従業員満足は本当に企業業績を高めるのか

本コラムでも何度か登場してきた、職務満足とパフォーマンスの関係について、再度考えてみたい。これまで、この関係については個人レベルの研究を中心に紹介してきたが、今回は、企業レベルのパフォーマンス、すなわち企業業績と職務満足との関係にトピックを移してみよう。

さて、以前のコラムでは、職務満足とパフォーマンスとは関係があるのかないのかについて、研究成果が二点三点していることを紹介した。ここで指摘しておかなければならない重要なことがある。それは、職務満足とパフォーマンスとの「関係性」について吟味してきたのであって、職務満足がパフォーマンスの原因であるか否か、つまり両者の間の因果関係についてくわしく議論してきたわけではない、ということである。ここで、相関関係と因果関係の違いについてごく簡単に説明しよう。相関関係というのは、片方の変数がうごいたときに、もう片方もそれに応じて動き、それが線形の関係にあるかどうかに注目する。それに対し、因果関係というのには、時間概念が入ってくる。つまり、相関関係に加え、ある変数が先に変化し、その後にもう一方の変数が変化したかという条件が入る。また、その両者の関係に、別の余計な変数が絡んでいないかどうかも問題となる。つまり、第3の変数が、両方に影響を与えているならば、それでも相関関係は起こりうるため、その場合は両者の因果関係があるとはいえない。

話が統計的なことに脱線したので本題に入ろう。今回は、職務満足と企業業績とのあいだの因果関係はどうなっているかについての研究を紹介しよう。言い換えれば、職務満足は企業業績に影響を与えているのか、または原因となっているのか、という問いに関する研究である。

この問題に関して、シュナイダーらは、従業員満足度と企業業績の関係について興味深い研究を行った。そして彼らがくだした結論は、なんと、逆の因果関係をより強く支持するものだったのである。つまり、職務満足が企業業績を高めるのではなく、企業業績が職務満足を高めるというのである。

彼らが行なった分析をごく簡単に説明しよう。彼らはまず、ある時点の企業の従業員満足度が、1期後、2期後といった、その後の企業業績とどれくらい関係があるか調べ、次に、同じようにしてある時点の企業業績が、1期後、2期後といった、その後の従業員満足度とどれくらい関係があるか調べ、その両者の関係の強さを比較した。同時期の相関ではなく、期をずらした関係を見ることによって時間概念を分析に導入したわけである。もし前者のほうが強ければ、満足度が高かった時期の翌年、あるいはそれ以降の業績が高まるということが確認されるため、満足度が業績の原因となっているという説が有力となる。一方、後者のほうが強い場合には、業績が高かった時期の翌年、あるいはそれ以降の従業員満足度が高まるということが確認されるため、業績が満足度の原因となっているという説が有力となる。そして実際には、細かな分析をした結果としての総合的な結論としては、後者の関係の方が強く、企業業績が従業員満足度に影響を与えている、つまり普通に考えられる因果関係とは逆の因果関係をより強く支持する結果となったわけである(ただし、満足度が業績の原因となるという説を否定したわけではなく、両方の因果関係が考えられるあるいは循環的な関係が間がえられるが、強度の問題と考える)。

この結果は何を意味しているのだろうか。もし彼らの結果が正しいとするならば、ようするに人々は、満足するから企業業績を高めるのではなくて、企業業績が高まれば満足する、ということのほうが真実性が高いことを示したことになる。よく考えれば、企業業績が高まれば、社内も活気づくだろうし、彼らがもらう報酬や賞与がアップするだろうし、さまざまなことに対する満足度が上昇し、明るい顔の社員が増えるだろう。だから、そんなに不自然なことではない。しかし、経営学を考えるさいに、どうしても陥りやすい思考として、「どうやれば業績を高められるのか」、という視点で考えがちになる。よって、従業員満足度を高めれば企業業績は高まるだろう、という思考が優先され、研究もそういった仮説を検証することに焦点が置かれてしまう。それによって、冷静に考えれば半ば当たり前である、業績が高まれば人々は満足する(うれしくなる)といったことに焦点を当てることに手を抜いてしまうのであろう。

この研究は満足度に絞ったものであるが、似たような論理は、職務満足だけでなく、忠誠心や帰属意識やコミットメントなどについてもあてはまるかもしれない。例えば、よく言われるのは、いわゆる日本的経営は、従業員の忠誠心やコミットメントを高め、それによって企業業績を高めることができたとする説である。ところが、実はそうではなくて、様々な歴史的、経済的な要因により、わが国の経済が高度成長期となったため、企業業績は右肩上がりに上昇を続け、その結果、わが国のサラリーマンの給料や待遇、そして国民の生活水準も右肩上がりを続けたわけで、それがサラリーマンの企業への満足度、忠誠心、コミットメントを高めたのではないかということだ。

もしこの説が正しいとするならば、仮に現在業績不振が続いているとして、同様に従業員満足度が低い、あるいは忠誠心やコミットメントに問題があるとする場合に、従業員満足度を高めることによって企業業績にインパクトを与えよう、コミットメント経営を推進すれば企業業績が高まるだろう、とするような一般的な考え方には、大きな落し穴があるということになるだろう。企業業績が従業員満足度やコミットメントに影響を与えるならば、業績下降期には従業員の満足度やコミットメントも下降していくのである。だから、元気のない従業員を元気にさせるためには、企業業績を高めなければならない、といった逆説的な話になってしまうだろう。もちろん、従業員満足度が企業業績にはまったく影響を及ぼさないというわけではなく、そういった因果関係も存在はするだろう、あるいは、業績が高まれば満足度は高まり、満足度が高まると業績がいっそう高まるというような循環関係もある程度存在するであろう。ということは、業績低迷時に、従業員満足度を高めることから始めて、それによって業績を回復させる、というようなやり方はあまり効果を生まず、むしろ、従業員の抵抗があったとしても、もしくは一時的な満足度を下げるようなことになったとしても、とにかく荒治療的に大胆な改革を行なって、数字としての業績を回復させてみせることが大切なのかもしれない。そうすることによって、再び社員に明るい笑顔が取り戻せるようになるのかもしれない。そして、そういった満足度の回復が、それ以降の企業業績にプラスに働くといったような好循環を生み出す契機になるのかもしれない。

文献

Schneider, B., Hanges, P.J., Smith, D. B., & Salvaggio, A. N. (2003). Which comes first: Employee attitudes or organizational financial and market performance? Journal of Applied Psychology, 88 (5), 836-851.