軍法会議/軍刑法

軍法会議とは

軍人が軍人を裁く、軍の刑事裁判所である。戦後の日本(自衛隊)には存在しない。

軍は武装集団であり、戦時には通常の倫理規範に反する行為(即ち破壊や人員の殺傷)が職務上要求されるという特殊性ゆえに、軍人の「基本的人権」を制約するといった行動全般を強く規制する必要がある。一方戦力を保持するために、軍紀の妨げになる行為を「固有の価値観」に照らして裁く必要があった。
そこで生まれたのが、特別裁判所である軍法会議である。
 

沿 革

法律全般と同様、近代化が進むにつれ裁判制度は整備/改正されていった。

明治15年 東京に軍法会議が設置されたのが最初で
大正10年 陸軍軍法会議法 海軍軍法会議法 に全面改正された。
昭和16年 法律85号として部分改正され、
昭和22年 現行憲法が施行されるまで制度上は存続した。
 

裁判の対象

罪を犯した 現役軍人 召集中の軍人 軍属 であり、一般刑法の犯罪についても軍法会議の対象となった。 軍刑法違反であっても、軍服着用在郷軍人は軍法会議で裁かれたが 私服着用の召集外在郷軍人は普通裁判所によって裁かれた。 また捕虜についても、我が軍軍人と同様の規律下に置かれることから軍法会議で裁くこととされた。

例外的に、特設軍法会議が設置される場合や、戒厳令下の裁判権拡大による運用もある。
 

軍法会議の種類  陸軍軍法会議の例


区分 種類 管轄 軍法会議長官 備 考
常設 高等軍法会議 将官、勅任文官 上告審 陸軍大臣  
  師団軍法会議 師団長の指揮、監督、管轄下にあるもの 師団長  
特設 軍軍法会議 軍司令部の指揮、監督、管轄下 〃 軍司令官  
  独立師団軍法会議 独立師団長の指揮、監督、管轄下 〃 独立師団長  
  独立混成旅団
軍法会議
独立混成旅団長の指揮、監督、管轄下 〃 独立混成旅団長  
  兵站軍法会議 一定の兵站地域にある者 兵站司令官  
  合囲地軍法会議 戒厳令が布告された地域にある者 戒厳司令官 戒厳令布告の場合
  臨時軍法会議 特設・分駐の陸軍部隊長の指揮、監督、管轄下 〃 部隊・地域の司令官 戦時等必要に応じ
 

海軍軍法会議も、陸軍同様常設と特設に分かれていた。
 

構 成

裁判官は、判士(兵科将校から選抜)と法務官(昭和17年から法務将校 以前は文官)とで組織され、通常は、判士4名 法務官1名で構成され、高等軍法会議のみ判士3名、法務官2名であった。裁判長は先任の判士が務めた。

検察官は法務官の中から所管軍法会議長官によって任命された。弁護士は被告1名につき2名までつけることが許され、1年以上の懲役・禁固に拘わる事件は弁護人なしでは開廷できなかった。
 

手 続

判決は裁判官の過半数の意見によった。常設軍法会議は二審制であって高等軍法会議への上告への道はあった。また再審制も存在した。
 

陸海軍刑法

陸軍刑法(明治41年4月 9日 法律第46号)
海軍刑法(明治41年4月10日 法律第48号)

軍紀保持を最優先に考えていたため、普通裁判に比して量刑は重かった。特に敵前である特設軍法会議においては厳しく、死刑も珍しくなかった。

種類例 犯 罪 例 最 高 量 刑
叛乱 組織・制度を破壊するため武器を使用すること 集団の首魁は死刑
辱職 責任を果たさず降伏すること。
正当な理由なく艦船を放棄すること
死刑
抗命 上官に対する反抗、不服従 敵前では死刑
暴行脅迫 哨兵、上官を脅し暴力を加えること 敵前で武器使用の場合死刑
逃亡 戦線離脱、利敵行為 敵前は死刑
軍用物損壊 武器・機材などの故意による破壊 死刑
掠奪 対価を払わず民間人の財物私有物を奪うこと
他に凌辱、強姦等
凌辱は無期懲役
俘虜 捕虜の隠匿・逃亡幇助 懲役10年
違令 虚偽発言、規律違反、造言飛語
政治言動や文書配布
懲役・禁固 5年

懲 罰

軍刑法に抵触しない非行や不起訴処分になったものについては懲罰が適用された。内部罰であり社会的制裁はなかった。

現役将校に対しては−−重謹慎 軽謹慎 譴責 礼遇停止

下士官・兵に対しては−−免官 重営倉 軽営倉 譴責 降等 などがあった。
 

処刑人員

昭和12年  521名
昭和16年 3304名
昭和19名 5586名(全軍将兵の0.136%)

昭和18年の軍法会議受理数内訳は、上官殺傷暴行342名 逃亡1023名 掠奪207名 殺人56名 等であった。
 

軍律会議

広義の軍法会議であり諸手続は軍法会議に準じるが、原則として日本人は対象外であった。本土空襲の敵国飛行士を処刑したケースがこの軍律会議であり、厳密には軍法会議とは異なる。
 

総 括

軍法会議については、憲兵制度への批判と共にその密室性・強引性には批判が多い。また、部下の犯罪は上官である指揮官の責任にもなるので、裁判を行わず事実がうやむやとなってしまうこともあったという。少佐以上の将校を軍法会議にかけることは稀であるとも言われた。

しかし、法律の専門化(法務官)による取調べ、多数決による判決、上告の可能性の確保など審理や手続きは公正に行われており、陰湿なイメージから軽々にその内容を判断するのは適切とは言い難い。少なくとも公正な裁判の努力はなされていたのである。

今日、実質的には軍隊である自衛隊に適用される特別な刑法や軍法会議に準じる特別裁判所は存在しない。わずかに自衛隊法や罰則規定が散見されるだけである。