トーナメント型昇進システムの特徴と限界

日本企業の多くは、企業業績を高めるための人事管理施策として、従業員の業績に応じた報酬を支給するというやり方ではなく、トーナメント型昇進システムという方法を用いてきたといえます。このシステムの基本は、企業にいくつかの階層があり、同じ階層であれば従業員の業績に関わらず報酬が一定である、という点です。しかし、階層が高くなるにつれ、報酬の額も上がっていくので、ある意味では階層上のポジションに対応した報酬制度であるといえます。たとえば、係長になればいくら給料が増える、課長になればいくら給料が増える、といった具合に報酬が高まっていく仕組みです。

一般的に日本的経営は年功序列賃金であるといわれていましたが、新卒で入社した同期全員が同じ階層を上がっていけるわけではなく、階層ごとに選別が行われ、選ばれたものだけが昇進するという仕組みになっているわけです。これをトーナメントという言葉で喩えています。したがって、当然そこには競争が生じることになり、その競争が企業業績を向上させるのに働くというメカニズムとなっています。すなわち、同階層では報酬額が一定であったとしても、企業業績に多く貢献できた者が次の階層に上がれるというインセンティブが働いて、皆が企業業績向上に向けて努力します。これはある意味では、業績に応じて報酬を支払うというやり方に比べてコストの安い方法であるといえます。これは特に組織における階層の数が多い大企業に向いている方法でもあります。

しかし、このようなトーナメント型昇進システムにも欠陥と限界があります。第一に、ある階層でもっとも業績が高い人が、次の階層の職務でもっとも高い業績をあげることができる人であるとは限らない、ということがあります。たとえば、現場レベルで高い業績を上げられなくても、管理者としては高いポテンシャルをもっている人もいるでしょう。逆に現場レベルで優秀な人が管理者として優秀であるとは限りません。仮にその人が、高業績が原因で管理者に昇進してしまったならば、下の階層の力が弱まるばかりかマネジメント自体も弱まってしまいます。仮に昇進の選択が次の階層におけるポテンシャルを加味して行われたとしても、それは次の次の階層におけるポテンシャルを加味しているわけではありませんから、2つ上の階層にもっとも適した人材が現在の位置で高い業績を上げられず、かつ1つ上の階層のポテンシャルが低ければ、その人は2つ上の階層に上がることはできません。極端な話、社長ともっとも下の階層(新卒レベル)に求められる能力は全く異なるはずなのに、社長候補も最下層からトーナメントを勝ち進んでいかねばならないわけです。これは適材適所という観点から見ると、効果的なやり方であるとはいえません。すなわち、従業員すべてが昇進と同時にアウトプットレベルが上がっていけばよいですが、ある階層でもっともアウトプットレベルが高く、それよりも上の階層ではアウトプットレベルが落ちてしまう人材が混ざっていると問題が深刻であるわけです。

次に、企業が常に成長していなければこのシステムはうまく働かない、ということがあげられます。仮に、利益率がどんどん下がっていく産業に属する企業であったとするならば、業績連動型の報酬制度に比べて、トーナメント型昇進システムの場合、全体としては低い業績の中で、あるレベルの報酬水準を維持していかなければならないため、どんどん人件費負担が大きくなってしまうことになります。さらに全従業員に対して毎年一定の昇給をしていた日本企業は、このような限界によって大きな問題を抱えることになってしまったといえます。