
粉飾を読み解く(資産編)
粉飾には2つの類型がある。利益を粉飾して損益をよく見せようとするものと、
資金不足を覆い隠すため、簿外で資金を捻出し資金収支を実態よりよく見せようとするものだ。
利益粉飾はほとんどが帳簿操作ですむ上、実害が少ないため安易に行われる傾向がある。
それに対し、資金粉飾は実際に資金を捻出する必要があるため、資産廉売などで実害が大きい。
今の損益計算書による企業評価は利益粉飾に対して非常にもろい面があった。
しかし、新しく導入されるキャッシュフロー計算書は資金粉飾に実害が伴うため信用度が高いといえる
科目別粉飾の手口
流動資産の部
| 科目名 | 内容 | 利益粉飾の手口 | 資金粉飾の手口 |
|---|---|---|---|
| 現金及び預金 | 通貨や小切手、預貯金等 | 損益に直接影響を与えないため、また会計士により直接チェックされるため対象になりにくい。 | 資金の口座間移動、親族会社の振出小切手による入金(他店券記帳での見せかけ残)など。 |
| 受取手形 | 売上について回収した手形。 | 不渡手形の引当処理を行わないなど | 手形の期日前売却、他人手形担保の借入など |
| 売掛金 | 売上について回収予定の債権 | 長期売掛金など不良債権について引当処理をしない、架空売上先の創造による売上計上 | 売掛債権を担保にした簿外借入れ、売掛債権の簿外譲渡、貸出参加方式による債権流動化など |
| 有価証券 | 株式、社債、公債、投資信託などで短期所有かつ市場取引されているもの | 含み損を計上しない、飛ばしによる含み損隠しや非連結会社を利用した異常価格取引による譲渡益の創造など | 有価証券を担保にした簿外借入れ、有価証券の簿外譲渡など |
| 商品 | 他社から買い入れたものを加工せずにそのまま売却するもの | 長期にわたって売却できない商品について評価減を行わない、期末の棚卸残高を意図的に増加させて原価を圧縮する、出荷されていない商品について売上を計上するなど | 商品の簿外売却(バッタ屋などブローカーでさばく)など |
| 製品(副産物及び作業くずを含む。) | 自社で原材料から製作した売却目的の資産 | 長期にわたって売却できない製品について評価減を行わない、期末の棚卸残高を意図的に増加させて原価を圧縮する、出荷されていない製品について売上を計上する、原価差額を意図的に在庫に含めることにより原価を圧縮するなど | 同上 |
| 半製品(自製部分品を含む。) | 自社で原材料から製作し、製品になる途中のもので、転売可能なもの | 同上 | 同上 |
| 原材料(購入部分品を含む。) | 製品を製作するために購入した資産で未使用のもの | 同上 | 同上 |
| 仕掛品(半成工事を含む。) | 自社で原材料から製作し、製品になる途中のもので、そのままでは転売不能なもの | 同上 | 同上 |
| 貯蔵品(補助材料を含む。) | 製品の製作のために購入した材料のうち補助的なもの、または、営業で使用する有価物の残高 | 同上 | 同上 |
| 前渡金 | 仕入れを行うために、仕入れに先立って渡している代金 | 利益に直接影響を与えないため、利益粉飾には利用されにくい | 架空前渡金の創造による架空資金支出、発注キャンセルによる前渡金の簿外回収など |
| 前払費用 | 従業員給料や事務所の家賃、借入金の先払利息などで期末日現在で前払いとなっている残高 | 前払の残高を意図的に大きく見積もることによる費用の圧縮、前年よりも前払い計上対象範囲を意図的に拡大することによる費用の圧縮など | すでに資金的には決済が済んでいてサービス提供も中途まで受けているため、これを簿外で資金化することは困難 |
| その他 | 資産総額の1%に達しない項目 | - | - |
固定資産・繰延資産の部
| 科目名 | 内容 | 利益粉飾の手口 | 資金粉飾の手口 |
|---|---|---|---|
| 建物 | 不動産登記の対象となる建物及び、それらの附属設備(空調設備や電気設備など)を含めたものを一定の耐用年数(日本では企業の個別事情を考慮せずに一律、税法に定める耐用年数を使う)で減価償却(単純化して言うと45年耐用の建物で12年経過していれば元の価格の33/45の金額で計上すること)した残額。 | 減価償却が機械的に行われるのに対して、実際の建物価額が簿価(購入当初の価額と乖離することを利用した建物売却による利益の捻出、関係会社等への建物売却による見せ掛けの利益創出。さらに進んで、耐用年数自体を見なおすことにより、過年度の減価償却を取り消して当期の利益に一気に加算するウルトラCもある。日本の会計制度が固定資産の耐用年数の設定という点で洗練されていないことを端的に表している。 | 資金粉飾でもっとも可能性が高いのは「セールスアンドリースバック」と呼ばれる手法。これは資産をリース会社に売却した上で自社を相手とするリース契約を結ばせるもの。ほかに、資産の簿外売却や資産を担保に入れた上で融資を受ける方法も。 |
| 構築物 | フェンスや柵、橋梁、自立鉄塔看板、煙突など土地の上に直接製作される構造物。 | 同上 | 同上 |
| 機械装置 | 工場の生産設備の機械装置やコンベヤ、起重機、ホイスト等 | 同上 | 同上 |
| 船舶 | 船舶ならびに水上運搬具(計上される業種は限定される) | 同上 | 同上 |
| 車両運搬具 | 営業車、ダンプ等の大型特殊車両等(ただしリース車は一部のレアケースを除き計上されない) | 同上 | 同上 |
