ヒューマン・キャピタル戦略のフレームワーク

テンポラルワーカー、アウトソーシング、コンサルタント契約などの増大によって、従来ような自社の従業員のみを対象とする人事管理を超えた、新しい人材戦略の枠組みが必要になりつつあります。そして当然その枠組みは企業の競争優位を念頭においたものでなければなりません。

レパックとスネルらはヒューマン・キャピタルとしての人材を「価値」と「希少性」の2つの次元によって分類しました。「人材の価値」に関しては、自社のコアスキルに密接に関わる人材ほど価値が高いと考えます。そして特殊な人材ほど一般的に希少性は高いです。この2つの次元によって分類された人材グループごとに、異なる雇用モードを用いる、というのが彼らのコアの考え方です。

まず、価値および希少性の両方が高い人材グループについてですが、これは彼らのスキルを、その企業独特のものにして、競争優位の直接の源泉としていく必要があるため、企業内部に囲って内部で開発していくという雇用モードが優先されます。即効性もさることながら人材のポテンシャルに注目しているわけで、これはそれだけ手間と費用をかけて育てても採算が取れるという戦略的な判断から来ています。そして企業と彼らとの関係は特に密にし、彼らが企業に対する忠誠心、コミットメントを最大化するよう努力します。つまり、このグループに関しては、長期的雇用関係に基づき、最大の投資を行い、それを超える利益を得ようとする雇用モードだということです。

次に、価値は高いが、希少性は高くない人材グループについてですが、彼らは労働市場において比較的容易に調達できるという性格をもっているため、内部に囲って投資する、というよりは、すでに市場価値の高い人材を獲得するという雇用モードが優先されます。即効性のある人材を獲得するわけです。彼らとの関係は、比較的長期の経済的交換に基づいてなされ、雇用関係によってお互いが利益を得られる限り関係が継続されるようなものとなります。もしどちらかがその関係により利益を得られないようになれば(たとえば人材の市場価値が落ちたり、人材にとって企業の魅力がなくなった場合)関係は終了します。つまり、このグループの雇用モードは、マーケットベースで行われるということです。

3つめは、価値も希少性も高くない人材グループです。企業の活動においてはこういったグループもなんらかの形で必要となるわけですが、こういったグループに関しては、契約ベースの雇用モードが優先されます。人材の調達も容易であるため、短期的契約関係を中心になされ、雇用関係は短期的な経済交換関係、つまり双方が納得できる仕事量、報酬などに基づく契約、ということになります。これらの人材グループに対する投資は最小限に押さえ、企業から人材に対してある意味で一方向的に仕事を指示するような関係を築くようにします。

最後は、価値は低いが希少性が高い人材です。これらの人材は、企業のコアスキルとは直接関係があるわけではないが、職業として絶対数が少ないような人材を指します。これらの人材はなんらかの形で必要にもかかわらず、市場で調達することが困難な人材です。彼らに対しては、提携による共有化という雇用モードが優先されます。すなわち、希少性が高いので、他の企業などと提携して、共同で保有しようとする態度です。これは、自社にいる人材が提携先で働いたり、その逆が起こったりするわけですから、提携先との信頼関係の樹立が重要な要素となってきます。

今回のフレームワークは、資源論、ヒューマン・キャピタル、そして組織経済学における取引きコスト理論からの視点で組み立てられています。したがって、今回のような人材戦略のフレームワークが、前回までに述べてきたソーシャル・キャピタルと知識創造といった視点とどううまくかみ合うのかが興味深いところです。たとえば、異なる人材グループ同士が同じ企業で働くわけですが、彼らの関係はどうなるのか、どうあるべきなのかといった疑問が出てきます。つまり、今回の視点には、知識創造の源泉となる従業員同士の関係性という視点があまり考慮されていません。このような観点から、ソーシャル・キャピタルや知識創造の視点と、組織経済学的な視点との融合の試みが行われると面白くなると思います。