
ThinkPad 235 モデル 2607-10Jは,次のようなパソコンです。性能諸元の出典は,日本IBM社(=以下IBM)のホームページです。各種の見解は筆者によるものです。ここにThinkPad 235の基本性能と,このPCを巡る私論を記してみます。
基本性能
ThinkPad 235 モデル 2607-10Jは、寸法 235.2(W)×173.2(D)×33.7(H) mm、重量 1.25kg(バッテリー・パック2個搭載時)の筐体にプロセッサーとしてMMXテクノロジPentium-233MHzを搭載し,外部キャッシュ512KBを確保している。チップセットはFireStar PLUS・FireLink,RAMに標準で32MB(EDO)を搭載、最大96MBまでの拡張を保証している。また,ビデオ・サブシステム(Chips &Technologies 65555),ビデオRAM 2MBを搭載する。
A5サイズのノートブックPCで,重量1.25kgという重量は,携帯する上で楽な重さとはいえない場合もあろうが,反対に,携帯するの億劫になることもない重さである。
メインプロセッサのMMXテクノロジPentium-233MHzは,現在の水準で,普通,ビジネスに用いられるアプリケーション・ソフトを使用するなら,苦にならない動作を保証するだろう。ただ,現行モデル(99年1月現在)2607-20J(以下20J)では,266MHzにスペック・アップされている。
RAMが32MB標準装備というのは,不充分だという指摘も聞くが,僕がビジネスソフトと通信ソフトを中心に,3ヶ月間,サブ機として使ってきた印象では,これでひどい不自由を感じる程ではない。20JでもRAM容量が変更されなかったのを見ると,現状からすれば,これでビジネスユース一般には対応が可能,あとは必要に応じて増設すべし,というのがIBMの姿勢なのであろう。
画像処理関係ではビデオ・サブシステム(Chips &Technologies 65555),ビデオRAM 2MBを搭載している。これもまた,携帯機として使う分には申し分ない。
さらに記憶装置としては,ハードディスクに3.2GB (固定式)を内蔵,補助記憶装置としては,外付けのディスケット・ドライブ3.5インチ(1.44MB/1.2MB/720KB=付属品)をパラレルポートで接続して使う。HDはこのpcの開発元ライオス・システムがIBMと日立の共同出資によるところだからか,日立製の薄型HDを内蔵する。動作は非常に静かだという印象を受ける(20Jになって,HDは4.0GBにスペックアップ)。FDドライブの外付けはパラレルポートを使って行われるので,プリンターを接続すれば同時にFDを使うことは出来ない。この部分を犠牲にしても携帯性を維持しようという考えか,或いはUSB接続のプリンターがあれば問題ないという発想か,はたまたプリンターの使用頻度は低いと考えたか,のいずれかであろう。
画面はディスプレイ 9.2インチTFT液晶 800×600ドット,262,144色(外部ディスプレイ接続時:1,024×768ドット、65,536色)で,夜間はもとより日中の喫茶店や電車の中で利用する場合などには,あまり不自由を感じない。しかし,ひとたび強い太陽光線の差し込むタクシーの中や公園のベンチともなれば,使用に差し支えを感じるほど見づらい。
入力関係は,主にキーボードとIBMが開発したTrackPoint(トラック・ポイント)による。下記拡張ポートに明らかなように,マウス/キーボード共通ポート,USB,それに音声入力のためのマイクロフォン(モノラル)を使うこともできる。トラックポイントのキャップは,従来のThinkPadのものよりも幾分丈が短いが,キーボードとの相互干渉はほとんどない。
キーボードは89キー+Fnキー(JISひらがな配列)を,標準装備しているが,このキーボードについては,使いにくさを指摘する声も挙がっているらしい。特に基本文字キー以外のファンクション・キーや矢印キーなどが一回り小さく,押しにくいし押し間違いやすいのだ。確かにこれは気になる。また,キーボードのキー配置は、全体に手前の側に寄っていて,手を置く場所は比較的少ないので,車内で安定しないと言う声を聞くが,僕はそれほどとは思わない。前方スペースが少ないのは,後方にバッテリーを格納しているためだが,バッテリーについては後述する。キーピッチは公称15.1mmを確保しているが,17mmのPCと比較すれば打ちにくいのは当然だ。しかし,凹形に少しくぼんだキーは,狭いピッチを有効に使うための工夫だろう。15mmという数字は,連続してタイピングする場合の最低許容限度という印象だ。
