信頼関係とネットワーク理論

前回までのトピックスで、関係優位性から知識創造の源泉としてのソーシャル・キャピタルの紹介まで、関係性を重視した考え方を扱ってきました。こういった関係性は、単なる経済的価値の交換関係にとどまらず、長期的な信頼関係の確立が重要であることも少し述べました。今回は、信頼、反対に言えば非道徳的行動と社会ネットワークとの関係についての理論を紹介したいと思います。

あるメンバーが信頼を裏切る行為は、ソーシャル・キャピタルにとって致命的とも言える痛手となるわけですが、その原因としては当然のごとく、個人の性格に帰するものと、組織の文化やシステムに帰するものが考えられます。そこから導き出される結論としては、信頼のおける人物を選別して採用すること、信頼を裏切る行為を罰するような社内システムを確立すること、等になります。

これに対し、メンバー間のネットワークの性質や構造そのものも、信頼行動に影響するという考え方があります。まず、関係性の性質には頻度、相互性、強さ、親密さなどがあります。これらから一般的に強い関係(ストロング・タイ)と弱い関係(ウイーク・タイ)に分類できます。ストロング・タイのほうが信頼を裏切る行為は生じにくいと考えられます。次に、多重関係(同僚であり友達であるなど)があるほうが、単一関係よりも信頼関係が強まります。また、両者が均等でなく、一方向的な関係や、ステイタスやパワーが異なる関係の場合のほうが、信頼を裏切る行為が起こりやすくなります。

次に関係性の構造が、メンバーの尊敬や監視行動に影響します。たとえば3者間(A,B,C)の構造を見てみると、3者がともに強い関係で結ばれている場合と、AとB、AとCは弱い関係、BとCは関係を持たない、という2つの典型的なパターンが多く出現します。後者はストラクチュラル・ホールという性質を持っており、BはAと通じてしかCと関係を持てません。一般的に後者の場合のほうが、信頼関係を裏切る行為が生じ易いです。3者が強い関係で結ばれている場合、たとえばAのBに対する非倫理的行動は、BからCに伝達されて、CのAに対する関係も傷つきます。後者はBからCへの伝達がないぶん、Cとの関係を傷付けるリスクが低いです。また、ネットワーク構造の中心に位置する人は、多くの人との関係を持っているため、その監視機能によって信頼を裏切る行為がしにくくなります。

さらに、大きな組織を考えてみると、そこには強い関係と弱い関係が混在するわけですが、強い関係同士で結ばれたサブグループ(クリークといいます)が出現することになります。このサブグループ内のメンバーは、グループ外のメンバーに対して信頼を損ねる行動をする可能性が高くなります。逆にグループ内のメンバーに対してはそういった行動をしなくなります。

このように、関係性のいろいろな性質や構造を組み合わせることによって、信頼に関するいくつかの原理を導き出すことが可能です。ネットワーク理論はまだ歴史の浅い新しい分野ですが、コンピュータの発達によって組織のシミュレーションなどがしやすくなった関係で、今後面白い展開が予想されます。実際いろいろなネットワークパターンを考えて、それがどう影響するかが研究されていくと思います。一例を挙げれば、イノベーションがどのようにして伝播していくか、というのも面白いテーマです。

情報伝達効率という視点からは、ウィーク・タイの優位性がよくいわれますが、逆に非倫理的な行為を防ぐという意味ではストロング・タイの優位性が指摘されていることになり、こういったお互い矛盾する部分をどう解決して、統一された考え方を作っていくかが課題だと思います。