「トヨタプリウスの事例(遠山・野中 2000)」を読む

本稿では、遠山・野中(2000)の、”「よい場」と革新的リーダーシップ:組織的知識創造についての試論”という論文に記載されているトヨタプリウスの事例を再読することによって、彼らの論文の深い理解を得ようとするものである。

遠山・野中は、知識創造をもたらすための場とリーダーシップの理論を展開するにあたって、トヨタのプリウスの開発を事例として取り上げている。このケースは、プリウス開発においてトヨタが自動車およびその開発の新しい流れを生み出し、拡大させていこうとしている様子を表現していると解釈できる。

まず、遠山・野中のプリウス開発の背景に関する記述「開発プロジェクトのスタート時から、プリウスはトヨタにとってまったく新しい製品として位置づけられていた(P7-P8)」「トップマネジメントは『21世紀の車』というコンセプトを話し合うために『G21』という場を創設し、これを強く支援した(P8-P9)」などから、プリウス開発では、当初から車の製品コンセプトや開発において「新しい流れを創り出していこう」というトップマネジメントの意志が反映されていたと考えられる。プリウス開発は、最初はG21(ジェネレーション21世紀)と称する小さな勉強会として始まり、テーマは「21世紀のあるべきセダン像と自動車開発の新しい方法への挑戦」であった。そして、「燃費と環境問題の2つを大きな課題として認識」のもと、コンセプト固めが行なわれていった(P8)。

この「小さな勉強会」でのプロセスは、革新に向けた大きな流れに発展させていくための「源流」を創り出す試みがなされた場であったと解釈できる。そして、勉強会の結果としての源流らしきものが見えてきたところで、第2ステージに至ることとなった。そこでは、新しい方向性を持った源流として湧き上がってきたコンセプトから、より明確な新しい流れを創り出し、それを大きくしていくための中心的役割を担う人物として、内山田氏がリーダーに指名された(P9)。リーダーが中心となって源流を明確な流れに育てあげ、それを拡大していくためには、それを可能にする環境も必要となる。実際、トップマネジメントは、「好きなことにチャレンジしてくれ」と、内山田氏が自律的に動きながら流れを大きくしていくのに適した環境作りを支援した。内山田氏は車両設計全体がわかる「自己完結型チーム」を作り、チームは1つの部屋に集まって作業を行なった(P9)。その他メーリングリストの活用を通じた「場」づくりも推進し、明確な新しい流れを創り出すためのもの下地作りを実行していった。

プロジェクトの途中では、内山田氏によって結成されたチームがまとめあげたプランが、トップマネジメントによって却下された(P10)。ここで考慮すべきことは、トップマネジメントは、社内における新しい流れが勢いづいていることを感じており、却下によってその流れを止めてしまうのではなく、さらに勢いづかせることにつながるだろうという認識があったと推測されることである。実際に、この却下は、さらに高度なプランを練り上げるための新たなメンバーの加入を喚起させ、さらに全社的なプロジェクトにまで発展させることにつながっていることが読み取れる。その結果発足したBR-VFという新しいプロジェクトは、勢いづいてきた流れに、全社的な資源を継ぎ込むことによって、現状の問題解決を図り、さらに大きな流れにしていくことにつながった思われる。当時、プロジェクトにこのような流れの勢いが感じられなければ、全社的なプロジェクトを結成しても十分な参加と協力が得られなかっただろうと予想される。

プロジェクトが正式な製品企画として「Zi」の称号を得、おおよそのプラン策定後、社内でリクルートが行なわれた。これまで拡大してきたプロジェクト発展の流れの勢いと、トップマネジメントその他の後押しによる追い風により、このプロジェクトの流れの勢いはすでにかなり強力なものになっていたと思われる。結果としてプリウスの開発は、製品、技術、そして知識創造プロセスという3つのレベルにおいてトヨタに革新をもたらした(P7)。これまで記述されたケースは、トヨタ内で新しい流れを作り出し拡大したいった過程でもあるが、今後はこの流れが業界あるいはビジネス社会にどう拡大していくのかといった視点からの観察や検討も望まれるところである。

文献

遠山亮子・野中郁次郎 (2000) 「よい場」と革新的リーダーシップ:組織的知識創造についての試論 一橋ビジネスレビュー48(1・2) p4〜17