知識創造と「場」の理論

 

「場」の概念に関する歴史的概観

わが国における「場」の概念は、哲学者であった西田幾多郎、およびその後、清水博によって洗練されてきた(Nonaka & Konno, 1998)。その他、西洋においても、プラトン(コーラ)、アリストテレス(トポス)、カント、フッサール、ハイデッガー、ホワイトヘッドなどの哲学者によって、西田や清水による「場」の概念と類似した場所性の概念が提唱されている(遠山・野中 2000)。

「場」の概念の定義

遠山・野中(2000)は、知識創造のプロセスにおいて共有され再定義される動的な文脈を「場」と呼んでいる。このような視点に基づくならば、場とは、単に物理的な空間だけを意味するわけではなく、電子メール等によるヴァーチャルな空間や、同じ経験の共有、同じアイデアの共有といったよりメンタルな空間を含む。このことから、遠山・野中は、場を、多くの哲学者からの提唱にならい、「人間存在の基盤となる時空間を含む場所性の概念」と捉えている。Nonaka & Konno (1998)、遠山・野中(2000)は、知識創造過程の理論化という目的から、場を、知識創造との関連においてのみ定義づけているが、経営一般を考える際には、必ずしも、知識創造とための場として、場の概念を制限する必要もないと思われる。

「場」概念が注目される理由

遠山・野中らが、「場」の概念に注目する理由は、彼らによると、知識というものは、それが独立して存在し得るものではなく、つねに人々によって共有される文脈としての「場」に埋め込まれた形でしか存在しえないと考えられているためである。したがって、効果的な知識創造を行なうためには、その知識の存在基盤となる場を創っていくことが求められるという論理である。この論理は「場は知識創造プロセスにエネルギーを与え、生み出される知識の質を決定する(遠山・野中 2000)」という文章からも伺われる。ただ、上記でも述べた通り、考察を経営一般にまで拡張させて考えるさいには、必ずしも場概念を知識との結びつきのみで理解する必要性はないと思われる。

よい「場」の条件

遠山・野中(2000)は、知識創造に結びつく「よい場」の条件として、以下のような項目を提示している。

  1. 独自の意図、目的、方向性、使命等を持った自己組織化された場所
  2. 参加者のコミットメントが存在する(場の目的にコミットし、場において生起するイベントに積極的に関与する)
  3. 内部からと外部からの2つの視点を同時にもたらす
  4. 参加者が直接経験をすることができる
  5. 物事の本質に関する対話が行なわれる
  6. 境界が開かれている(参加者が自由に出入りし、共有された文脈が絶えず変化していく)
  7. 形式知を実践を通じて自己に体化することができる実践の場
  8. 異種混合が行なわれる
  9. 即興的な相互作用が行なわれる

また、「よい場」が活性化することによって知識創造に結びつくという視点から、以下のような要素が必要であると提唱している。

  1. 自律性:場を共有するメンバーが知識創造に向って自律的に活動すること
  2. 創造的カオス:組織に意図的に危機感を導入したりすることにより、組織に緊張をもたらし、メンバーの注意を問題解決に集中させる(疑問:組織という言葉を用いているが、これは一般的な組織を指しているのか、それともメンバーによって共有される場のことを指しているのだろうか)
  3. 最小有効多様性:組織が秩序とカオスのバランスを保つためのものである(疑問:これはカオスの縁と同じ概念なのではないだろうか)
  4. 冗長性:日常業務を遂行する上ですぐに必要のない情報が組織に蓄積されている状態(ノート:これは組織スラックと似た概念だ)
  5. 愛、信頼、コミットメント:(疑問:愛、信頼、コミットメントがなければならないと規範的に論じているが、それだけでは考察が不十分だと思われる)

場の効果性を高めるリーダーの役割

遠山・野中(2000)によると、組織のリーダーは、場の創設、結合、活性化により知識プロセスを促進する。また、リーダーは、場の状況を読み、場の再範疇化、再文脈化、そして即興が重要であるとされる。

伊丹(2000)は、知識創造という枠よりも広い視点から、場におけるリーダーの役割について述べていると思われる。伊丹によると、場のマネジメントは、場の生成(場の設定および場の創発)と、場のプロセスのマネジメント(場のかじ取り)であるとされる(ノート:かじ取りというのはよいメタファーであると思う。英語でもsteering committeeなどと言う)。

 

文献

遠山亮子・野中郁次郎 (2000) 「よい場」と革新的リーダーシップ:組織的知識創造についての試論 一橋ビジネスレビュー 2000 Sum.-Aut.

Nonaka, I. & Konno, N. (1998). The concept of "ba": Building a foundation for knowledge creation. California Management Review, 40 (3), 40-54.

伊丹敬之 (1999) 場のマネジメント:経営の新パラダイム NTT出版