235と「チャンドラ」の関係


日本IBMがThinkPad 235(2607-10J)の発売を発表したのは,1998年7月22日,その出荷は同25日のことだった。紛れもなく,Windows 98 の発売に照準を絞り,このOSを搭載したニュー・モデルとして,トップバッターの陣列に加わることを企図したものといえる。

235は,IBMの予想を超えて好調な売れ行きをみせ,8月末日には,Windows 95搭載モデル(15J)を発表して,9月18日から市場に投入した。これはIBMがこの235をビジネスユースに応える機種と位置づけ,他方,各オフィスにはまだWindows 95から98への移行に踏み切らないところが多いという実状を踏まえた措置であった。更に11月11日,ThinkPad 235 2607-20Jが発表され14日〜出荷された。この20JはCPU にMMX Pentium/266MHzを採用,ハードディスクは4.0Gバイトに変更されており,スペックアップによるマイナー・チェンジである。このように,235は既に型番別で見れば,3機種が市場に出回ったことになる。


235の姉妹機たち

ところが,既にこの235と同型のPCは,他社からも多数発売されている。各社のカタログやプレスリリースを拠り所として,それらを紹介してみよう。

フロンティア神代  まず,パソコンショップのフロンティア神代(こうじろ)が,RT166miniという商品名でこのPCを最初に発売した。主要スペックはCPU=MMX Pentium 166MHz(2次キャッシュ512KB),メモリ 標準64MB(オンボード32MB、最大96MB,価格は32MB版が238,000円,64MB版が248,000円,96MB版が258,000円) HDD 2.16GB,ボディーカラーはブルーメタリック であった。

公称サイズは幅235.2,奥行き173.2mm,厚さ33.7mm,重量1.24kg(バッテリー込)となっている。フロンティア神代はその後,さらにRT166miniのCPUとHDDを強化した,RT233miniを発売した。CPUにはMMX Pentium 233MHz,HDDは4.3GBを搭載している。価格はメモリ64MB版が283,000円,96MB版が298,000円でやや値上がりした。OSには,Windows 98を入れている。

更に,最近発売されたRT266miniは,搭載CPUをMMX Pentium 266MHz,またメモリを64MB/128MB (オンボード 64MB,192MBも可能) にして発売,定価はメモリ64MBが235,000円,メモリ128MBが253,000円,メモリ192MBが283,000円となっている。

日立製作所  日立製作所は,5月に製品名FLORA 210(型番 PC-5NL02-GA5DA)として同機種を発売,価格は \298,000とやや高く,他方スペックは上記フロンティア神代のRT166miniと同じで,メモリ 標準32MB,HDD 2.1GB,公称サイズのうち,重量は約1.25Kgとなっている。同梱ソフトにはWindows 95,Internet Explorer 4.0,TranXit3などが附属していた。

7月になって,日立は後継機 FLORA 210(型番 PC-5NL02)を発売,価格は \328,000と高めであるが,CPUに MMX Pentium 233MHzを搭載,メモリは標準で32MB,HDD 3.2GBを載せたものであった。附属ソフトとしては,Windows95またはWindows98,Internet Explorer 4.01などが同梱されていた。

また,日立ダイレクトは,Prius note 210(型番 2109T23H)を同月出荷開始,価格 はオープン価格に設定し,CPU MMX Pentium 233MHz,メモリ標準32MB,HDD 3.2GB 添付品 Windows98 他を入れていた。

エプソンダイレクト  エプソンダイレクトからは,Windows 98を採用したEndeavor TK-300が発売になり,CPUはMMX Pentium 233MHz,HDDは4.3GBの大容量であった。その他のスペックは,フロンティア神代や日立の製品と同じであったが,メモリによって3種類からの選択が可能で,価格は32MBが255,000円,64MBが265,000円,96MB版が275,000円であった。エプソンダイレクトはその後11月になって,Endeavor TK-400を発表,CPUが MMX Pentium 266MHzとなり,HDDも4.3GBとなっている。

