構造的ホール(Structural holes)

今回は、バートの「構造的ホール」という理論を紹介します。彼の理論の中心は、収益性というものは財務的資本や人的資本のみならず、どのような社会ネットワークを持っているかで決まる(ソーシャル・キャピタル)というものです。したがって、好ましい社会ネットワークは何かという問いに基づいています。そして彼は特に、情報に注目しています。つまり、好ましい社会ネットワークを持っていれば、収益性を高める「機会」を効果的に(必要なところから、タイミングよく、重要なものを)獲得することができる、という論旨です。さらに、好ましいネットワークを持っているとは、そういった機会を上手に利用できるような場所に自分が位置している、ということも含まれます。

アントレプレナーの語源は、「利益を得る第三者」というものだそうで、つまり、利害の対立する第三者となったり、お互いのニーズを満たす仲介者となったり、誰かと誰かの間に入って付加価値を上げる人だということです。確かに、起業家は、技術者や投資家や顧客など、いろんな利害関係者の中心に立って、うまくコーディネートしながらビジネスを創造するという意味では語源にあった言葉だと思います。つまり、バートの論理は、そういったアントレプレナー的な位置にいる人は、好ましい社会ネットワークを持っている人だというものです。

構造的ホールとは何かというと、一言でいうならば、関係性が途切れている状態です。彼の理論を簡単にいうと、好ましいネットワークとは、関係性が密であって小さなネットワークではなく、関係性がところどころ途切れている大きなネットワークである、というものです。前者は情報伝達が冗長的で、後者の方が効率的だというものです。彼は、グラノベッターの「弱いつながり」とほぼ同じような論理を展開しています。何故なら、途切れ途切れになったネットワークというのは、グラノベッター流に言えば、弱いつながりのネットワークだからです。ただ、彼は自分の構造的ホールの方が本質を突いた理論だと主張しています。

関係性が途切れ途切れの構造的ホールをたくさん持つネットワークであれば、単に遠くから重要な情報が期待できるのみならず、誰かと誰かの間に割りいって利害を調整したりする行為も可能になるわけです。たとえば、ネットワークのあっちで誰かが求人していて、ネットワークのこっちで求職している人がいるとすると、密なネットワークであれば、すぐに2人は結びついて直接交渉に入ってしまいますが、途切れ途切れのネットワークならば、自分が間に入って紹介料をもらって仲介するというビジネス機会が得られるわけです。

彼はまた、構造的ホールの原理を利用すると、好ましい社会ネットワークを構築するための「ネットワーク手術」が可能であると言います。つまり、もし自分が密で小さな社会ネットワークを持っているとすると、そのネットワークの関係性を意図的に遮断することによって、構造的ホールを作り出す、というものです。たとえば、非常に中の良い友達グループの3人と同等にコンタクトを取っている場合は、その中の最も信頼できる人にコンタクトを絞り、あとの2人とのコンタクトを切断します。そうしても、信頼できる人から、残りの2人と同等の情報を得ることができます。そして、切断することにより節約できた労力を、他のグループの誰かとのコンタクトに使います。2人分節約できたので、2つの別々のグループとのつながりを作れば、前と同じ労力で、よりバラエティに富む情報を得ることができるわけです。

バートの構造的ホールの理論は、社会ネットワークにおける、有用な情報の獲得という競争優位と、情報のコントロールという競争優位の2つを見ているという点で、弱いつながりの強さの理論よりも一歩進んでいると思います。しかし、さらに他の要素を盛り込んだ理論が必要になってくるのでしょう(たとえば信頼、信用という視点)。