
私に対する殺人等各被告事件について、起訴状記載の各公訴事実に対する、
私(被告人)の陳述は次のとおりです。
一九九六年三月二一日
記
一 始めに
今、読み上げられた全ての事件について、私が関与したことは間違いあり
ません。1被害者の方々、御遺族の方々、未だに後遺症に苦しむ方々、そし
て私の指示で犯罪者となっているサマナには大変に申し訳なく、どのような
言葉でお詫びすればよいのかその言葉すら見い出すことが出来ません。
私のなした事は、全て松本智津夫氏のマハームドラーの修行の名のもとに
指示されたことです。
被害者の方々等の堪え難い苦しみや悲しみ「何故、こんな目に会わなけれ
ばならないのだ」というオウムに対しての言い知れぬ怒りや憎しみを作り出
した、松本智津夫氏の指示によるヴァジラヤーナの救済としての実践は、い
かなる理由があったとしても全く弁解の
余地のない犯罪であることは間違いありません。
ただ事実として、どの事件も弟子であった私と松本智津夫氏との共謀はあ
りません。
当時は、グルであった松本智津夫氏が絶対的命令として指示する、修行と
して私の役割を実行したのです。
松本智津夫氏のヴァジラヤーナの指示を拒否すれば、私自身がポアという
名のもとにおいて殺されるというオウム真理教の教義や実態に基づく現実的
な恐怖や経験があったため、私には断ったりオウムから離れることが出来ま
せんでした。
現実として、私は修行者として最も恥ずべき行為をなしてしまったのです。
たとえどんな言葉や償いをもってしても、謝罪する事は不可能であると承
知しておりますが、これからの裁判において、今度こそ菩提心を培い、本当
の修行者として松本智津夫氏に立ち向かい事実を明らかにすることによって、
今私のできる唯一の償いを実践することを誓います。
それでは、それぞれの事件についてお話し致します。
二 落田さん事件について
私は、平成六年一月三〇日の落田さん事件で、本格的なヴァジラヤーナに
関与することになりました。
松本智津夫氏が保田さんに「お前は帰してやるから心配するな。それには
お前か落田をポアすることだ。」と指示しました。
私達弟子はその場に居ましたが、グルの意思は絶対でしたので、成り行き
を見ているしかありませんでした。
そして落田さんが暴れると、松本智津夫氏が「出来ないなら俺がやる。」
と叫んだので、私達弟子は慌てて落田さんの体を押さえました。
私も何もしない訳にはいかず、落田さんの身体を手で掴んだことは間違い
ありません。
三 一連のVX事件について
水野さん事件については、先ず平成六年一一月下旬に松本智津夫氏から
「これはVXの実験だ。効くかどうか判らないから水野にVXをかけて確
かめろ。実行はアーナンダ、お前がやれ。」と私は指示されました。
しかし私は現場に行ったものの、水野さんにVXをかけることに踏み切
れずに失敗し松本智津夫氏から「お前はどうしようもない奴だ。お前は実
行に向いてない。ミラレパ (新實智光)を補佐しろ。」と私は指示され
ました。
その後、新實さんから指示されて、平成六年一二月二日の水野さん事件
に関与することになりました。
この時の私の役割は、新實さんらが水野さんにVXをかけた後、救急車
が来るかどうかチェックすることでした。
濱口さん事件については、松本智津夫氏は「法皇官房で調べた結果によ
ると信者を操っているのは公安のスパイで濱口という人物だ。VXをひっ
かけてポアしろ。濱口が公安のスパイであることは間違いない。」と新實
さんと私に指示しました。
そして、私は新實さんらが濱口さんにVXをかけることを手伝うことに
なり、具体的な役割としては、濱口さんが出てくるのを無線で新實さんに
知らせるためにビルの屋上に平田悟さんと共に昇り見張っていましたが、
濱口さんが出てくる時には私は見張っていた場所から離れていたため連絡
はしていません。
永岡さん事件については、新實さんから「尊師が永岡にとにかくVXを
かけろと言っている。永岡は滝本弁護士と組んでオウムに出家しようとし
ている信徒達を妨害しているので尊師は怒っていた。」と指示され、新實
さんらが永岡さんにVXをかけることを私は手伝うことになり、具体的な