ソフマップ広島  パソコンOA機器の量販店ソフマップの広島店は,SOFMAP SUBNOTE233 96MBモデルを定価277,999円(税別)で発売した。CPUにはIntel MMX Pentium 233MHzを,ハードディスクは4GBを搭載,メインメモリは32MB+64MBで最大96MBまでを保証している。その他のスペックは,235(10J)とほぼ同等である。

リコー  リコーは「チャンドラ2」の名称で,この機種を発売,当初4月に発表された機種では,CPUにはMMX Pentium166MHzを採用,メモリは32MB(最大96MB)を標準搭載,ハードディスクは2.16GBとなっていた。その後リコーはスペックアップを図り,現行機種ではMMX Pentium233MHzを採用し,メモリは32MBを標準搭載(最大96MB),HDDは4.3GBを搭載する。

なお,リコーは11月に開かれたCOMDEX/Fall '98に,チャンドラ2のPentium II 266MHz搭載モデルを参考出品した。これは筐体を厚くしファンを取り付けた試作品で,製品版では今までと同等の厚みになるという。この266MHz版は,USBポートを1つから2つに増やし,IEEE-1394のサポートを予定するなどのハイエンドな仕様を特長とし,各社同型機種の中で最先端を行くものとなっている。出荷は本年5月頃を予定。

日本オフィス・システム  日本オフィスシステムは,ChandraII(チャンドラ2)をNP−40Nの名で発売した。CPUはMMX Pentium 166MHzにRAM 96MB(ボード32MB+増設スロット64MB) ,HDDは 2.16GBとなっている。初期導入OSとしてはMicrosoft Windows 95を採用,定価は258,000円である。


ライオス・システムと235の関係

さて,こうやって235と同じ様な機種が,スペックの違いはあるものの,同じような時期に異なった発売元から次々と供給されているのは,なぜだろうか。それは,この製品が,ライオス・システムという一つの会社によって開発され,それが各社の名において,OEM生産されているからだ。

株式会社ライオス・システム(RIOS Systems Co., Ltd.)は,平成2年(1990年)4月に設立された,株式会社リコー,日本アイ・ビー・エム株式会社の共同出資による会社である。

この会社は,大企業の蔭にあって,これまでにも数々の魅力的な製品の開発に取り組んできた。例えば,日本IBMの小型携帯PC,PC110(通称:ウルトラマンPC)や,ThinkPad 220,230といったA5サイズノートブックパソコンは,実はこの従業員数100人にも満たない,小さな共同出資会社から生み出された果実なのであった。この会社が,かつてDOS時代に一世を風靡した,ThinkPad 220,230Csの後継機種となるPCを,開発コード名「チャンドラ」(CHANDRA)の名で実用段階まで完成させたのは,既に1996年中の事であったと思われる。

しかし,このチャンドラは,IBMのThinkPadシリーズの一台として,発売されずに終わった。それには,さまざまな企業戦略が絡んでいるようだ。当時,IBMのコンパクト・ノートでは,B5サイズのThinkPad 535シリーズが好調で,チャンドラを投入すればシェアを喰い合うことが予想された,という説がある。

ところが,このPCがこのまま埋もれてしまうことは,一方で開発チームやライオス・システムの当事者にとっては惜しみて余りあることだった。他方,ライオス・システムが既に伝説を作った複数のPCの設計を手がけた事は一部によく知られていた。そこで,開発者側はOEM供給による販売の道を模索し,他方,ファンにはこのことがいち早く漏れ伝えられることとなった。

まず,IBMではなく,日本オフィス・システムという会社が,97年1月にNP−10Nの名で販売をした。それも限定300台という少数の販売である。しかし,発売後約50時間で,この300台は,完売という事態が起きたのだ。

