組織慣性と組織変革

組織の持つ慣性とは、一言でいえば、組織において同じことが起こる力だといえます。よく、組織慣性が、組織変革に対する変化抵抗として働き、組織が環境に適合するのを妨げると言われます。では、この組織慣性と組織変革との関係を、組織エコロジーの分野ではどのように理論化しているのでしょうか。この関係を考えたのが、ハナンとフリーマンです。

彼らの第1の定理は「組織を取り巻く環境は、慣性力の高い組織を選別する」というものです。つまり、慣性力の弱い組織は、慣性力の強い組織に負け、自然淘汰されるというわけです。これは直観的には意外な感じがします。何故なら慣性力の高い組織は柔軟性の低い、硬直的な組織であるという印象があるからです。

その理由としては、慣性力の高い組織のアウトプットは安定しており信頼性が高く、また、同じ物を再生産するスピードも速いため、市場はそういった組織のアウトプットをより望むからです。信頼性が低く、再生産能力の低い組織は、慣性力の高い組織より競争力がありません。

彼らの第2の定理は「組織の慣性力は、組織年齢とともに高まる」というものです。これは、組織が競争に勝つためには組織の慣性力を高める必要があるためです。慣性力が高まらなければ、その組織は若いうちに自然淘汰され消滅してしまうからです。このことから、次の3つめの定理「若い組織ほど死亡率が高い」が導かれます。若い組織は慣性力が低いために自然淘汰される確率が高く、逆に年老いた組織は自然淘汰されずに生き延びた組織でかつ慣性力が高いため、死亡率が低いということです。

これまでの説明は、ある環境が存在するときに、その環境が慣性力の高い組織を選別する、というものでした。次に考えなければならないのは、この環境自体が変化する場合にどんなことが言えるか、ということになります。特に、環境が急激に変化する場合はどうなるのでしょう。

環境が変化すれば、高い慣性力によって信頼性のあるアウトプットを効率的に生み出してきた組織は、そのアウトプットが通用しなくなるかもしれないという危機に立たされます。そこで、再組織化という手段によって、新しい組織形態にする努力をする組織が現れます。この再組織化は、まったく新しい組織が出現するということに似ています。このことから、再組織化は組織年齢の時計をゼロに戻すようなものというメタファーも使われます。さて、再組織化の試みは何を意味するかというと、組織年齢の時計がもどって赤ちゃん組織のようになるわけですから、先の第3定理「若い組織は死亡率が高い」ことより、第4の定理「再組織化の試みは組織の死亡率を高める」が導かれます。つまり、環境変化に対して組織変革を起こす試みは、実は組織の死亡率を高めるということになります。

しかし、再組織化あるいは組織変革ができなければ環境の変化に対応できず、これまた死亡する確率が高くなるので、組織は、自然淘汰に打ち克って長生きできても、ある程度までいくと寿命を迎えることがわかります。組織変革は、成功すれば時計をまた逆戻りして若返るため、寿命が延びるわけですが、失敗すれば死亡してしまうので、リスキーな行為です。だから、組織変革に対する変化抵抗があるのも納得できます。

また、環境変化が激しければ、各企業は組織変革をする必要にせまられるわけですから、第5の定理「環境の複雑化は組織の死亡率を高める」が導かれます。