ASAHI PENTAX SP


PENTAX SPを買う

ASAHI PENTAX SP(以下SP)の購入は,1998年の3月末のこと,新宿の「カメラのきむら」に出ていた委託販売品を,1万2千円ほどで購入したのだった。標準レンズSuper-Takumar 50mm/f1.4が付いた状態であった。これは僕が初めて買うM42スクリューマウント機だったので,いろいろ勝手の分からないことも多く,店員さんに教わりながらの買い物になった。

1)外見上の問題

(あ)黒のボディーのあちこちに,後塗りの痕跡が見られる。こすってみて,その大部分がはげ落ちるところを見ると,下地の錆や汚れの除去も充分ではないし,塗られた塗料も,それほど良質なものではないようだ。しかし,全て剥げた部分が補修されているのを見ると,所有していた人の配慮が思われる。

(い)グッタペルカは,光沢が無く,多少劣化しているが剥がれてはいない。これが剥がれかかっているものが多いSPとしては,むしろ状態がよい部類だろう。

(う)ビスには若干錆が出ているが目が潰れているものはない。

(え)裏カバーにも塗装剥げ,錆が見受けられるが,やはり上から塗料が塗られている。

(お)ストラップがないので,安物をつけた。

(か)電池蓋の部分が純正ではない。調べると関東カメラサービスから発売されている,電池アダプターで,しかもこれが付いた状態で上手く動作していなかった。このようなものが付属しているということは,最近まで大事にして使われていたカメラなのだろう。ともあれ,ペンタックス・フォーラムで,PENTAX純正の電池変換用アダプターを兼ねた電池蓋を購入して,使用することにした。

2)内部の問題

(あ)モルトは全て張り直してあった。売り主が使用していて張り替えたのだろう。それほど劣化していないので,まだ使用には耐える状態だ。お陰で,モルト補修の手間が要らなかった。モルトの補修の場合でも,工賃が非常に割高になるので,有り難い。

(い)シャッター布幕など,内部の状況は非常によい。黴もない。

(う)ミラーや内部塗装も非常に綺麗である。

(え)唯一最大の難点は,露出計である。SP発売後,30年以上が経過したが,露出計が駄目になっているものが非常に多いのが,現状なのだ。新宿のある中古カメラ店に聞くと,最近売りに出されるSPの多くは露出計の故障を起こしているとのことだった。原因は断線か材質の劣化のようだ。

僕が買ったSPも,お店でスイッチを入れても,指針が全然触れない。そこで,露出計が壊れたものとの前提で購入し,ペンタックス・フォーラムで見て貰ったところ,上記アダプターを付けたら針が振れだした。ただ,表示が約1段ずれているとの事だ。平均測光式の内蔵露出計を頼りに撮影するなら,これが大きな障害になろう。

(お)その他,レンズにもファインダーにも,黴や汚れなどなく,状況は良好,また,シャッター機構についても,油ぎれはなかった。


SPの登場とスポットマチックの刻印

1964(昭和39)年7月,東京オリンピック開幕の直前,旭光学は,それまでに確立していた一眼レフの技術を集めて新機種,ASAHI PENTAX SPを発表,発売した。

最大の注目を集めた点は,このSPが,TTL絞り込み測光による露出計を内蔵していたという点であった。

この年,ライツは,ライカブランドとして初めての一眼レフカメラ,ライカフレックスを発売している。キャノンのフレックスと,ニコンFの発売は,先立つこと5年前の1959年のことであった。そろそろ一眼レフカメラがカメラの主流となっていた時代である。そして,一眼レフに露出計を内蔵する試みが始められることになる。世界初のTTL測光による内蔵露出計搭載を実現したのは,トプコン(東京光学)の「REスーパー」だった。ペンタックスSPの発売はこれより1年遅かったのである。

実は旭光学は,それに先立つ1960年,西ドイツで開催されたフォトキナで,世界初のTTLスポット測光式試作カメラを公開,注目を集めていた。SPはその後の旭光学の試行錯誤の結果誕生した機種なのであった。しかし,試行錯誤の後に完成したSPは,当初開発が進められた「スポット測光式」ではなく,平均測光式を採用したカメラだった。しかし,その名が余りにも広まったことと,それに「スーパー」の意味もあって,機種名をSPとし,正面にはSPOTMATICの文字を記したのだという。

