参考文献  解説4



太平洋戦争陸戦概史
林 三郎 著

大東亜戦争(太平洋戦争)に関する戦後初の総合陸戦史で、服部卓四郎の「大東亜戦争全史」よりも2年早い昭和26年発行。極めて公正かつ冷静に戦争推移を辿り、日本陸軍として反省すべき事項を採り上げた作戦指導史の基本的文献である。
今次陸戦の全局面を物動、編制、兵器、動員人員数などあらゆる角度から総合的に把握し得る史書は本書が始めてであり、用いられた各種資料は、あらゆる努力を払って史実の正確を期し、何らの誇張もなく良心的な記述に基づくものである。内容は日米開戦までの陸軍の歩み−国防方針の策定と作戦方針の変更−に始まり、終戦に至るまでの大本営陸軍部の作戦指導が中心で、個々の戦闘経過については概略のみに留まる。また海軍作戦についても、陸軍に直接関連ある部分のみ対象となっている。

著者は陸士37期、陸大46期恩賜。参謀本部ロシア課長、編成動員課長を歴任、終戦時陸軍大臣秘書官兼副官。陸軍部有数のソ連通としてのちに「関東軍と極東ソ連軍」を著す。
 

聯合艦隊の栄光
伊藤 正徳 著

すぐれた軍事評論家であり、比類なき大海軍記者であった伊藤正徳が、的確な名調子により、「大海軍を想う」「帝国陸軍の最後」に続いて著した戦記シリーズの一つ。
世界無比の精強を誇った在りし日の帝国海軍。‘The most well−balanced navy in the world’=世界一均整のとれた海軍=と評され、世界三強海軍の中に位置し、猛訓練のなかで練度は世界一であったかもしれない聯合艦隊。伊藤の前に伊藤なく、伊藤の後に伊藤なし、と言われた伊藤正徳にとって、この帝国海軍は永遠の恋人であった。
サボ島沖海戦、南太平洋海戦、ルンガ沖夜戦等を中心に、その快勝の記録を綴り栄光を賛えたものである。さきに聯合艦隊を弔う「聯合艦隊の最後」を記した著者は、更に年月を経てありし日のことを思うと、聯合艦隊の栄光を称える一書を著さずにはいられなかったのであろう。産経新聞の夕刊に連載中の昭和37年4月に本書の刊行を待たずに享年72歳で亡くなった。
 

海軍と日本
池田 清 著

敗戦に立ち会った下級士官の立場から見た、通史に留まらない日本海軍論である。日本の海軍については、関係者や専門史家の手による研究書が数多く出版されているが、
@ 独善的情勢判断、艦隊決戦主義の盲信、「海戦要務令」聖典視など、海軍潰滅の主因は何だったか?
A 複雑な国際情勢下、海軍の情勢認識はどうだったか、なぜ良識的指導者が排除され、戦争への道に進んでいったのか?
B 独走する陸軍にひきづられ共犯となって終わった海軍のもろい体質とは何か?
以上3点の疑問に対し、それぞれの章をたてて論をすすめている。
極東無名の非白人国日本を国際政治の桧舞台に引き上げるのに大きく貢献した海軍は、破滅の淵に日本をひきずり込む役をも果したとも言るかもしれない。
著者は海兵72期 終戦時海軍中尉 東北大学法学部教授を経て青山学院大学国際政治経済学部教授。専攻は政治外交史。
 

日本の参謀本部
大江志乃夫 著

近代の軍隊を組織的に運用するために設けられたのが参謀本部である。そのスタッフたる参謀は、政略と戦略、戦争目的と軍事力との関係について明確な認識なしには十分な機能を発揮できない。しかし日露戦争以降の日本の参謀本部は、理論・実践の両面において有能とは云えなかった。本書は、モルトケ時代のプロイセン−ドイツ参謀本部を師とし、K.メッケルの指導によって誕生した明治陸軍の誕生から、大東亜戦争敗北に至る原因までを、政略と戦略との関係を軸に対外戦争に果した役割を明らかにしようとするものである。
記述の重点は支那事変までで、全11章のうち明治建軍から日清・日露戦争下の解説に7章を費やしている。そして組織的に訓練され整備された参謀本部は、その機能の発揮を最大限に要求された大東亜戦争時において、巨大化した官僚組織として機構の硬直化と人事の頽廃から機能不能に陥り、軍事的敗北を期した。
著者は陸士60期卒であるがいわゆる「進歩的知識人」に属する。それゆえ政治的立場を念頭におきながら読む必要がある。
 

大本営参謀の情報戦記−情報なき国家の悲劇
堀 栄三 著

本書は戦後刊行された大本営参謀たちの手記、回想録の系譜では、もっとも最終期に位置する。情報の素人であり、陸大卒業間もない一軍人が、たまたま大本営の情報参謀として情報の世界に放り込まれて、情報を軽視しがちの大本営内部において、暗中模索の状況下からいかにして情報の「職人的な勘」を獲得してきたかの実体験を、失敗や錯誤も包み隠さず紹介しようとしたものである。
昭和20年の敗戦まで軍は日本最大の組織であった。しかも最も情報を必要とする組織ではあったが、いかなる情報の収集、分析処理、管理のノウハウを備えていたのか、あるいはいなかったのか?いかなる欠陥を持っていたのか?その実態を体験的に述べることは、日本の組織が内在的にもちやすい情報に関する問題点を類推(アナロジー)させることに役立つものではないか、としている。

著者は陸士46期、陸大56期。大本営陸軍部第二部参謀、第14方面軍情報主任参謀を歴任。米軍の作戦を次々予測的中させて名を馳せ、戦後は陸上自衛隊で駐独防衛駐在官、統幕第2室長などを経て、昭和42年に退官した情報の第一人者。
 

敗戦の歴史 かくて玉砕せり
中野 五郎 著

アメリカ太平洋戦史研究と題して、昭和21年秋から昭和22年春まで前後5回にわたり中央公論誌上に連載し好評を博した新形式の戦争記録を、推敲のうえ1巻にまとめたもの。マッカーサー作戦は省略し、アッツ、タラワ、クェゼリン、マリアナ諸島、硫黄島の攻略戦を指揮した二ミッツの作戦を詳述、付録として山本五十六元帥戦死の真相が描かれている。
戦時中ニューヨークポスト紙並びにTIME誌の戦争記事主任として、大戦の全局面を報道解説する立場にあったギルバート・キャント氏の著作−『太平洋の大勝利』『海上の戦争』『第二次世界大戦におけるアメリカ海軍』を基に構成されている。言論はGHQの監視下にあり、我が陸海軍の資料が公開される前の終戦直後にあっては、連合国の資料に拠るしかなかったのである。

昭和23年に発行された戦後初の総合戦記と言われており、著者は東大法学部卒、元朝日新聞ニューヨーク特派員記者で戦争中交換船で帰国した評論家。各種アメリカ研究が多数ある。