためには、いわゆる名目的な損害賠償として慰謝料各1万円の支払を命ずることで足りるものというべきである。
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