トプコンに先を越されたSPであったが,その後もSPFSPIIと,系統を保ち,Kマウントの登場まで約10年の間,SPとスポットマチックという言葉とによって,ペンタックスを支えることになったのである。

なお,SPの測光方式が絞り込み測光式であったのに対して,トプコンREは,開放測光式であった。絞り込み測光は,絞り込んだ光をもとに光を測り,露出を決定する。他方,開放測光は,絞り開放状態での測光を可能にしている。どちらがよいかは当時いろいろと議論があったと聞くが,旭光学の製品自体は,1973年発売のSPFで開放測光を採用したものの,翌1974年発売のSPIIでは再度絞り込み測光を採用するという複雑な経過を辿っている。

M42スクリューマウントには,1970年代に入ると,カメラのAE化が進む中で次第に弱点の部分が目立つようになった。レンズの信号をカメラボディーに伝達するには,レンズが一定の角度でボディーに固定されなくてはならないし,マウント部にはデリケートな情報伝達のための接点を設けなければならない。スクリューマウントでそれを実現するのは難しく,そしてバヨネット・マウントはそれを確実に,容易に行うことが出来たのである。

ペンタックス・ブランドとしては,1971年発売のESが,世界初のTTL絞り優先式AE一眼レフとして登場,主要機能は更に1973年発売のESIIに継承され,いずれも伝統のM42スクリューマウントを踏襲していた。しかし,旭光学は1975年,新たにバヨネット式の「Kマウント」を採用した新機種,KM,KX,K2の発売に踏み切り,M42マウント時代に訣別した。1957年に発売されたAP以来継承されたM42マウントの時代は,約18年で幕を閉じることになったのであった。

発売当時,SPの最大のセールスポイントであったTTL絞り込み測光式露出計が,今日多くは故障して使いものにならないとしたら,そのカメラとしての魅力はどの辺りにあるのだろうか?

僕が惹かれるのは,カメラとしてのまとまりの良さ,少し音の大きいシャッターとクイックリターンミラーの軽快な動作,SVとも相通じる,洗練された優しいボディーのデザインなどである。このSPについて,しばしば「往年の名機」などという言い方がなされるが,僕自身はそれを余り好まない。往年の,という言い回しには,今はそうでない,というニュアンスが付きまとうからだ。カメラを支える技術は絶えず革新されてきたし,これからも革新されることだろう。しかし,新しいカメラでは実現できない何かがあると信じ,そこに古いカメラの存在価値を認めることによって,古いカメラにも新しいカメラとは違った愛着の気持ちを持つことが出来るであろう。


PENTAX SP 性能諸元一覧

発売年月:1964(昭和39)年7月発売

発売時定価:51,000円(50mm/F1.4レンズ付き)

型式:35mmフォーカルプレーン・シャッター式一眼レフカメラ

画面サイズ:24×36mm

レンズ・マウント:M42・スクリューマウント交換式

ファインダー:ペンタプリズム・固定式ファインダー

焦点調節:クロスマイクロプリズム式

露出計:ボディの絞り込み兼測光スイッチによる,定点合致式絞り込み測光(CdS素子使用)

シャッター型式:横走ゴム引き布幕フォーカルプレーン・シャッター(機械式)

シャッタースピード:B,1〜1/1000秒

セルフタイマー:あり

シンクロ接点:FP,X(1/60)接点

フィルム巻き上げ:160度一回レバー式(手動)

フィルム巻き戻し:クランク式(手動・巻戻し完了表示装置付)

電源:1.3V水銀電池(H-B)

サイズ:公称143×92×87mm

重量:623g(標準レンズ付き868g)


参考文献:主に「アサヒペンタックスSP・TTL測光式一眼レフカメラのパイオニア」(『CAPA4月号臨時増刊・中古カメラGET!』1998.4所収,山縣基与志氏執筆),PENTAX SP取り扱い説明書等を参照しました。


戻る