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チャン・イーモウ時代劇の終わり

この映画は859年が舞台。唐の玄宗皇帝のころ。そして唐自体も907年滅亡するその直前の物語。しかし詳しい説明は実は映画では何もなされない。ただ「反乱している」と言うだけである。
 これで悪い予感がしたが、導入部はよかった。
 チャン・ツィイー扮する小妹が遊郭で踊りで舞う。それも着物の袖で周囲に並べられた太鼓を、しかも観客の男が豆を投げ当てて音がしたものだけを叩くのだ。みごとなもので感心する。
 ただし外部に逃避行の旅に出るという物語の核心の部分に入るとドンドン悪くなる。中国の時代劇なのに何も歴史がからんでこないのだ。そのため何の深みもないつまらないと言うしかない愚作となった。

 前作の「HERO」で始皇帝を全国統一のために涙をのんで蛮勇をふるう英雄として描き歴史を無視していると同僚のチャン・カイコー監督に「真実のかけらもない」と批判された。でもこの映画に比べるとはるかによかった。今度は歴史すらも無いというべきか。

 中国の歴史を学んでいるとまさにうらやましくなるほどのドラマの宝庫である。それを新しい視点で歴史の中で動いた庶民と刺客など虐げられたものや使われた者たちの視点から描き、そして指導部との命令・協力と対立など様々の関係で捉える。そしてVFXを使って斬新な映像化をする。いくらでもすばらしいストーリーを持った華麗な作品ができるはずである。
 チャン・イーモウ監督は紅衛兵だったので文革時代は学校は機能せず歴史を学んでいないのだろう。これまでの過去のものを取り扱った91年の「紅夢」にしても原作があった。しかし一から描く時代大作となると欠点が全面的に出てくる。

 1年前は「時代劇のおもしろさに取り憑かれた」と言っていたチャン・イーモウだが次回作は「当分、時代劇はいいです。次は現代が舞台の文芸物を作りたいですね」とのこと。この息詰まりぶりからするとそれがいいと思う。


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