役割としては、永岡さんがマンションから出てきた時に新實さんに無線で
連絡することに決まりました。
現場においては、私は永岡さんがマンションから出てきた時に新實さん
に無線で連絡したことは間違いありません。
しかし私は、これら一連のVX事件については、オウムの生成したVX
をかけるだけでは、現代医療体制では、傷害を負って病院に入院すること
はあっても、死に至らせることはないと思っていました。
四 假谷さん事件について
平成七年二月二八日の假谷さん事件は、東信徒庁に出家したばかりの●●
●●さんがいなくなったため、彼女の居場所を探すのに、中村昇さんが假谷
さんを拉致することに関して、私は松本智津夫氏から「CHSでウパーリ
(中村昇)の手伝いをやれ。」と指示されました。
私は、中村昇さんらが假谷さんを車に押し込む時には現場から離れており、
見ていませんでしたが、拉致行為に関与したことは間違いありません。
しかし、上九での假谷さんの監禁や麻酔薬の使用については私は関与して
おりません。 そして上九へ行った時、中川さんから假谷さんが亡くなった
ことを聞きました。その後、村井さんの指示により、假谷さんの遺体をプラ
ズマの焼却炉まて運んだことは間違いありません。
五 自作自演事件と地下鉄サリン事件について
平成七年三月一九日の自作自演事件と三月二〇日の地下鉄サリン事件につ
いては、村井さんから、地下鉄サリン事件に関しては村井さん自身が指揮し、
科学技術省のメンバーで地下鉄にサリンを撒くので、「アーナンダはその前
に、●●宅に爆弾を仕掛け青山総本部に火炎ビンを投げろ。」と私は指示さ
れました。
私はこの自作自演を実行するために、村井さんのところへ爆弾と火炎ビン
を取りに行った時、村井さんから地下鉄サリン事件に関し、車の手配をする
こと、実行犯の人達に誰と誰とがペアを組むかを伝言することを私は指示さ
れました。
その後、私は指示を実行するために白井さんと共に●●宅に行き、私がス
イッチを押して爆発させました。
次に青山総本部に対する火炎ビン投擲に関しては、私が白井さんに火炎ビ
ンを投げるように指示し、白井さんが実行しました。
しかし、捜査を攪乱することが目的でしたので、人の身体を害したり、治
安を妨げたりする目的はありませんでした。
そして私は渋谷ホームズに行き、村井さんの伝言を実行犯の人達に伝えま
した。それ以外、私は地下鉄サリン事件に関しては、特に村井さんから指示
されたこともなく、実行には一切携わっていません。
私は自作自演事件を担当していましたので、地下鉄サリン事件については
今でも犯行のメンバーではないと思っています。いわんや、現場指揮などを
したことは一切ありません。
六 新宿青酸事件と都庁爆弾事件について
平成七年五月五日の新宿青酸事件については、強制捜査後、私達は村井さ
んから「捜査を攪乱し、尊師の逮捕を阻止するために出来ることは何でもや
れ。」と指示され、具体的に色々な指示を受けていました。
また、松本智津夫氏からも「四月三〇日にとにかく捜査を攪乱しろ。」と
指示されていました。
そして、村井さんが亡くなった後も特に指示を変更する連絡がありません
でしたので、中川さんらと共に実行しました。
その後「有能神が怒っている。」というメッセージ、つまり松本智津夫氏
が怒っているというメッセージを受けたので、私達は少しでも捜査を攪乱し、
松本智津夫氏の逮捕を少しでも遅らせるために都庁爆弾事件を実行しました。
しかしこれらの事件の目的は捜査を攪乱するため騒ぎを起こすことでした
ので、無差別に人を殺害することや、東京都知事を殺害することは全く考え
ていませんでした。
私は青酸ガスの発生装置や爆弾の制作はしていません。私も自分たちが作
ろうとしている青酸ガスを誤って吸った経験から死に至らせることはないと
思っていました。
また都庁爆弾については、送り届けることで充分に目的が達成できると考
えていましたので、傷害させることはあっても死に至ることはないと思って
いました。
詳しい事実関係については、これからの裁判ですべて明らかにすることを
誓います。
これから裁判を受けるにあたり、逮捕以来考え続けてきたことを少し述べ
