わが国企業の社内公募制と社内FA制

企業内の自律的人材流動化

終身雇用という言葉に代表されるわが国の人事では、サラリーマンのメンタリティとして「滅私奉公」とか「宮仕え」というような言葉が一般的であった。これは、企業が従業員の長期雇用を保証する代わりに、会社都合による職務の安定性の犠牲を従業員に強いる社会的交換関係にあったといってもよい。すなわち、一般職や地域限定社員といった種類の社員を除いて、いわゆる基幹職とか総合職とかについては、本人の意思に関わらず、企業が発令する人事異動命令や転勤命令に従わなければならないという暗黙の了解があったのである。

そういった配置転換は、しばしば、昇進と引き換えに地域間の異動を伴う、転勤によって行なわれることが起こる。その結果「転勤はサラリーマンの宿命」というメンタリティも世間一般で認めたものである(八代 1997)。単身赴任もこういった背景の中で増加してきた。労働省の調べによると、大企業において地域間異動(転勤)を命じられた社員のうち、単身赴任であったのは2割強、特に40〜49歳の有配偶者で転勤のうち単身赴任だった割合は、1985年の26.4%から90年には33.6%に高まった(八代 1997)。余談ではあるが、こういったわが国の経営および人事の仕組みでは、配置転換を司る人事部に従業員の情報や権力が集中し、多くの企業で人事部が強い権力を握ったり、あるいは出世コースとしての花形部署となる原因を作ってきたとも考えられる。

このように、長期雇用による安定と引き換えに、会社都合の配置転換に従順に従うわが国のマネジメントイメージは、近年変わりつつある。そのひとつの表われが、社内公募制と社内FA制の普及である。社内公募制やFA制度の意義を一言でいえば、従来の会社都合の配置転換から、従業員主導の配置転換への変化によって、わが国の強みでもある、長期安定雇用もしくは内部労働市場の範囲内で効率的かつ効果的な人材流動化を促進し、スキルや意欲のミスマッチを解消し、適材適所を図ることによって、各人が最も力を発揮できる環境を整えようとするものである。指令塔としての人事部を主導とする、会社都合の適材適所にはもはや限界があるという認識の高まりを、自由市場による「見えざる手」の助けを借りてブレイクスルーしようというわけである。

社内公募制とFA制は若干異なる。「社内公募制」は、会社が必要とするポストや職種の要件をあらかじめ社内に公開し、応募してきた者の中から必要な人材を選抜する仕組みである。これは、通常会社が外部に対して行なう人材公募のようなものが、内部で行なわれているようなものであって、内部ジョブポスティングとも言われる。それにたいし、FA制とは、プロスポーツのフリーエージェントシステムになぞらえる考え方で、社員が自らの過去の経歴や能力、希望する職種や職務を登録し売り込むものであり、その情報をみて、受入れを希望する部門がその社員と面接し、選抜する仕組みである。両者とも、企業内において、労働力の供給側と需要側がうまくかみあうような自由労働市場を作っていこうとする試みであると理解することが可能であろう。

ただ、過去のわが国の人事が、完全に従業員の意思とは関係のない配置転換で、それが近年変わっているのだとうわけでは必ずしもない。もちろん、過去にも、異動や転勤に関しては、本人の意思を考慮したりしたことが行なわれてきた。例えば、自己申告制度という制度で、本人のキャリア希望や配置転換希望を書くことを奨励したりしてきた企業も多い(ちなみに、厚生労働省の調査によれば、自己申告制度の実施率は16.2%となっている)。しかし、それらの試みはあくまでインフォーマルなものであり、そこには政治過程も介在する余地が大きくなる。つまり、インフォーマルがゆえに、政治的手腕に優れたものが自分の希望がかない「得」をする一方、そうでない人材が損な役回りを演じることもありうる。また、上司の暗黙なプレッシャーなどから、必ずしも本人の希望を率直に表現することが許されない風土もなくもない。

社内公募性やFA制は、本人の意思に基づく、社内の人材流動化を、より形式的な仕組みとして整備することによって、例えば応募には上司の許可を必要としないなど、内部労働市場の真の効率化を促進しようとする工夫から発してきており、会社本位の配置転換が必ずしも適材適所をもたらさないという認識を強めたわが国の企業への普及が急速に進んでいる。

例えば、社会経済生産性本部が2002年に実施した調査によると、社内公募制を導入しているのは、調査回答企業の34%で、規模が大きくなるほど導入率が高まり、従業員数5000人以上の企業では67.6%の導入率となっている。導入時期は2000年以降という企業が、34.8%、90年後半という企業が、32.6%で、社内公募制の普及は90年代以降で、近年になって急速に普及しはじめていることが伺われる。三和総合研究所が平成12年に行なった調査においても、社内公募性を実施していると回答した企業が、69%、また実施していないが今後実施を予定しているという企業も19%と、両方で88%もの企業が社内公募制に前向きの姿勢を示していることがわかる。社内FA制については、社会経済生産性本部の調査では、上場企業339社のうち2.7%がFA制を導入、10.6%が導入方向で検討中、そして「関心はある」が36.9%だった。

社内公募制を導入した理由は「新規事業やプロジェクトに積極的に挑戦する意欲の高い人を発掘するため」69.6%、「社員の自律的キャリア形成を促進、支援するため」55.4%という回答がもっとも多かった。三和総合研究所の調べでも、従業員の意欲ややる気を高めたい(84.6%)、適切な人材を見つけやすいから(45.9%)という回答が多かった。

社内公募性やFA制度の普及の背景には、成果主義の広まりという側面がある。従来の会社都合の配置転換の元で成果主義を行なうならば、必ずしも従業員の意思によって選択されたわけではない職場や職種において、成果に応じた報酬を受け取ることは、特に不本意な異動や転勤を伴った場合に着いては、不公平感の高まりにつながることになる。よって、従業員に対して成果責任を問うのであれば、その前に社員が部署や職種を選択する機会を与えることが、公平性を高めるうえでも必要なのである。

文献

  • 三和総合研究所 (2000) 職業能力に関する調査報告書(平成12年三和総合研究所)
  • 社会経済生産性本部 (2001)第4回 日本的人事制度の変容に関する調査」
  • 社会経済生産性本部 (2003)第6回 日本的人事制度の変容に関する調査」
  • 厚生労働省 2002 「雇用管理調査」
  • 労働省 (1990)「転勤と単身赴任」
  • 八代尚宏 (1997)「日本的雇用慣行の経済学」日本経済新聞社