日本が復活するためには

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日本は復活する可能性がある。もし日本が復活に必要な条件をクリアすることができれば、日本は新しい世界に必要な独自のシステムを生み出し、それを伝播させることによって国際的リーダーシップを発揮することができる。
将来の日本のシナリオを考えるにあたって、日本の未来を形成する外的要因としての「世界を動かすメカニズム」と、内的要因としての「日本人の精神構造」という2つの側面から考えてみよう。すなわち、自分達のコントロールをはるかに超えるファクターとしての外的要因と、自分達で未来像を描き、未来への目標に向かって意思決定をくりかえしながら積極的に環境に働きかけていくポテンシャルという意味での内的要因との相互作用により、数十年後の将来が具現化すると考えるのである。そして日本が再生するためには、世界全体を動かす歴史的法則やメカニズムを深く理解するとともに、日本あるいは日本人の持つ真の強さを再発見・再認識し、それを十分に生かしていくよう努めることが必要である。したがって、本論文では「傍観者」としての未来予測ではなく、私たち日本人が「主役」としてどう未来を創っていくかについて考えていく必要性を強調したい。以下においては、世界全体を動かすメカニズムを3つの要素からなるフレームワークによって理解し、さらに日本人の強みに関する分析を通じた真の強さの発見により、日本再生のための条件を述べる。

外的要因を考える際のフレームワークは、「慣性の法則」「突然変異と浸透」「相互依存性の進展」の3つである。「慣性の法則」が意味するのは、現在進行している大きな時代の流れはそう簡単には変わらないということである。それに対して「突然変異と浸透」が意味するのは、数十年というタイムスパンを考えると、まったく予想のできなかった出来事がきっかけとなり、それが急速に拡大・浸透して世界を変える可能性があるということである。これには現在において存在していないものが将来は日用品になっているといったような産業レベルの話から、大地震などの天災をきっかけとする環境変化や、社会システムそのものの根本的な転換を迎える可能性も含む。さらに「相互依存性の進展」が意味するところは、近年世界中の経済・社会の相互の繋がり、いわゆる「コネクション」が急速に発達しかつ複雑化しており、その結果として、遠い国や地域で起こった出来事であっても、それが日本、また世界全体に大きな影響を及ぼすような時代になってきているということである。

次に、日本人の精神構造や行動特性といった内的要因の考察を行う事によって、日本人は今後どうすればよいのか、という「べき論」について考えてみる。日本人の精神構造を重視するのには理由がある。第一に、未来はまず人々の心の中で創られるということである。人々の心の中で作られた未来像が暗ければ、人々はそのように行動し、結果としての未来も暗いものとなる。一方、人々の心の中でつくられた未来像が明るければ、それを実現するために努力することによって明るい未来が築けるのである。第二に、日本人の精神構造には他民族にはない強みが含まれていると信じるためである。その強みを十分に生かすことによって、日本は世界のリーダーシップを取ることさえできるポテンシャルを含んでいると考える。

それでは日本の精神構造の特徴とはなんであろうか。日本人の特徴として、個人としては弱く見えるが「集まると強い」というところがある。個人主義的要素の強い西欧人は、個人として見た場合われわれよりも強くたくましい感じがする。しかし、日本人同士が寄り集まると、西欧の人々がグループを組んだ場合よりも強さを感じる。西欧の人々のグループが「線で結ばれたネットワーク」のイメージなのに対し、日本人の集団は「面をもった全体」であるようなイメージである。これは、日本人の精神構造は自我の部分が比較的弱く、むしろ他者との一体化に価値を見出す特徴があるからであると思われる。「顔の見えない国」といった海外からの批判はこの性質を言い当てたものであろう。また、日本人同士はいわゆる「空気」を共有することにより、欧米人同士にはない「深み」や「厚み」を創り出す。こういった要素が、日本人の集団を「非常に厚みのある強い全体」にしている。例は悪いが、開国から世界大戦に至るまで、結局敗戦はしたものの、日本人の団結力は世界にとって脅威の的になるほど強いものであった。同じように高度成長期やバブル期の「カイシャ」の海外進出も、同様に世界の脅威となったことは間違いない。このように、日本人の集団がポテンシャルとしては非常に高い能力を持っていることは歴史が証明している。ここでひとつ言えることは、この特徴を強みとして生かすためには、これまでどおり地理的にも結集している必要がある、ということである。つまり、華僑のように世界中に散らばってネットワークを形成するような形では力を発揮しにくい。日本において西欧的な個人主義がさらに浸透したり、日本が人種のるつぼになってしまうようでは、個々人のベクトルはバラバラとなり、また団結力も弱まり強みが生かせなくなってしまう。

このような日本人の精神構造をさらに掘り下げると「一度全体の目標が定まれば強い」ということに行き着く。つまり、いったん個々人のベクトルが何らかの方向性に向けて一本化されれば、日本は非常に強いパワーを発揮することになる。高度経済成長期には「欧米に追いつけ」というキャッチアップ目標がパワーの源泉となった。したがって、すでに経済が欧米に追いつき、しばらく共通の目標を失っていたわれわれ日本人は、全体としての何らかの新しい目標を共有する必要がある。かつ、目指すべき目標は、人類の幸福という観点から見て「正しい」ものでなければならない。そして正しい目標に向かって進めば、必ず良い結果が生まれるはずであると信じることである。例えば、環境問題の解決に寄与すべく、環境技術の発展に力を注ぐということは、地球を守り、人類を守るという観点から「正しい目標」の一つといえるだろう。こういった目標の一本化を成功させるためには、政治学者や経済学者による分析だけでなく、心理学者をもっと政策に参加させ、日本人の精神構造にインパクトを与える政策をとるべきではないだろうか。第二次世界大戦の無残な敗戦から現在に至るまで大きな復活をとげることができたのだから、現在の状況が悪いとはいえ、それを悪化させるか、再生するかは、日本人のこころのあり方にかかっている。未来は創るものである。明るい未来を創ることができる「こころの改革」こそが、私の考える日本再生の条件である。

