効果的に人件費を削減する方法

現在のような未曾有の経済不況はなかなか出口が見えてこない。そんな中、従来の年功序列、終身雇用などの影響による人件費の膨張が経営を圧縮しているため、なんとか人件費を削減したいと考えている企業が多いはずである。しかし、やみくもに人件費を削減することは、企業競争力の弱体化にますます拍車がかかることも懸念される。では、どうすれば効果的に人件費を削減し、なおかつ企業競争力を取り戻すことができるのであろうか。

人件費を削減するためには、採用の抑制やレイオフなどで人員を削減する方法や、社員の給与をカットする方法などがある。その中で、成果主義というのが流行るようになった。そう簡単に社員を解雇したりレイオフすることができないわが国の企業では、成果主義を取り入れることによって、成果をあげたものは報われるというお題目のもと、成果をあげられない社員の給与をカットすることによって、人件費全体としては削減していくという本音をはらませながら実施するケースが多い。しかし、このように、こしゃくな手段というか、せこいやり方で人件費を削減しようとしてもうまくいかないのである。成果主義だ、公平性・納得性の高い人事の実現だ、といっておきながら、内心は会社はわたしたちの給与をカットしたいのだということは、社員にすぐわかってしまうからである。

そんなせこいことをせず、どうどうと、社員の給与カットを宣言するべきなのである。いちばんいけないのは、何も手をうたぬまま、いつかは景気がよくなるだろうと他力本願を貫き、全員が共倒れ、つまり企業経営が破綻するところまで追い込まれることである。成果主義をはじめとする人事制度改革など「制度」をうまくつかって、気が付いたら人件費が削減されていたというように仕向けようとするせこいやり方も、真意はすぐに社員に伝わり、彼らのモラルダウンによる業績悪化が予測できる。

よって、正当な手段は、どのようにして削減するのかは別として、まず企業として人件費を削減しなければやっていけず、企業の存続さえ危ぶまれるということを正面きって社員に伝え、そしてその実行を宣言することになる。

その時に問題になるのが、社員の反応である。「これは大変なことになった。給料が下がってしまう。しかし、そんな大変な時だからこそ、皆で困難を分かち合い、力をあわせて私たちの会社の競争力を取り戻そう!」と社員が思うのか「給与がカットされるのなら、この会社にいる必要性があまりない。もっと給与を出してくれるところに転職しよう」「給与カットでは、まじめに働くのが馬鹿馬鹿しい。給与が低くなるのだから、適当に手を抜いて仕事をしよう」などと、社員の流出やモラルダウンにつながるのか。もちろん、この違いは企業にとって死活問題である。

多少詭弁めいたことなのだが、人件費を効果的に削減し、かつ企業競争力を取り戻す方法とは、そうなってしまったときに、正直に人件費削減の必要性を社員を訴え、なおかつ社員がそれを受け入れ、業績回復に向けて、これまで以上の力を発揮できるような企業を普段から作っておくことなのである。

とはいってもそれが容易でないことは多くの人が感じることであろう。では、給与カットを堂々と宣言したときに、優秀な人材からの流出がはじまったり、社員のモラールが下がってしまう要因について考えてみよう。

第1に、基本的に忠誠心に欠け、自分勝手な人材しか採用してこなかったという場合である。もともと会社への忠誠心などないし、よい条件があったら移ってやろうと考えている人材であるから、自社がどうもうまくいっていないと察したならば、さっさと別のところに移ろうと考えるのは自然なことである。それでも人材の能力が高ければ、企業としては調子のよいときは特に事業がまわっていくわけだが、いったん雲行きが怪しくなると、一気に企業競争力を失うわけである。よって、基本的に誠実な性格で、会社への忠誠心が高い人材をしっかりと選別して、また探し出して採用するということを日ごろ続けることが非常に重要なのであり、単に仕事ができるからとか即戦力だとかで採用するのは考え物である。採用をあまり重視しないというのも論外だし、採用したらしっぱなしで、教育しないのもしかり。忠誠心の高い人材をそろえていなければ、企業の非常事態の時に困難を共有し、献身的に尽くしてくれる力を得ることができない。

第2に、経営者や経営陣の人間的魅力、あるいは会社の経営理念や哲学の魅力に欠ける場合である。経営者が基本的に私利私欲を追求するタイプであったり、社員に冷たい会社であったり、社会的に見ても使命感の薄い商売をやっていたりする場合には、社員から見れば、なぜに苦しいときに献身的に会社に奉仕する必要があるのか、という気持ちになるのはあたりまえである。よって、経営者の人間的魅力や筋の通った経営哲学ははずせない要因なのである。この人にはとことんついていこう、自分の身を削ってでも会社を守りぬこうという気にさせるのは、こういった要素なのである。つまり、そこまでやらなくてもいいくらいなのに、この人のためなら、この会社のためならと、非常事態の時に社員が持てる力の十二分を出し切れってくれるくらい、社員に慕われる経営者あるいは企業でなければならない。

第3に、基本的に経営者や社風と社員との相性があっていない場合である。先にあげた2点を考えてみると、やはりどんなときでも誰に対しても誠実で忠誠心の高い人材はそういないし、誰に対しても慕われるような人間的魅力をもった経営者もそういない。しかし、相性によっては、お互いに引かれ会う経営者と社員というのは存在するはずである。特定のタイプの社員には徹底的に好かれる経営者と、そういう経営者にはとことんついていこうとする社員によって成り立つ会社、つまりマッチングがうまく作用している会社をつくっていくことも可能である。

こうしてみてみると、効果的に人件費を削減する方法は、単なる制度の問題ではないことがおわかりになろう。しかし、現実としては、うまくできますよ的な制度が出現すると、わが社もさっそく取り入れてみようという気持ちになる。それが、昨今の様々な人事制度改革ブームの一因でもあるように思われる。だが、どんなに制度を工夫してみても、もっと基本的な部分で経営が間違っていれば、それは効果的な人件費削減にはつながらないのである。成果主義などの制度はあまり問題でない。どんな優秀な企業であっても、これはやばいという経営状態になることはありうる。そんな苦しいときだからこそ、団結力を強め、力を出し合う会社を日ごろから作っておくことが、非常事態のときに、知恵をふりしぼったブレイクスルーにつながる可能性も高くなるのである。制度で人を縛ったりコントロールすることはいくらでもできる。しかし、その場合は、苦しい時になったら制度の穴をくぐって手を抜いてやろう、自分だけ余計に働くのはばかばかしいので、まわりを見て自分の働く量を調整しようなどと、魂のない計算づくの働き方になって、仕事への情熱もなくなるので、いっこうに業績回復にむけたブレイクスルーにつながらないのである。

今回説明した「秘訣」は、もう手後れとなってしまっている企業にはあまり参考にならないかもしれない。末期症状の場合はまた別の方策が必要となろう。よって、業績が思わしくないがまだ人件費削減の必要性がうすい会社や、いまは成長期である会社にこそ、わが身を振り返って実践してもらいたいものである。