「骨格予算と首長選挙」

多摩市議会議員 富所富男

 予算は自治体の専売特許ではない。しかし、決算の方がはるかに重要視される企業と異なり、自治体では予算が極めて大きな意味を持っている。
 予算は自治体の一年間の政策であり、活動計画であり、それに必要なお金の裏づけになるからである。また、住民が議会を通じて首長をコントロールする手段でもあるからである。さらには、予算を見れば、自治体の懐具合が分かるだけでなく、自治体の姿そのものがはっきりと分かるからでもある。
 年中行事のように、年度末の三月にはあちこちの地方議会が一斉に予算審議を行う。そして、それゆえに三月議会が年四回定例的に開かれる議会の中で一番重要と言われる。
 今回は、これほど重要な予算の中でも例外に属する骨格予算について、首長選挙との関連で取り上げる。

1 骨格予算とは

 わが国の地方自治のバイブルと言えば、地方自治法である。この法律は予算の編成権を首長に与え、承認権を議会に与えている。要するに、首長は議会に予算案を提出し、議会の承認を得なければ、これを執行できない。しかし、議会は減額修正することはできるが、首長の予算編成権を損なうような増額修正は認められていない。
 肝心の骨格予算の定義だが、地方自治法には全く規定されていない。一般的には「新規の施策を見送り、また政策的経費を極力抑え、義務的経費を中心に編成される予算」を言う。言い換えると、「法令などに基づく義務的経費、既存施設の維持管理費、既に債務負担行為を設定している事業費、継続費を設定している事業費などを最低限計上した予算」である。
 骨格予算の編成権者はもちろん首長である。
 しかし、議会のチェックという点が通常の予算と大きく異なる。骨格予算は基本的に政策的経費は含まないことから、同じ予算ではあるが、議会が内容的に厳しく審議する必要性がない。要するに、骨格予算の場合、チェック機関たる議会の出番は実質的になしということである。

2 編成の背景

 骨格予算後の対応としては、本格的な予算の編成と議会審議が必要になる。すなわち、政策的な経費など骨格予算で計上されなかった経費を肉付けし、次の議会に補正予算として提案し、議会の承認を求めなければならない。
 こうした手間がかかることから、骨格予算の編成は出来れば避けたいところである。それでも首長選挙との関連でやむを得ず骨格予算を編成するケースがいくつかある。代表的なのは「首長の交代が想定されるケース」である。現職が引退し候補者の顔ぶれなどから判断して全く違った政治理念を持つ新人の当選が想定される場合である。
 もう一つは、現職が立候補するが、議論百出のうえ最悪の場合「予算の否決もあり得るケース」である。この場合、時間的に年度開始前に予算の成立が見込めなければ、暫定予算を組まざるを得ない。これは本予算の成立までの「つなぎ予算」であるから、計上するのは既定経費や義務的経費のような固定的な経費に限定される。政策的経費は計上すべきではない。こうした状況になる恐れがあるならば、最初から骨格予算で対応した方が手間が省けるという意味で賢明である。

3 多摩市のケース

 骨格予算を編成する主なケースを二つ取り上げた。一つは新たに選ばれる首長を縛らないという点で積極的な意味合いを持つケースである。もう一つは首長選挙を前にして予算の否決は避けたいとする消極的なケースということもできる。
 多摩市の場合は、後者のケースである。一年前、今年度の当初予算が否決された。多摩市始まって以来の出来事であった。現職が市長選挙を間近に控えて昨年の轍は踏みたくないと思ったとしても不思議でない。
 現職がもっとも強いと言われる二期目を目指しながら、慎重過ぎるほど慎重なのは昨年のことがいかに衝撃的だったかを物語っている。しかし、こうした慎重ぶりの裏側にある「弱気」が選挙後の情勢をさらに複雑にする可能性もある。
 来春の統一地方選まで議会構成は変わらないからである。「勝ちっぷり」によっては、たとえ現職が再選されたとしても厳しい議会運営を強いられるかもしれない。
補正予算が審議される六月議会で答え出る。