それでは、将来に向かって具体的にわれわれはどのようにしていけばよいのだろうか。以下においては、本論文のまとめとして、前段で展開した外部要因、つまり世界を動かしている法則性の理解と、これまで展開した内部要因、つまり未来を創っていく日本人の精神構造の両者を勘案することによって、日本が目指すべき方向性、心構えを示唆したい。

まず、現在の金融危機・経済の停滞であるが、これに関しては、ショック療法などによって抜本的に日本のシステムを欧米型に変えてしまうのは良くないと考える。「慣性の法則」に従うなら、将来、世界は欧米型のシステムが浸透していき、日本がそれに従わなければ沈没してしまうと考えるのが自然である。しかし、これ以上欧米型のシステムが浸透すれば、間違いなく人類を滅ぼす方向に進む。歴史的に言うならば、欧米の個人主義的な考え方は、科学という文明の利器を発達させ、人類の幸福に寄与してきた。しかしその一方で、政治、経済、軍事、どれをとっても、個人主義あるいは自国中心主義による自己主張、自己利益の最優先が摩擦を生み出し、国際関係の緊張や地球破壊のリスクを高めている。現在の平和維持は、緊張が一時的に均衡状態になっているだけであり、大きな争いに発展するポテンシャルは依然として高い。現在の世界システムのベースとなっている個人主義、あるいは欧米のシステムが変わらない限り、人類の幸福は望めないわけである。したがって、日本は現在の経済危機に関しては、新しいリーダー達が国民の自信を回復させることによって「日本独自のシステムの構築とその防衛」に全力を注ぐべきである。先にも述べたように、日本独自のシステムは、人類の幸福という大きな観点から「正しい」ものにする必要がある。例えば、環境技術を軸に日本自身を地球に優しい国に変えていくといったような目標にしたがって、日本の強みを十分に生かしたものにすることである。そういった独自のシステムを構築し、それを無事防衛できれば、次はそのシステムが世界の模範となっていくはずである。何故なら、近い将来、欧米自体も自分達のシステムが限界に来ていることに気づき、模範とするべき新しいシステムを探しはじめると思われるからである。

日本国民の信頼を得たリーダー達は、さらに日本の「こころの改革」を進めていくべきである。ここでいう「こころの改革」とは、自国民の強みを、第二次世界大戦の全体主義、高度成長の輸出攻勢といったような対外的にアグレッシブな攻撃力として活用するのではなく、日本人の精神構造の優位性・必要性を、他国に「諭して」いくという形で伝播させ、ゆっくりと世界のリーダーとしての足がかりをつくっていこうとする心構えを作ることである。そのためには、日本自体が、「個人主義パラダイム」に代わる「全体重視パラダイム」の誕生および発信の地として生まれ変わるよう一致団結することである。

外交では「和して同ぜず」の精神で、決してアグレッシブに自己主張しないが、自分の考えの一貫性は維持する、そうすることによって世界からの理解と信頼を得て、新しいタイプの国際的リーダーシップを確立していく。また欧米各国も、将来には個人主義の限界に気づき、求められる新たなパラダイムの模範として、日本人の持つ精神的特質に注目し始める。その結果、世界中のあちこちで「突然変異」的な精神世界のパラダイム変換が実現し、個人主義パラダイムは急速に崩れ、全体性を重視するパラダイムが「浸透」していくであろう。また、日本は真に地球にやさしい産業の発展を推進していくための「環境技術」「省エネルギー技術」といったような分野で創造力を発揮し、優れた技術を生み出していくであろう。他国もそれに追随し、ついに地球全体の環境悪化に歯止めがかかるであろう。

日本国民の精神のベクトルが一致し、同じ目標に向かっていく姿は「正しい羅針盤」を持つ大きな船に喩えられる。それに対して、日本を取り囲む世界全体は「海」である。ときには荒波が船を襲うかもしれない。しかし、船員が力を合わせ、羅針盤をもとに正しい方向に向かってこぎつづければ、必ず明るい将来という目的地に到達できる。日本が「開国」するのではなく、世界が日本を「模範」とする時代が近づいている。日本人はそれをよく自覚し、将来、日本が国際的リーダーシップをとっていくチャンスを逃さないようにするべきであると私は考える。
最後に、当然のことながら将来の日本を言い当てることは不可能である。繰り返しになるが、もっとも大切なのは、未来を予測するのではなく、創っていくことである。明るい未来を創るためにはまず日本人の精神構造の中に、非常にポジティブかつビビッドな将来像が描かれ、外的要因としての世の中の仕組みを十分理解した上で、かつ日本の強みを生かしていく行動が求められるのである。本書の登場をきっかけに、さらに多くの明るい将来シナリオが描かれていくことを期待する。