上司と部下の「わかり合えない理由(わけ)」

リーダーシップ研究の中には、特にリーダーとメンバーとの関係に注目しようとするものがあります。LMX(Leader-Member-eXchange)理論はその代表例です。今回は、その中でもリーダーとメンバーが状況をどのように解釈するかという視点からの理論を紹介します。

リーダーが頭を悩ませることの一つに、優秀でないメンバーをどう扱うか、というのがあります。これは、リーダーとメンバーが結果の原因を何に帰属させるかという視点から分析すると、事はそれほど簡単ではないということが理解できます。

人間が物事の結果を解釈する際に、何が原因でそうなったかを考えることは「帰属過程」と呼ばれますが、これにはいくつかの特徴やバイアスがあります。そしてそのバイアスがしばしば問題を引き起こします。

一つは、人は、誰かを観察するさい、その人を取り囲む出来事の原因を、環境よりも人そのものの属性に帰属する傾向がある、というバイアスです。これは、リーダーから見て、部下がなんらかの失敗をした場合、それが環境が悪かったからそうなったのだとしても、部下の能力が低いとか努力が足りないなどが原因だと決め付けてしまう傾向があるということです。もう一つは、人は成功は自分が原因だと思いがちで、失敗は環境が悪かったのだと思いがちだというバイアスです。この両方のバイアスの存在によって、部下が失敗した場合の原因の取り方にリーダーとメンバーの間で大きな相違が生じるわけです。部下は、失敗が環境のせいだと思っているのに、リーダーが失敗は部下の努力不足だと思い、罰を与えたりするならば、問題はより深刻になります。

次に、人は自分の考えや行動は常識的であって、自分と違う考えは少数派であると考えがちなバイアスがあります。このことから、リーダーとメンバーが同じ価値観である場合はいいのですが、もし違う価値観であるならば、お互いに相手の考えや行動は常識から外れ
た少数派であると考えてしまうことになります。したがって、なにかまずいことが起きた場合には、お互いが相手を責める結果になります。

次に、人は自分の利益になるような行動をしてくれる人を、よい人であると判断してしまうバイアスがあります。これは、たとえ業績が悪くても、メンバーが自分の利益に結びつく行動をした場合にはメンバーをたたえることになるし、逆にメンバーの業績がよくても、それが自分の利益に結びついていない場合はメンバーを責めるという行動に結びつきます。

このように、人間は物事の原因を帰属させるときにはバイアスを持っているものなので、それが原因で起こる問題も少なくはないわけです。物事の原因を間違えると、効果的な対処ができません。たとえば、その人の能力が低いのに、努力不足が原因だと思ってしまっ
たり、逆に努力が足りないだけなのに、その人の能力がないと思ってしまったりしては、効果的な対処法を見出せません。メンバーにしても、環境が悪くてよい業績が出せないのに、メンバーのせいだと決め付けられて罰を与えつづけると、どうすることもできないた
めノイローゼになってしまうでしょう。

リーダー、メンバーのそれぞれが、状況を正しく認識して、物事の原因を正しく帰属できるような工夫をしないかぎり、このような問題は解決されないでしょう。

参考

Martinko MJ & Gerdner WL (1988). Leader-member attribution processes. Academy of Management Review, 12, 235-249.