させて頂きます。
七 私にとってのオウム真理教
私は成長するに従って、私のあらゆる側面が自由のきかない管理システム
の大きな渦の中で、既にレッテルを貼られ区別され固定され、抵抗するすべ
もなく自由を失い、絶望の中に沈んでいくのを学生の頃感じました。私達を
取り巻く高度に管理化されたハイテク社会がこのまま暴走を続ければ、私達
の精神は抑圧され荒廃し、近い将来、人類が愛を失い、大規模な破局を自ら
引き起こしてしまうのではないかという切迫した危機感を高校生のころ、私
は覚えるようになりました。
このような人類を取り巻く絶望的な状況を打開するためには、私達一人一
人が覚醒し、精神的な進化を遂げるしかないと私は自覚しました。
丁度その頃、解脱や悟りといった霊的、精神的進化が、世紀末を迎えよう
としている人類の様々な問題を、救済する唯一の方法であると提示し、自ら
最終解脱者と称していた松本智津夫氏と出会い、その弟子となりました。
松本智津夫氏の説く解脱や悟りそして救済のための教えには、大きな三つ
の特徴がありました。
一つ目は、私達の本質からすれば、現実世界は不自然な幻影の世界である
という教えです。この現実世界は、私達の心の内側に存在する貪り、怒り、
無智といった
様々な煩悩のデータによって生じた幻影の世界であり、私達の本質は、本来
はその煩悩のデータから切り離された絶対自由、幸福、歓喜な状態であり、
私達が、自らの煩悩のデータを滅することが出来れば、私達の本質である絶
対自由、幸福、歓喜の状態になり、それこそか解脱であると教えられました。
そしてこのような解脱理論の影響により、この現実社会の煩悩による価値
観によって生きることより、解脱するための価値観によって生きることを教
義付けている出家へと、多くの人達が向かって行くことになっていきました。
二つ目は、グルに対する絶対的帰依によるグルとの合一こそが解脱への方
法であるという教えです。この現実世界が、私達の煩悩のデータによって生
じる以上、解脱へ至るデータが存在しない。
だから解脱したグルによって、解脱に至るデータをコピーしてもらう方法
によってのみグルと合一し、私達は解脱に至ることが出来る。
この解脱の方法論は、グルに対する絶対的帰依こそが必要だと教えられる
ことに
より、出家教団内においては、現実における全ての価値観が、松本智津夫氏
の意思により形成されていくことになりました。
三つ目は、救済は松本智津夫氏の予言の成就によって成し遂げられるとい
う教えです。 松本智津夫氏の予言に基づくオウム真理教の活動方針は、現
在、世界に蔓延する物質主義こそが、ハルマゲドンを生じさせる原因であり、
物質主義における価値観によって生きる限り私達は永遠に輪廻転生して苦し
み続けることになる。
そしてこの物質主義は、世界的規模、即ちフリーメーソンのプログラムに
よって形成されていき、戦後、日本においては、アメリカという媒体を通し
て形成されてきたと捉え、救済とは、この物質主義文明に対して、解脱に至
る真理の文明を形成することをヴァジラヤーナの救済として教義付けるに至
りました。
松本智津夫氏は、この三つの教えを統合し、この物質文明を破壊し、自ら
を法皇とする真理の国家を形成することをヴァジラヤーナの救済による予言
の成就と定め、私達の解脱に至る為の修行がグルの意思の実践である以上、
予言の成就こそが私達の修行となり、その予言の成就の手段として、松本智
津夫氏の指示により、教団が武装化へと向かって行くこととなりました。
そして、このような教団の実態は、松本智津夫氏の指示が現実の様々な障
害によって実現しない時には、その障害を無理矢理取り除く行為をヴァジラ
ヤーナの教義により、私達弟子にマハームドラーの修行として位置付け、そ
の結果、松本智津夫氏は様々な犯罪行為を私達弟子に、マハームドラーの修
行として指示したのです。 私自身は、松本智津夫氏の弟子となった一六才
から、グルに絶対帰依する修行者としての「カタチ」に自分を無理矢理押し
込んで行くことになっていきました。
しかし、現実としては、次第に教団の組織と松本智津夫氏に、身も心もが
