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by jinjisoshiki

特集:コンピテンシー・マネジメント



近年、コンピテンシー・マネジメントへの関心が高まっている。しかし、コンピテンシーという言葉が新しいために、本質を理解しないまま、やみくもに導入しても、効果はあがらない。そこで今回は、コンピテンシー・マネジメントに関して知っておくべきコンセプチュアル・フレームワークを提示する。

コンピテンシー・マネジメントの基本原則

「コンピテンシー・マネジメントは経営戦略と連動していなければならない」

コンピテンシーとは何か

コンピテンシーのオリジナルの定義は、マクレランド(1970年代)のもので「パフォーマンスにつながる心理的・行動的特性」とされている。近年の解釈では、ハイ・パフォーマーとロー・パフォーマーを分ける知識・スキル・能力・その他の特性「Knowledge, Skill, Ability, and Others (KSAO)」と考えられている。

コンピテンシーがどのように企業の競争優位を導くのか

コンピテンシーと企業の競争優位との関係を図に示す。以下において、競争優位につながるコンピテンシー・マネジメントのそれぞれのコンポーネントについて具体的に説明する。

コンピテンシーのレベルを知っておく

コンピテンシーにはレベルがあることを忘れてはならない。大きく、個人レベル、グループまたはチームレベル、そして組織レベルに分かれる。

重要なのは、それぞれのレベルは密接に関わっているが、単なる加法的関係にあるのではないことである。つまり、個人コンピテンシーの総和が組織コンピテンシーというわけではない。そういう意味では、それぞれのコンピテンシーは独立している。例えば、チームコンピテンシーというのは、チームとして持っている知識・スキル・能力、そしてその他の心理特性や行動特性なのである。チームを構成する個人が高いコンピテンシーを持ちあわせていても、チームコンピテンシーが低い場合がある。逆に個人としてはコンピテンシーが劣っていても、チームとして高いコンピテンシーを持ち合わせている場合がある。

コンピテンシー・マネジメントの第一の目的は、個人・グループ・組織それぞれのコンピテンシーを高め、競争優位の源泉となるコア・コンピテンシーを築き上げることである。

 

未来の競争優位の源泉「コア・コンピタンス」

コア・コンピタンスは、企業が持続的に競争優位を維持するためのスキルセットである。個人・グループ・組織の各レベルのコンピテンシーは、コア・コンピタンスの構築・維持に貢献する。コア・コンピタンスは一朝一夕では構築できない。蓄積の期間が必要である。コア・コンピタンスの構築には、経営戦略のセンスが必要である。未来にどのような知識・スキルが自社の競争優位に貢献するかという先験的なセンスをもって、必要となるコア・コンピタンスを定める。そして、それを蓄積するべくマネジメントを行うわけである。

コア・コンピタンスは、長時間かけて築きあげた、他社が簡単に真似したり、盗んだりすることが困難な企業の資源である。

 

コア・コンピタンスが具体的な能力「ケイパビリティ」に

一方、ケイパビリティは、具体的な組織のオペレーション能力であって、コンピタンスが顕在化したものである。実際のテクノロジー、ノウハウ、特許、など、具体的に組織を運営して利益をあげる仕組み、最近の流行で言えば「ビジネスモデル」に近い概念がケイパビリティに該当する。そして、こういった具体的なビジネスモデルに仕上げ、実際に効果的に運営するための潜在的能力が、コンピタンスである。

注意しておくべき近年のトレンド

コンピテンシー・マネジメントを実践するにさいし、注意しておくべきトレンドがある。

  1. コンピテンシーの短サイクル化
  2. 将来を見据えたコンピテンシーの重要性
  3. グループ・チームコンピテンシーの重要性の高まり
  4. 組織学習プロセスの強化

まず、コンビテンシーが陳腐化するスピードが高まっている。したがって、現在の視点でコンピテンシーを考えるのではなく、常に一歩先を進んで視点が必要となってくる。また、個人レベルよりも、チームとしてどう効果的に活動していくかという視点が重要になってきている。そのために、短サイクルのコンピテンシーを常にチームレベルでアップデート(更新)していくことが可能なHRMシステムの構築が臨まれている。

コンピテンシーの構造に関する留意点

コンピテンシーにはいくつかの階層があり、その構造を押さえておくことがコンピテンシー・マネジメントに役立つ。まず、コンピテンシーは、企業という枠を超えた、ユニバーサルな要素を含んでいる。これは、どの組織にも通じる知識・スキル・能力であり、特に、同じ職種、同じポジションやタイトルであれば、最小限持っていなければならない要素でもある。こういった要素をつかむためには、ベストプラクティスアプローチによって、企業横断的に必要となるコンピテンシーの把握に努める必要がある。

