早くも懲戒処分が


 その一方,教員の「内心の自由」に関して政府は「教員にも国旗・国歌に敬意を払い,国歌を斉唱するように命じることは,学校という機関や教員の服務の特性を考えれば,社会通念上,合理的な範囲.教員の思想・良心の自由を制約するものではない」(有馬前文相)など,その内心の自由には一定の制約があるとの見解を示している.
 こうした見解の背景になっている法的な考え方について,下村教授が説明する.
「公務員の地位にあることは,公務員という部分社会に帰属することであり,そうした部分社会に帰属している以上,全体社会の中では絶対的なものとされている思想信条の自由など,人権の一部を規制されても仕方がないという考え方です.こうした法的な考え方は,アメリカなど世界各国で採用されています.一方,私立学校は小規模な独自社会であり,公務員のような部分社会と見なすことはできません.ですから,指導要領は私立をも規制するものの,国旗・国歌の指導については,これを公立なみに強制することは法律的にできないことになります.」
 公立校の教員が職務命令を拒否して日の丸・君が代の指導を行わなかった場合,都道府県教育委員会から処分を受けることになっているが,その処分内容については各委員会の判断にゆだねられている.ちなみに,懲戒処分には「戒告」「減給」「停職」「免職」があり,懲戒までには至らないと判断された場合には「訓告」「厳重注意」などの処分もある.
 処分の目安に関して,下村教授は
「国旗・国歌をめぐる処分はこれまで,比較的軽い傾向がありました.実力を行使して国旗掲揚を妨害したケースでさえ,戒告止まりでした.従来とのバランスからいって,<指導しない>ことへの処分は,懲戒に至らない訓告程度と考えることが妥当なのでは.訓告は履歴に記載され,2回続けて訓告処分を受けると昇給延伸になりますが,不利益処分は受けないという建て前になっています」
と述べる.
 だが,国旗・国歌法が成立する直前の7月,東京多摩地区と北九州市で指導を拒否した教員が懲戒処分を受けた.東京都教育委は4月の入学式で君が代の伴奏を拒否した多摩地区の公立小学校の女性教員に対して,戒告処分にしたのである.また,北九州市教委も今春の市立小中学校の卒業式などで君が代斉唱の際に起立しなかった教員2人を,減給1か月の懲戒処分にした.
 8月には広島県教委が教員採用第2次試験の面接で「日本の公務員として国旗・国歌を子どもたちにどう教えますか」という質問を受験者にしたり,9月には高松市の教育長が市議会本会議で「教師と児童・生徒には君が代を歌わない自由はない」と答弁する(その後撤回)などの“勇み足”が問題になる中で,早くも今後の職務命令違反による処分強行などへの懸念が高まっている.
 だが,国旗・国歌法ができたからとはいえ,校長の職務命令が教師の内心の自由を著しく制約するときは,違憲・違法と評価される場合もあり得るのである.例えば,アメリカにおける1972年のルソー事件.これは,美術の試補教員が国旗掲揚の際に敬礼と忠誠の誓いを復唱しなかったために免職になったものだが,連邦最高裁はこの教員の立場を支持した.また,89年に連邦最高裁は,政治的抗議としての星条旗の焼却を「星条旗冒涜法」違反とすることを違憲とする判決を出した.
「日本の憲法も思想信条の自由は,ほとんどアメリカと同じように規定されています.職務命令違反による処分の強行は,この問題を憲法問題へと押し上げていくことになるでしょう」(下村教授)


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