んじがらめに束縛されることになってしまい、その束縛の中で、現実的な欲
望を満たすことにより自分自身を偽り続けることになっていきました。
しかしこのような偽善を抱えながらも、グルの意思を実践し帰依し続ける
ことにより、いずれはグルと合一し、偽善や煩悩が消え去り、解脱を達成し
多くの人達の精神的進化を手助けしたいと願って、修行を続けて参りました。
そして結果的には、マハームドラーの修行と称した、グルの意思の実践に
よって犯罪行為に関与することとなっていきました。
そのプロセスにおいて、当初はヴァジラヤーナの実践がいつかは日本を覚
醒することに繋がるものであろうと信じていたものの、次第にそれが松本智
津夫氏の宗教的エゴイズムではないかと疑問を持ちはじめ、その結果、私は
松本智津夫氏から現実的なポアの恐怖を与えられ、様々な言いつくしがたい
葛藤の中で、犯罪行為を命じられ、現場に行ったものの実行には踏み切るこ
とか出来ず、その後は続々と犯罪行為の手伝いをすべく指示され続けたので
した。
その後、私は逮捕され、出家して以来初めて現実的に教団や松本智津夫氏
から束縛されない状態に至り、取り調べ中、或いは一人の時、これまでの犯
罪行為を冷静にみつめることが出来る機会を得ることが出来ました。
それでも松本智津夫氏の目に見えない呪縛により、私は絶えず苦しめられ
続けました。 そして、その呪縛と現実の狭間で苦しみ、どん底まで追い詰
められた私は、多くの本を読み、時間をかけることによって、子供の頃そし
て、教団に出家してからも自分を偽り続け、自分自身の何かが欠けていると
いう感覚をごまかそうとしていた自分自身を真正面から見つめる努力をし始
めました。
松本智津夫氏は、いかなる不合理な指示であろうと、グルの意思を実践し
た弟子のみがグルと合一し、解脱に至ることか出来ると教えていました。
しかし本来すべての衆生が仏性を有している以上、私達一人一人が自己に
内在する仏性に気付き、覚醒することか解脱であってグルのコピー人間にな
ることが解脱であるはずがなく、グルに対する盲目的な帰依の実践は、グル
と弟子のいずれも堕落させ真の解脱や救済から根本的に逸脱したものでしか
なく、私は松本智津夫氏にとっては決して良い弟子ではなかったことに気が
付きました。
また松本智津夫氏は、この現実世界は煩悩のデータによって作られた「幻
影」にしか過ぎないと捉え、解脱をすればこの世界を自分の思いのままに作
り替えることが出来ると教え、自らを法皇とする千年王国を形成することを
予言の成就による救済としていました。 しかしこの現実世界は、一人の人
間の意思や予言によって、たやすく変更出来るような無意味な「幻影」では
なく、私達が自覚するしないにかかわらず、この世界には私達すべてを育む
限りない「慈愛」が満ち溢れ、無理矢理この現実世界を破壊して、予言の成
就を達成しようとすることか救済であるはずが無く、この世界の全ての現れ
は、そのままで美しく、かつ意味があることに私はようやく気が付きました。
私が、松本智津夫氏の教えを信じグルの意思を実践することによって解脱
を達成しようとしていたこの一〇年間の修行も、単に自分をごまかしていた
ことでしか無かった事に気が付きました。
そして、私が松本智津夫氏の指示によりヴァジラヤーナの救済として行っ
たマハームドラーの修行は、結果としては、この宇宙に満ちている「慈愛」
の働きを傷つけた以外の何者でもなく、これまでの自分の無知によって、知
らず知らずのうちに、数多くの方々に、計り知れない不合理な苦しみを与え
てしまった罪の重さを改めて自覚するようになりました。
私はこれまでに、自分が気が付かないうちにどれ程多くの方々を傷つけて
しまったかと思うと自分自身の無知と愚かさが悔やんでも悔やみきれません。
八 最後に
多くの方々の計り知れない苦しみを少しでも多く自己の苦しみとして深く
反省し、これからの裁判において、私の知る限りのオウム真理教の実態を明
らかにし、二度とこのような宗教の名のもとにおける犯罪が、この日本にお
いて生じない事を願い、今私の出来る唯一の償いをしていくことを誓います。
被告人 井上 嘉浩
被告人
東京地方裁判所刑事第四部合議係 御中