職務モチベーション改善戦略の手引き

人材の職務モチベーションはパフォーマンスを向上させるための大きな要因である。そのために、まず人材の職務モチベーションに問題があるかどうか判断する「診断」の機能、さらに、モチベーションの問題の種類に応じて、適切なモチベーション向上施策を実行する「戦略」の機能が必要となってくる。

職務モチベーション問題の診断

モチベーションに問題があるかどうかを診断する際の大原則は、「その人の行動と発言に注目し、その原因を考える」である。その原因を考える際に注目するべきポイントは以下の点である。

@ その人がどんな目標を持っているかに注目する

A 快楽原則(人は楽しい方向に行動し、苦しいことを避ける)を用いて理解する

B 自尊心維持の原則(人は自分のイメージを肯定的に保とうとする)から理解する

C コントロール志向性(人は自分が他をコントロールできる環境を望む)から理解する

D 刺激へのニーズ(人は適度な刺激、チャレンジングな環境を求めている)から理解する

E 社会的比較の原則(人は他者を比較対照にする)から理解する

人間は未来志向型の生き物であり、未来に関する何らかの思いが現在の行動に大きく左右する。その代表例が「目標」である。目標が人々をある行動にモチベートする。したがって目標が何かを追求することはその人の行動を理解する有効な手段である。また、人は快楽を求め、苦しみを避ける生き物であるため、実際の行動が何らかの快楽に導かれているのか、苦しみを逃れようとしているのかという観点から分析可能である。また、誰でも自分が傷つきたくない心理を持っているから、それを守ろうとする行動なのかどうかという視点での理解もできる。さらに、自分が他をコントロールできない環境であればストレスがたまり、行動に影響がでるだろうし、刺激やチャレンジングなハードルがない職場であれば退屈さを感じてモチベーションが湧かないだろう。また、多くの行動が、他者との比較に基づいた判断の結果なされているという事実も忘れてはならない。

次に、モチベーションのプロセスを、3つの要素に分解することによって、よりモチベーションの問題を細かく分析することができる

@ 精神的高揚(個人のニーズ、理想との乖離、自己認識、性格、感情などと関連)

A 注意と方向性(目標の設定、期待感、価値観などと関連)

B 強度と持続性(理想との乖離、目標の性質、信念、内的動機、性格などと関連)

精神的高揚は、ニーズや目標、他人の存在や期待、その人の本来の性格、達成感などに左右される。注意と方向性に関しては、自分自身で定めた目標とそれに到達する計画、また他人や組織から与えられた目標、本人の期待と対象の魅力度、報酬、個人の性質のうち、リスク選好度や達成意欲の強さ、などに左右される。強度と持続性については、それがモチベーションの強さを示していることから、実際のアクションにいたる前段階だということが言える。これは、自己の規律性、信念の強さ、目標の内容、仕事のそのものの面白さ、フィードバック、などに左右される。

実際の診断プロセス

実際の診断プロセスにおいては、まず、個人の行動やパフォーマンスが、期待値から離れていないかどうかチェックすることが求められる。次に必要なのは、それが本当にモチベーションの問題なのか判断することである。しばしば私たちは問題があるとそれを個人の性質に帰属しがちであるが、実は本人のモチベーションではなくて、別の外部要因によって期待値から外れた行動やパフォーマンスが起こることもありうることを念頭に置いておく。行動やパフォーマンスの問題は「モチベーション」「能力」「環境」という3つの要因のどれかであることを理解しておくことが望ましい。本人の能力の問題なのにモチベーションの問題であると判断したりすると問題を解決できない。職務パフォーマンスの問題に関しては、次の要因を分析するのがよい。

@ 内的要因(本人の知識、本人の能力、本人の欲求)のどれかに問題がないか

A 外的要因(環境のデータ、職務遂行に必要な要素、インセンティブシステム)を調べる

次に、モチベーションの問題だと判断された場合には、それがモチベーションのどの要素の部分における問題なのかを判断する。たとえば、本人が退屈に感じているとか面白さを感じていないといった問題は、精神的高揚に関連した問題であるし、やる気はあってもちぐはぐな行動をとっている場合は、注意や方向性の問題であるし、また、本人が求められているに十分な量をこなさない場合は強度の問題である。また、「弱い状況」と「強い状況」かの判断も必要である。強い状況、というのは、人の行動がある程度規定されている状況で、そういった環境においては個人差があまりでない状況である。一方、弱い環境では個人差がでるので、個人的にモチベーションが弱い人にとって問題が顕在化する。

モチベーション改善戦略の選択

職務モチベーション問題の改善策として考えられる処方箋は、いくつかあり、ある状況に関してこればベストである、という改善策を見つけ出すことは容易なことではない。それは日常の出来事はあまりにも複雑であり、解が1つに決まることはないからである。そこで、処方箋についていくつかの特徴を把握した上で、総合的判断により決定することになる。そこで留意するべきこととして、ミクロなレベルの処方箋と、マクロなレベルの処方箋があること、処方箋によって、コストに違いがあること、があげられる。処方箋を分類すると、大きく分けて次の4つの戦略が考えられる。

@ 個人と環境のベストフィットを作り出す戦略(ニーズ・サプライ・マッチ)

A 個人の目標設定プロセスに介入する戦略(自己規律プロセスの強化)

B 職務デザイン、組織コンテクストを変える戦略(マクロな処方箋)

C 報酬・罰によってコントロールする戦略(外部コントロール主体の戦略)

まとめ

診断フェーズ

@ 期待値と実際の行動・パフォーマンスとの乖離を認識する

A 重要度はどれくらいか、特に重要でなければ放置してもよい

B それは環境が問題なのか、そうであれば、問題となる環境を取り払う

C それは本人の能力の問題なのか、そうであれば選別、教育訓練、適正配置を考える

戦略フェーズ

@ どのモチベーションプロセスに関わっているのか(高揚、選択、持続)

A それは個人差の問題なのか、そうであれば選別、適正配置を考える

B 現在の状況で実行可能な処方箋を列挙する

C 個人をターゲットにするのか、グループをターゲットにするのか決める

D コスト対効果などから適切な処方箋を選択する

参考文献

Mitchell, T. R. (1997). Matching motivational strategies with organizational contexts. Research in Organizational Behavior, 19, 57-149.