伝説が伝説を呼び,NP−10Nは,一層の注目を集め,そして「チャンドラ」の名で次第に知られるようになっていったのである。

NP−10Nは,CPUにPentium100MHzを搭載,重さ1.24kgという軽量なパソコンであった。液晶には8.4インチTFTカラー液晶ディスプレイを採用,HDDは500MBであった。PCカードスロットがTypeII換算で3つもあることや,赤外線通信IrDA/ASK 及び,Card Bus/ZV−Portをサポートしている点,多くのシリアルやパラレル等コネクタを標準装備し,稼動中でも充電と電池の交換が可能な汎用バッテリーを採用した点,メモリは標準8MBから最大40MBまでの増設が可能とされた点など魅力的な部分が多かった。チャンドラは絶大な人気を呼び,日本オフィス・システムの他にも,鈴木製作所やフロンティア神代,日立製作所,エプソン販売など各社が販売を行って,次第にスペックアップしながら,NP30までが発売された。

ライオス・システムは,このチャンドラの基本的な開発コンセプトと機能をそのままに,「クラヴィウス」の名で,後継機の開発に着手した。そして生まれたのがモデルNP40Jから70Jまでの,現行機種,通称「チャンドラ2」である。初代チャンドラの機能や軽量な筐体をほぼそのまま踏襲し,液晶には一回り大きな9.2インチSVGAパネルを採用,CPUにはMMX Pentium 166,233,266MHz&2次キャッシュ512KB搭載と,大幅に性能を向上させたほか,従来問題視されていた,脆弱な筐体についても,繊維を織り込んで強化を図るなど,改善が試みられた。

これまで,チャンドラをThinkPadブランドで売ることをしなかったIBMは,チャンドラ2の登場によって,にわかに方針を改めたようだ。そして,ThinkPad 535のスペックアップを打ち切り,これに代わるものとして,機種名をThinkpad 235 と定め,満を持して発売したのである。

この名称を見てもスペックを見ても分かるように,235は,直接には535に替わるサブノート・パソコン,という位置づけであるが,系列の上からは,かつての220と230Csとくに前者の延長上に置かれるものである。そして,235は,かつての220,230Csユーザー,チャンドラ・ファンの人々,それに新たにサブノート或いはモバイルPCと呼ばれる小型PCの購入を考えるようになった人々の支持を得て,今日を迎えている。

パソコンとしてこのような紆余曲折の「物語」を持つ機種,或いは,これほど多くの会社から同時に供給されている機種を僕は知らない。これが,今後どのような発展を遂げて行くのかは全く未知数であるし,或いはこれで打ち止めになるのかも知れないが,11月にリコーが発表したチャンドラは,従来のチャンドラ2の筐体を厚くし,そこにファンを取り付けた。また,USBポートを1つから2つに増やし,IEEE-1394のサポートを予定しているという。これが一つの方向性を示しているのであろう。

チャンドラ,クラヴィウスといった開発コードは,「2001年宇宙への旅」から採られたものだそうだ。その21世紀はもう数年後に迫っている。パソコン・シーンはイノベーションが進む中で目まぐるしく変わるであろうが,今後もライオス・システムを中心に,全体的なコンセプトはそのままに,細かい部分では全く新しい発想と技術に立脚した新機種の開発が進むことを,楽しみにしている。

*参考文献としては,『All about ThinkPad 1991-1998』(ソフトバンク刊,1998)を適宜参照した。また,チャンドラの概要を知る上で,JOKERさんのサイトに設けられている,「CHANDRA&CLAVIUS 話題のサブノートPC チャンドラとクラヴィウスの情報コーナー」(http://www.big.or.jp/~joker/chandra/main.htm)」を,チャンドラとチャンドラ2のスペック比較,FAQの内容のことなどで,ユーザーの一人である近江さんのページ(http://www.st.rim.or.jp/~omi/)を,それぞれ参照した。更に最近,チャンドラ開発物語が,開発者の生の声を交えてインターネット上に掲げられた(http://www.zdnet.co.jp/pcweek/archives/990118/990118p1401.html)。開発者がどこに留意し苦労してこのチャンドラを開発したのかがよく分かるので参照した。記して感謝する。


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