リーダーシップ資質論"再訪"

誰がリーダーに向いているのか。あるいはリーダーに適した資質とは何か?これは古くから常に経営やその他における関心の的となってきた。しかし無残なことに、心理学を中心とする以前の研究者たちは、リーダーに適した資質などないと簡単にこの問題に決着をつけてしまった。

彼らの言い分は次のようである。昔は、リーダーシップ資質論といって、望ましいリーダー、あるいは本当に力を出せるリーダーに必要な資質があると信じられており、その資質を見つけ出すためのさまざまな研究が行なわれてきた。しかし、期待を裏切られるような結果ばかりであった。つまり、真のリーダーに必要な資質というものは見つからなかった。いくら研究してもリーダーの能力や実力と関連する資質がみつからないのであるから、そんなものはないと考えたほうがよい。それよりもむしろ、リーダーに必要な行動(つまり誰でも訓練すれば身につけられる行動)に注目しようという研究者が増えてきた。また、リーダーの効果性は状況によるという状況適応モデルを唱える研究者が続出した。優れたリーダーというのは状況によりけり。よって場合によっては誰もが優れたリーダーとなりうるということを暗に示唆するようなものである。

しかし、状況によると言ってしまうのなら、この世にあるどんな物事だって、状況によると言えるだろう。例えば「ある戦略が優れているか否か?」「それは状況による」というように。このような見方は、いってみれば「逃げ」の説明である。このモデルを逃げにつかって、リーダーに必要な資質を探り出す研究をあっさりと切って捨ててしまったようなものだ。
で、本題にもどろう。リーダーシップ資質論はまだ生きている。というか近年になって復活してきた。つまり、リーダーに必要な資質というのは存在するのである。誰もがリーダーになれる、訓練すれば必要な能力が身につくというのは一種の幻想であって、やはりリーダーになるべき人、リーダーにならざるべき人、というのは存在するということだ。

リーダーシップ資質論が復活してきた背景としては、これまでのリーダーシップ研究が、かなり狭い範囲のものであったということがあげられる。いわゆる小集団の監督者、上司対部下のリーダーシップのようなものである。それに対し、近年特に関心が高まってきたのは、それ以上に多くの人たちを引っ張っていくことのできるリーダーシップである。例えば、一人のカリスマ型リーダーが、非常に多くの人々の心を捉え、メンバーが献身的に組織の目標を実現するために頑張る事が出来るのはなぜか、というようなリーダーシップの問いである。果たして、これが単純な状況適応理論でもって、誰でも状況次第でリーダーになりうる、あるいは誰でも訓練すれば必要な行動を身につけることができる、と言えるであろうか。

カリスマ型リーダーと似ているが、変革型リーダーシップやビジョナリーリーダーシップの研究も同じような問いを発する。組織全体を変革することができるリーダー、優れたビジョンを作りだすリーダーというのは、本当に誰でもなれるものなのか、というようなものである。このようなトレンドから、忘れかけられていたリーダーシップ資質論の探求にまたメスが入り、過去の研究の多くはまだ方法論的あるいは理論的に未熟であったという見解にいたっている。まだ未熟なのにもかかわらず、リーダーの資質を否定したのは研究者にとっては時期尚早というか、勇み足であったことがわかってきた。さいわいなことに、実務界では、資質論を否定する研究者のことなど無視して、あいかわらずリーダーに必要な資質とは何かについていろいろと議論がされてきた。実務家は研究成果を無視するたわけものだったわけではなく、実務家のほうが正しかったのである。

リーダーに必要な資質があることを示す証拠の一つとして、以前のコラム「幸福な労働者は生産的か」で紹介したディム・ジャッジらの研究を今回も紹介しよう。彼らの研究は、リーダーシップの資質としてパーソナリティに的を絞って研究してきた。もちろん、その外にも、知性やモチベーションといった資質があるだろうが、今回は割愛しよう。彼らが用いたパーソナリティ類型は、現段階ではもっとも信頼性が高いと考えられる5要因モデルというもので、外向性、情緒安定性、誠実性、人のよさ、経験への開放性の5つつの次元がある。別の次元を用いてもよいが、この次元はさまざまな研究でよい成果を出しているし、信頼性も高いし、すでに多くの研究がこの次元を用いて行なわれてきたので、過去の研究を総合的に蓄積して判断するのに適している。

それで、研究の成果としてわかったことは、パーソナリティのいくつかの次元とリーダーシップには明らかに相関があるということだ。もっとも関係しているのが外向性次元。つまり、社交性が高く外向的な人ほど、リーダーとして見られ、またリーダーとしての実力を発揮するチャンスが高いというものである。その外、人のよさを除く残りの次元はすべてリーダーシップと関連していることがわかった。ジャッジらの別の研究では、リーダーシップ一般というよりも、変革型リーダーシップに着目し、その研究では、外向性と人の良さというのが、変革型リーダーシップと相関することが示された。

もちろんこの2タイプの研究だけでリーダーシップ資質論が正しいというわけではないが、その他の研究でも、リーダーシップ資質論を支持するものが出てきている。だからといって、行動理論や状況適応理論が排除されるわけではなく、確かにリーダーに必要な資質というのは存在し、それを兼ね揃えた人材がリーダーとして活躍することが期待されるわけであり、さらに訓練や彼らの資質に適した状況を与えることによってより優れたリーダーシップを発揮できる土壌が整うと考えるのが適切であろう。