本機のもととなった旧「チャンドラ」で重視された,各種ポート類・出入力端子の豊富さは継承され, シリアル(9ピン),パラレル(外部ディスケットドライブ共通),ディスプレイ,モノラルマイクロフォン入力,ヘッドフォン/スピーカー出力,マウス/キーボード共通ポート,USB,赤外線通信 ポート(4MbpsIrDA V1.1準拠),SoundBlaster Pro互換のオーディオ マイクロフォン/スピーカー(ステレオ)搭載する。加えてPCカード・スロットを計3つ(Type III×1またはType II/I×2( CardBus対応) およびType II/I×1( ZVポート対応) )標準装備し,どこであろうと出先で拡張機能を用いて出入力することを可能にしている。
ヘッドフォン及びスピーカーの出力端子とUSBポートがキーボードの前側面に位置するのは,やや使いづらい。これらを覆っているゴム製のカバーは取り外しが利かず,これらの部分を使うときには,カバーを90度回して縦になるようにするから,同時にキーボードを叩こうとすれば邪魔になる。USBポートは試みに搭載したという印象を免れないが,USBポートへの対応機種が今後普及すれば,後継機種で改善が図られる可能性があろう。
最後に,電源まわりのデータ。まず,消費電力は最大 56W(ACアダプター入力時)/35W(バッテリー使用時)となっている。またサスペンド時にも当然電源を喰うが,それは3.5Wとされている。電源はACアダプター(AC100-240V(50/60Hz)/ACアダプター本体360g,コード60g)を使用し,バッテリー・パック(Li-Ion(1個あたり90g))を使用して駆動する。ACアダプターはやや大きなThinkPad535のものをそのまま流用したので,235の携帯性に比すれば大きすぎる。供給者の事情を推測すれば,新規に小型のアダプターを開発すれば,それだけコストに反映されるという事があるのだろう。
バッテリーの使用時間(駆動時間)は公称で2.0時間,充電時間は2時間(パワーオフ/サスペンド),4時間(使用時)となっている(いずれもバッテリーを2個搭載した場合)。この数字は現状に於いて特に優れているとはいえない。
ただ,235の特徴として,使用されるリチウム・イオン電池は,現在家庭用ビデオカメラに用いられている汎用性の高い型のものであり,予備電池の購入が容易であること,そして,電池で駆動させる場合に,電池の残り電力が10%以上であれば1個だけでも駆動できる事はいろいろな意味で便利である。例えば出張時に3〜4時間の電池駆動を想定しなければならなくなったとする。その場合は電気店に出かけ,予備バッテリーを購入することが容易である。また電池を交換する場合は,電源を落さず片方ずつ交換すればよい。予め3個,4個と電池を充電しておけば,電池の個数に応じて駆動時間の延長が可能となるのがよい。
初期導入済みソフト及び同梱ソフトについても補足しておこう。基本OSとなるMicrosoft Windows 98と,インターネットエクスプローラー 4.0は初期導入済みとなっているので,PCを購入後,セットアップすれば直ちに起動することができる。
この他,Puma IntelliSync 97、Norton Antivirus、Netscape Navigator 4.04、IBM Global Network ダイアラー,トラベルナビゲーター Desktop On-Call トライアル・パック,CD革命/Virtual V1.11,自在眼2 Lite,ここNavi,Adobe Acrobat Readerなどは導入済みか,或いはHDに圧縮されている状態で,インストールプログラムを実行することによって導入できる。更にロータス スーパーオフィス98 with ノーツパーソナルはCD−ROMとして附属するので,使用する場合はCD-ROMドライブを接続してインストールする必要がある。以上,実用本位,特にビジネスユースを念頭に置いて用意されたソフトという印象が強く、また,ユーザーの好みに応じて使って貰おうという姿勢が顕著である。従って押しつけがましい姿勢が感じられない代わり,パソコンの初心者には不親切な感じもしてしまうだろう。
ThinkPad 235 私論
