リーダーシップ理論の潮流

ここでは、リーダーシップ研究がどのような展開をしてきているかについて簡単に紹介します。

まず、最も原始的な研究が、リーダーシップ資質論、つまりリーダーたる人物には何が必要か、というアプローチです。駆動力、統率欲、誠実性、知性、業務知識、自信といった要素が代表例です。次に注目されたのは、資質ではなく行動が重要だと言う説で、大きくタスク志向型行動と人間関係志向型行動が特定され、この両方が満たされるともっとも高いリーダーシップが発揮できる、というようなものでした。

しかし上記の研究は、リーダーそのものだけに注目し、メンバーその他の要素を考えていません。リーダーは1人では成立しないのだからフォロワーを含めた形でリーダーシップを理解する必要があるという考えが発展しました。それがコンティンジェンシー(状況適合)理論につながりました。たとえばフィードラーのモデルにおいては、(a)リーダーとメンバーとの関係、(b)タスク特性、(c)リーダーの権力の3つの状況が極端に悪い場合と極端によい場合は、タスク志向型リーダーが実力を発揮し、その中間の状況では人間関係志向型リーダーが実力を発揮することを発見しました。その他、フォロワーの能力や熟練度によって異なる行動を必要とする説、フォロワーのニーズによって効果的なリーダーシップは異なる、などいくつかの理論が考えられました。

さらに、リーダーとメンバーとの間のやり取り(社会的交換過程)に注目する考え方も発展しました。たとえば、LMX(Leader-Member-Exchange)モデルにおいては、同じチームやグループ内でも、リーダーに近い人達(イングループ)とリーダーから遠い人達(アウトグルー
プ)がいることに注目し、それぞれのメンバーがリーダーに対してどのような思いを抱いているかなどで、リーダーシップの巧拙が決まるという点に注目しました。このように、リーダーシップにおけるフォロワーの役割に対する注目が高まってきたわけです。また、変化型リーダーシップといわれるタイプは、リーダーはむしろ変化のエージェントとしての役割を担うもので、主役はメンバーを含めたグループ全体であることを示唆しています。つまり、リーダーがどうあるべきかというのと同時に、メンバーがどうあるべきか、ということも考慮す
る必要が認識されてきたということも言えます。また、経営トップなど、いわゆるカリスマ性を要求されるポジションの研究でも、リーダーの特性はさくことながら、フォロワーのどのような要素(たとえば感情的な部分等)に影響を与えているか、という視点で研究されるよ
うになってきています。

こういった、リーダー、メンバー、そしてリーダーシップのプロセスを統合的に理解するために、パワーという概念を用いた考えが発展してきました。リーダーシップは、パワーに関するプロセスだと理解するわけです。パワーは、相対的地位から来る権力、知識、報酬を与えることができる能力、恐怖心を与えることができる力、皆に好かれていること、などから来るわけですが、このパワーは組織内、グループ内に分布しています。リーダーがすべてのパワーを支配しているわけではありません。リーダーよりメンバーの方がある業務の専門知識が高ければ、その人にパワーがあります。

注目するべきは、組織やグループの目標を達成するために、これらのパワーがどのように用いられるべきか、ということです。各人が自分の目標を達成するためにパワーを用いるようになってしまっては、それは政治行動につながり、組織やグループにとって好ましくないことが起こりうるわけです。パワーがうまくメンバー間に分布されると、いわゆる全員参加型のグループ運営も可能となります。こういったプロセスは、パワーを握っている人間がパワーを分け与える「エンパワーメント」という行為によって達成されます。ただし、全員参加型の運営能力がないメンバーにエンパワーしても意味がないとも言えるところが難しいところでしょう。また目標が共有されていることも大変重要です。

特定のリーダーを設けない、自律型チーム運営に関する研究が発達したのも、こういった歴史的背景が関係しています。また、エンパワーメントのプロセスとして、モデリングやメンタリングといったプロセスにも注目されることになりました。

このような研究の流れを見ると、リーダーシップというのは、単にリーダーをどう育てるか、といった問題ではなく、もっと複雑なプロセスの理解が必要であることがわかります。リーダーの役割、メンバーの役割、その他の環境、すべてを考慮する必要性から、「文化」とい
った概念もリーダーシップと深い関係のあるものとして援用するようになってきたこともうなずけます。