親子会社関係のダブルバインド

ダブルバインドというのは、一種の板挟み状況である。親子関係を例にとるならば、無意識的に子供を愛せず、敵意さえ抱いている母親が、表面的には腕を広げて抱きしめようとするのだが、それに一瞬戸惑う子供に対して「なぜ戸惑うのか、私を愛せないのか」というように、子供を責めるメッセージも同時に送る状況に代表される。子供にしてみれば、母親の言葉に素直に従って甘えるということが、ますます母親をわずらわせ、嫌われるという恐れを抱く一方で、母親の言葉に従わなければ、それを責められ嫌われるという恐れも抱く。つまり、子供はどちらの行動を選んでも母親に嫌われる状況に立たされることになる。ダブルバインドは、このような二重拘束を指しており、子供の精神や健康に大きなダメージを与えかねない。こういったダブルバインドは、人々の精神病や社会不適応を生み出すと考えられている。

こういったダブルバインドの精神病理学的な視点は、企業の親会社、子会社の関係にも適応することができ、子会社が適応困難な状況に陥る場合を説明することも可能である。

例えば、多くの親会社が、子会社を重要なポジションであると表面的には位置づけていても、無意識では子会社を好きになれない、むしろ不愉快に思う傾向を持っている。例えば、給与を初めとする雇用条件は、子会社の戦略的重要性に関わらず、親会社よりも低く設定させたがる傾向がある。多くの場で、子会社に対して「当子会社は戦略上重要なポジションを占めている」というメッセージを送るものの、いざ子会社が自社の社員を優遇し、親会社よりも好条件で処遇しようとするならば、「子会社のくせに親会社の社員よりも待遇をよくするとはけしからん」というメッセージを暗黙的に送ることがあるのだ。

次に、業績をとってみても、無意識的に子会社を嫌っているため、子会社が高業績をあげるための環境作りを阻害することになる。例えば、親会社から子会社に管理者を出向させる場合にも、優秀な人材を送らず、窓際族や親会社で使えない人材を送ったりする場合がある。先にあげた労働条件も親会社より劣るものにするため、優秀な人材からの応募を阻害したり、優秀な社員があきれて離職していく傾向を生み出す。そういったことが重なって、子会社が業績不振に陥るようになると、親会社はその業績不振を責め、罰を与える。業績不振の原因を、子会社社員の能力と努力不足であると決定付け、これほど子会社を大切にしているのに、なぜ君たちは期待にそう結果を出さないのか、という論調で子会社社員を叱るのである。

このような状況をダブルバインドで説明すると以下のようになる。まず、親会社は表面上は子会社を重要であると位置づけ、その旨のメッセージを送る。しかし、無意識的には子会社を不快に思うので、打つ手打つ手は子会社を業績不振に追いやることになる。子会社がこの傾向に対してどう振る舞うかについては、業績を改善しようと努力する選択、親会社のいうことに従う選択の2つがある。

まず、前者の選択、つまり業績改善への努力は、親会社の意向に逆らうことを意味する。例えば、優秀な人材を獲得するためには、親会社の給与水準よりも高い水準で人材を引き抜いたりしていかなければならない。親会社のコントロール下におかれていたことが業績不振の原因になっているので、そのコントロールから逃れ、自律的に行動することを志向しなければならない。しかし、そのようなことをしようものなら、また親会社の不快感を増加させ、新たな罰を受けることになりかねない。

一方、親会社の言うことに素直に従う選択は、もともと親会社の行動が子会社を業績不振に陥らせる行動であるために、業績改善はまず望めない。その結果ますます業績を悪化させ、これまでと同様に、親会社からの叱りをうけることになる。

つまり、子会社にとっては、どちらの選択をしても、親会社に嫌われて罰を受けることになるため、どう行動すればよいかわからなくなってしまう。このダブルバインド状況が、一種の精神病敵欝状態、無気力状態を生み出し、その精神病的傾向が子会社の職場内に蔓延することになる。結果的に当該子会社は、無気力間が職場内に蔓延し、社員の目もうつろになり、完全に社会的に適応不可能な状態になってしまうのである。

親子会社の関係にある場合は、今回示したような精神病理的な考察を含めて、現状がどうなっているのかをよく洞察し、手後れにならないうちに、こういった不適応状態を防ぐ手段を講じなければいけないだろう。