次に、組織のコア・コンピタンスの構築に必要な部分や、組織固有のスキルを必要とする部分については、経営戦略の重要な役割を果たす。戦略は企業の将来に向けた方向性を指し示すものであり、当然のことながら必要となるコンピテンシー、特にユニバーサルではなく、企業に固有のものに関しては、戦略に沿ったものでなければ、競争優位に貢献しないということになる。

さらに、一般的、組織固有のコンピテンシーを包み込むソフトなコンピテンシーとしては、コンテキストに関わるコンピテンシー、特にコアとなるスキルやコンピテンシーをコンテキストの部分からサポートするための行動特性などが考慮されなければならない。これにもっとも影響を与えるのが、組織文化で、文化が組織の人々に、コアスキル以外あるいはフォーマルな役割以外のあくまで自発的なサポートとして、どのような活動が必要なのかなどについての暗黙的なメッセージを与えることになる。こういった要素もコンピテンシー・マネジメントに十分に取りいれていくことが望ましい。

ジャスト・イン・タイムなHRMシステムの必要性

常にコンピテンシーを新しいものにアップデートしていけるためのジャスト・イン・タイムなHRMシステムの存在が、コンピテンシー・マネジメントのキーとなる。そういう意味でのインフラをいかに整えることができるか、が競争優位の獲得に大きく影響するであろう。そのような人事システムも、他社が真似することのできない、競争力の源泉となっているわけである。

人的資源もコア・コンピタンスの源泉となりうるが、人事システムそのものも、コア・コンピタンスとしての資源であることも覚えておく

コンピテンシー・パフォーマンス・スパイラル

コンピテンシーの開発で忘れてはならないのが「自信」という要素である。コンピテンシーがつけば自信が高まり、自信が高まればそれが業績に繁栄される。しかし、これは単一方向、一回きりのことではなく、サイクルを形成していることに注目したい。つまり、業績そのものも自身につながり、その自信がコンピテンシーの開発を促進するという側面である。そのためには、大きな試みで失敗するよりも、小さな試みでの成功体験を積み重ねることにより、コンピテンシー・パフォーマンスのスパイラルを醸成していくことである。このスパイラル・サイクルが軌道に乗り、かつ大きなサイクルに成長していくことによって、より効果的なコンピテンシー開発が可能になろう。

個人コンピテンシーとHRMプラクティス

個人コンピテンシーがどのような因果関係構造を持っており、どのように変化する可能性があるか(学習効果など)をよく理解することが、個人個人を組織の中で生かすための人事プラクティスを可能にする。グループ、チームといった単位での活動の重要性が高まっているとはいえ、多くの人事プラクティスが、個人をベーストする対応を必要とすることから、個人コンピテンシーをベースとする採用・トレーニング、評価、処遇といった施策の設計は必要不可欠である。

図からもわかるように、理想的な人事プラクティスとは、個人がもっているポテンシャルに基づいた選別(特に企業のコア・コンピタンスにつながるようなコンピテンシーニーズと個人の知識・スキル・能力とのマッチ、そして企業理念や目標と関連する文化と個人の性格とのマッチ)から始まり、それらのポテンシャルが実際のパフォーマンスにつながるための学習を促進させるためのトレーニングサービス、コンピテンシーの開発を監視する評価システム、そしてコンピテンシーおよび結果に基づく処遇制度の確立である。

コンピテンシーは、様々な異なる要素が複雑な因果関係によって有機的に結合していくプロセスであると理解するべきである。

個人コンピテンシーよりもマネジメントが難しいグループコンピテンシー

制度としての人事プラクティスが、個人別の対応に多くの注意を払うのに対し、日常の人事マネジメントにおいては、よりグループコンピテンシーのマネジメントにウエイトがかかってくる。そしてグループコンピテンシーは、より複雑なプロセスが介在するため、マネジメントが難しい。

グループコンピテンシーの直観的な捉え方の一つは、個人コンピテンシーの拡張である。つまり、各々のグループやチームにはそれを特徴づける性格やトーンがあるわけであり、またグループとしての知識・スキル・能力がある。次に、単なる個人の拡張ではなく、グループを運営するさいのプロセス自体に注目してみる。そこでは、個人の利益とグループの利益の葛藤という側面も多々ある。個人とグループ、ひいては組織の利害が完全に一致することは理想ではあるがそうは簡単には行かない。そこで、どうこの葛藤をもっとも望ましい結果に変えていくかということを真剣に考えなければ、よい人事マネジメントは実施できないわけである。

最後に:責任をもって推進を

さらに具体的なかたちで、どうコンピテンシーマネジメントを導入していくか、どういったHRMシステムが必要なのかについては、ウェブマガジンの範囲を超えるので、実績のあるコンサルティング・ファームなどに依頼することになると思うが、決して受け身になってはいけない。何をもって自社の競争優位とするかを決めるのは自社の責任である。つねにコンピテンシーマネジメントの基礎となるコンセプトを忘れないで、競争優位性を獲得するための経営戦略に沿ったものにするべきである。

次回は「360度フィードバック」を予定しています。