戦略的人的資源管理論の展開

経営戦略論の分野において、1980年代半ばから、企業の資源論的視点(Resource-based View: RBV)が盛んに論じられるようになった。資源論的視点は、企業の保有する戦略的資産で、(a)経済的価値、(b)希少性、(c)非模倣可能性、(d)代替不可能性を持つものが、企業の持続的競争優位を決定づけると論じる(Barney, 1991; Praharad & Hamel, 1991; Wernerfelt, 1984)。この視点は、戦略的人的資源管理(Strategic Human Resource Management: SHRM)と呼ばれる比較的マクロな人的資源管理論の分野にも適用されるようになり「企業の人的資源管理は持続的競争優位性を左右する(e.g., Pfeffer, 1994)」という視点を発展させた。

人的資源管理分野における資源論的視点の歴史的展開としては、大きく2つの流れがある。第1の流れは、人的資源管理施策あるいはシステム自体を持続的競争優位の源泉たる戦略的資産と捉える見方である(Macduffie, 1995; Becker & Gerhart, 1996; Delery & Doty, 1996)。この視点において展開された視点には、(a)企業の競争優位に貢献する最も望ましい人的資源管理施策の組み合わせがあるとするベストプラクティスアプローチ(Pfeffer, 1994; Huselid, 1995)、(b)企業の戦略によって、望ましい人的資源施策が異なるとするコンティンジェンシーアプローチ(Youndt, Snell, Dean,Jr., & Lepak, 1996)、(c)戦略と人事諸施策との一貫性、個別人事施策間の一貫性の両者を含めた人事施策パターンが競争優位の源泉となるとするコンフィギュレーショナルアプローチ(Delery & Doty, 1996)の3つが代表的である。また企業戦略と人事諸施策のフィットと、諸施策の柔軟性の両者を同時に追求するべきであるという視点も提議された(Wright & Snell, 1998)。

第2の流れは、人的資源そのものを競争優位の源泉と捉える見方である(Huselid, Jackson, & Schuler, 1997; Lepack & Snell, 1999)。これは、ヒューマンキャピタル理論(Becker, 1964)に機を発している。ヒューマンキャピタルには、業界限定的なヒューマンキャピタル(業界に特定的な職務を円滑に行うための知識やスキル)および企業限定的なヒューマンキャピタル(企業外で活用は難しい企業内に特定の知識やスキル)とに区別され(Becker, 1964)、企業が人的資源を通じて競争優位性を獲得するためには、両者が必要であると考えられる。(論じられる?誰が言った?Wright & Snell?)この視点の発展形の例としては、Lepak & Snell (1999)が、取引コスト理論(Williamson, 1975)の視点を取りいれて人材を市場性および希少性の2つの次元で分類し、市場調達が容易な人材は外部マーケットからの調達を重視、希少価値の高い人材は内部育成または他社との共有を重視するべきであるという人的資源管理のフレームワークを提示した。

資源的視点は、理論の洗練化および実証研究ともに成果を蓄積しつつあるが、理論上の問題点が主に2つある。まず、資源的視点は、ヒューマンキャピタルおよび人的資源管理システム両者の重要性に着目し、それらと企業業績との関係を理論的かつ実証的に吟味しているが、どのようにこれらの資源が形成され、企業競争力に結びついていくかの「プロセス」についての理論的展開が不十分である。次に、企業の持続的競争優位の源泉を、企業が保有する人的資本、人的資源システムといったように企業内のものに限定した見方をしており、企業の内部と外部との関係性が競争優位にもたらす視点を考慮していない。Lepak & Snell (1998)のフレームワークは、組織のインターフェースを通じた外部労働市場を考慮しているが、それでもネットワークや繋がりの概念を含む企業内外の関係性については掘り下げた考察を行っておらず、かつ、市場性および希少性によって分類した企業内の異なる人材グループ間の関係および相互作用に関する考察もなされていない(Relational Viewの以前の理論だから)。

これらは次の2つの意味で理論的な弱点であると言える。1つは、将来において、より組織の境界線が曖昧かつオープンになっていくだろうという予測から(Capelli, 2000; Arther & Roussau, 2000)、多様な就労形態の人材(長期雇用社員、短期社員、委託先、外部専門家等)が交錯するオープンな組織を想定するならば、競争優位の源泉を企業単体に限定して見ることは視界が狭いと言わねばならない。2つめは、特にヒューマンキャピタルの視点においては、個々の人材の価値が企業競争力につながるという前提があるが、知識が主体の社会になってくるならば、人材同士の関係性やコミュニケーションによる知識の交換や結合が考慮されなければならない。資源論的視点においては、このような知識創造過程が十分に織込めていないといえる。

引用文献

Becker, G. S. (1964). Human Capital. New York: Columbia University Press.

Becker, B. & Gerhart, B. (1996). The impact of human resource management on organizational performance: progress and prospects. Academy of Management Journal, 39 (4), 779-801.

Capelli, P. (2000). Harvard Business Review

Delery, J. E., & Doty, D. H. (1996). Modes of theorizing in strategic human resource management: tests of universalistic, contingency, and configurational performance predictions. Academy of Management Journal, 39 (4), 802-835.

Huselid, M. A. (1995). The impact of human resource management practices on turnover, productivity, and corporate financial performance. Academy of Management Journal, 38 (3), 635-672.

Lepak, D. P., & Snell, S. A. (1999). The human resource architecture: Toward a theory of human capital allocation and development. Academy of Management Review, 23 (1), 3-48.

Matusik, S. F., & Hill, C. W. (1998). The utilization of contingent work, knowledge creation and competitive advantage. Academy of Management Review, 23 (4), 680-697.

Macduffie, J. P. (1995). Human Resource Bundles and Manufacturing Performance: Organizational Logic and Flexible Production Systems in the World Auto Industry. Industrial and Labor Relations Review, 48 (2), 197-221.

Pfeffer, J. (1994), Competitive advantage through people. Boston: Harvard Business School Press.

Plahalad, C. K., & Hamel, G. (1990). The core competence of the corporation. Harvard Business Review, 68 (3), 79-91.

Youndt, M. A., Snell, S. A., Dean, Jr., J.W., & Lepak, D. P. (1996). Human resource management, manufacturing strategy, and firm performance. Academy of Management Journal, 39 (4), 836-866.

Wernerfelt, B. (1984). A resource-based view of the firm. Strategic Management Journal, 5, 171-180.

Wright, P. M., & Snell, S. A. (1998). Toward a unifying framework for exploring fit and flexibility in strategic human resource management. Academy of Management Review, 23: 756-772.