以上,性能の全体を紹介した。次に主観を交えてここで紹介してきたこのPCの性能の特長について書いてみる。このPCが開発されるにあたってスタッフが追及してきた重要なコンセプトは,広く日本のビジネスの場に於いて,臨機応変,いつでも,どこでも使えるパソコンにしよう,そのために,あるところから先はユーザー自身の使い方に委ねられるようにしよう,ということではなかったかと思っている。
それを実現するためには,パソコンが軽量でなければならない。最低限以上の入出力と情報処理の快適さを保証するものでなければならない。駆動に要するエネルギー面の憂いを少なくするものでなければならない。求めやすい価格でもなければならない。そして自宅,職場,車中,移動の途中,出先など多様な使用環境に耐えるものでなければならない。多様な環境に適応するため答えを出さず突き放し,ユーザーのカスタマイズに任せる部分を持たせたほうがよい。こういった要求を万遍なくクリアするためにこのPCのスタッフが格闘し,ある部分を折衷し,ある部分を共存させ,反対に犠牲にするなどした一つの結果が,このPCだと思うのである。
日本人のビジネスは多様で,だから要求も多様である。235はその要求のどれかに応えようとするのではなく,要求の多くを,ポートの豊富さという形で拡張性に委ね,拡張性では徹底している。また,基本的に持ち運ぶパソコンとして考えられ,操作する場所を選ばず,ある程度の快適さを失わないようにしている。職場と自宅,出先,それらの間などで使えるようになっていると思う。
235の長所と短所を検討すると,ある長所は別の長所・短所に結びつき,ある短所は別の長所・短所に結びついているという場合が非常に多い。つまり非常に濃縮度が高いPCであるという評価を与えることが出来る。
具体的に書けばいろいろある。A5というサイズを実現したが,そのためにキーピッチは15.1ミリと打ち安さの点から言えば限界に近い。バッテリーの駆動時間は確かに短いが,バッテリーの汎用性は非常に高く,かつ1個ずつ使えるメリットがある。しかしこのバッテリーを後方に並置したために,キーボードは前方に位置したから窮屈なものとなった。可能な限りのポートを装備し,更にPCカードスロットを多数設けたために,USBポートなどは前面に回されたが,これは拡張性の高さという評価と表裏の関係にある。価格を抑えるため(と思われる)に,ACアダプターは既存のものを流用した。カードスロット3基(タイプ2の場合)は多すぎるし筐体の強度に影響しているという声もあるが,上下連動の2基はタイプ3のカード1枚を使うのに役立つ。モデムポートは附属しないが,通信はしないユーザーもあるかも知れない。発熱量が多いのはファンを持たない為でもあるが,ファンを持たないことは当然コストや重量にも反映され,またバッテリーの間の曲線状のくぼみで自然対流を起こさせて放熱するようにしたことで,このくぼみは持ち運ぶ場合の持ち易さにも結びついている。電車の中で立ったままキーボードを叩くには適さないが,膝や机の上では比較的快適に叩くことが出来る。デスクトップほどの快適さはないが電車の中で膝の上に載せても両脇から文句を言われないだけのコンパクトさはある。B5ノートほどの画面の広さはないが,同クラスでは最大の画面を持つ。などなど。
結局,このPCの特長は,何かの部分を特化させることによって自己主張しているのではなく,上記の製品としてのコンセプトを一貫させながら,何かに特化させないことによって自己主張していることにあるようだ。そして,このPCに欠点が目に付く場合,これを買わずに他のPCを選択すればそれでよいように思われる。パソコンは漠然と評価されるのではなく,ユーザーはある目的に照らして不足が多いか少ないかを自分で考えて製品を選択するものだ。ただ,僕が推測したような独自のコンセプトと共に,235の設計に当たっての密度の濃さと,製品としての拡張性の高さや使用に当たっての選択肢の広さなどは,大いに評価すべき点だろう。
開発者は開発の過程ではなく,まずは開発の結果をユーザーに示すことしかできないだろう。ユーザーはその結果を手にし,今後何がどうあって欲しいかという声を還元することが,生産者側のより高い技術や新しい発想の実現や展開と相俟って,更に密度の濃く満足度の高い製品を生み出すことに繋がると思われる。
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