| 工具器具備品 | 税法上の耐用年数2年を超える身近な資産の殆どがここに区分される。具体的には電動工具や棚、コンピュータ、パーテイションなど | 同上 | 同上 |
| 土地 | 土地代金に登記諸費用を加えた金額が計上される | 実際の土地価額が簿価(購入当初の価額)と乖離することを利用した土地売却による利益の捻出、関係会社等への土地売却による見せ掛けの利益創出。 | 同上 |
| 建設仮勘定 | 上記の建物から土地までの資産の手付金や完成していながら使用開始前のため減価償却していない資産に対して支出された金額。 | 実際に使用が始まっている資産について、減価償却を始めないことにより費用を圧縮させるなど | すでに資金的には決済が済んでいて工事や購入交渉も中途まで受けているため、これを簿外で資金化することは困難 |
| その他 | 上記に分類されない特殊な資産。ただし計上されることは滅多に無い(これは税法がほぼ全ての償却資産を上記の分類で区分し、耐用年数を定めているため) | 計上自体少ないため、粉飾に利用されるケースは少ない。 | 同左 |
| 無形固定資産 | 電話加入権や特許権など実体の無い法律上の権利を取得するためにかかった費用が計上される。 | 実質的に価値の無い権利が無形固定資産として計上されつづけている可能性がある。 | 電話加入権などの簿外売却や特許権などのライセンスの簿外供与による資金入手など |
| 投資有価証券 | 関係会社(保有割合20%超の会社又は、自社の株を20%超持たれている会社)にかかわる有価証券以外の、投資目的に長期(一年超)にわたり保有する有価証券が計上される。 | 投資有価証券に対して原価法を採用することにより、投資有価証券に発生している含み損を計上しないなど(ただし、市場性のある有価証券について発生している含み損に付いては有価証券の時価情報注記により明らかにされる) | 投資有価証券の簿外売却。ほかに、投資有価証券を担保に入れた上で融資を受ける方法も |
| 関係会社株式 | 関係会社の株式 | 債務超過会社等の有価証券を適正に評価減せずに含み損を計上しないなど | 同上 |
| 関係会社社債 | 関係会社の発行する社債 | 債務超過会社の債務履行されない可能性の高い社債を評価減しないなど。 | 同上 |
| その他の関係会社有価証券 | その他の関係会社(当社の株を20%超50%以下持つ先)の発行する株式や社債 | 同上 | 同上 |
| 出資金ただし、関係会社出資金を除く | 社団法人や有限会社組織に対する出資の取得簿価 | 適正に評価減しないことによる含み損の計上回避など。 | 持分の簿外譲渡や簿外での払い戻しなど。 |
| 長期貸付金・ただし株主、役員、従業員に対するものは除く。 | 返済まで一年以上期間のある貸付金。(また、本来許されないが得意先で焦げ付いた売掛金を長期貸付金として計上している例も) | 同上 | 債権を担保にした簿外借入れ、簿外譲渡、貸出参加方式による債権流動化など |
| 株主、役員、従業員に対する長期貸付金 | 同上 | 同上(返済が無い、貸し増ししているなどの場合は特に) | 同上 |
| 関係会社長期貸付金 | 同上 | 同上 | 同上 |
| 破産更正債権 | もともと営業債権(売掛金・受取手形)だったものが、取引先の破綻により一年以内には回収できなくなったもの。 | 税法に定める基準(損失の認定が厳しく、例えば明らかに不良債権化していても担保資産の売却が済んでいないなどの理由で評価損の計上を認めなかったり半分までしか損失を認定しなかったりする)により評価減している場合は、殆どが不良債権の償却不足。優良会社は独自の基準で引当てたりしているが、それが妥当かどうかに付いては金融資産の評価が発達している米国とそうでない日本とに明らかに差が見られ、日本では決算調整に使われる結果となっている。 | 同上 |
| 長期前払費用 | 一年以上かけて支出の効果が発生するような費用支出について、費用計上を繰り延べるためのもの。一定期間で権利の消滅する権利金の支払い(賃貸物件の敷引費用など)やソフトウェアに対する支出など | 税法に定める基準(ソフトウェア償却を5年とするなど一般的に資産が長持ちするように仮定しすぎる)により償却している場合、償却費の計上が不足している場合が多い。例えば、3年間しかつかえないソフトを5年間かけて償却したり、バージョン変更で既に使用していないようなものまで資産として残したりしているなど、固定資産と同様、耐用年数について日本の会計制度の未熟さが現れる。 | すでに資金的には決済が済んでいて資産利用も中途まで済んでいるため、これを簿外で資金化することは困難 |
| その他 | 生命保険の積立金やゴルフ会員権で総資産の1%に満たないもの | ゴルフ会員権など評価の下落しているものについて評価減が計上されないなど。(税法上許されていないことが大きい) | 投資有価証券の簿外売却。ほかに、投資有価証券を担保に入れた上で融資を受ける方法も |
| 繰延資産 | 創立費や開業費、新株発行費など商法で特に繰り延べを許された支出費用が一定年数繰り延べられるもの。 | 基本的に、繰り延べを許す商法の規定自体、会計学的に見て疑問が多く、繰延べ処理を認めるとされることから、一括費用処理することもできるため、結局、決算の調整弁として悪用されるケースが多い。 | 架空資産のため資金化は不可能 |