特集

ベタ記事「県立松阪商業高校 校長自殺」

背景で浮かぶ「ある圧力」


 昨年12月に,三重県立松阪商業高校の校長が首吊り自殺した.新聞はどこもベタ記事扱いだったので,ほとんどの読者は記憶にないだろう.遺書は残されておらず,動機はわからないと報じただけだった.が,自殺の真相をめぐって,地元の教育界は揺れている.死に至る背景に,「ある圧力」が存在していたのだ.

 松阪商業高校の永井久男校長(60)が,伊勢市にある自宅の庭で首を吊って自殺したのは昨年12月15日朝のことである.
 遺書はなかった.が,事情を知る人たちの間では,自殺の背景について噂が囁かれていた.後述するが,永井校長は,同校の教員が起こした差別発言をめぐって,その対応に苦慮していたのである.
 そのことを公にしたのは,1月14日,共産党系の全国部落解放運動連合会(善解連)などが中心になって結成された『自殺の真相を明らかにする県民の会』だった.
 「教員の差別発言には確かに問題がある.しかしその事件を大事件化し,その中で自殺者まで出してしまった部落解放同盟と,県教育委員会のやり方はさらに大きな問題であると考えます」
 と,全解連三重県連合会の矢田紹生書記長はいう.
 「昨年11月5日に,市役所で糾弾学習会が開かれました.昔のように暴言や脅しによって本人を屈服させるという性格のものではなくなっていますが,表向きは淡々と進行したようでも“自らの差別の本質をえぐり出す”会であることに違いない.そして責任者である校長に暗黙の圧力をかけるのです.これが暴力よりもこたえます.400人の参加者の前で謝罪させられた校長は,どれだけ自尊心を傷つけられ,屈辱的な思いをしたことか」
 さらに『県民の会』に参画した,元教員で『三重の教育を守る会』会長の鈴木茂氏は教育行政の責任を問う.
「県教育委員会は,この問題で,校長から20回を越える聞き取り調査をしています.普通,校長がミスをしたら県は味方につかなければならないはずです.ただでさえ校長にとって県教委のお偉いさんは怖い存在です.それが糾弾する側に付き,20回以上も訪問してきて“人権指導が間違っている”と言われたら,校長はただひたすら謝るしかありません.そんなことが毎日のように続いたら,精神的におかしくなるのも当然です」
 差別問題の発端は,昨年4月に遡る.
 被差別部落を含む町内会に所属していた松阪商業高校のある教員が,近所の住民を説得して一緒に隣の町内会に移ろうとした.がある住民が,
「長い間お付き合いしている人もいるので,差別しているようでいやだ」
 と反対すると,
「お嬢さんの将来(結婚のこと)にいいかもしれません」
 と差別発言.住民の抗議によって,これが学校や市,県の教育委員会,部落解放同盟三重県連合会の知るところとなり,6月から大問題に発展したのである.
 8月9日と23日には,部落解放同盟から永井校長と問題の教員が呼ばれて,事実関係の「確認会」が開かれた.それを受けて,11月5日に永井校長も出席した第1回糾弾学習会が開催された.
 並行して,6月から11月にかけて県教育委員会による永井校長への聞き取り調査が何度も繰り返されたのだった.

 三重県教育委員会の中村正昭教育次長はいう.
「生徒を指導すべき教員が差別発言をするということは重大問題ですから,確認作業をきちっとやることは必要です.松阪商業高校は県下でも同和教育が充実していて熱心な学校です.それなのに何故,教師が今回のような問題を起こしたのか.当然,校長の責任も問われるわけで,校長は“一生懸命やってきたがこんなことになってしまった”と言っていましたが,すべての背景を明らかにする必要があったんです」
 それにしても,この間,永井校長は差別発言で忙殺された.その負担は大きかったに違いない.背景には,同和地区を多くかかえた三重県の教育事情があるという.
 地元の教育関係者はいう.
「三重県では,三重県教職員組合(三教組)の組織率が90%を越えており,校長の権限は三教組によって完全に骨抜きにされています.何か問題があるとすぐに校長の責任が問われます.さらに三教組と解放同盟とは表裏一体の関係になっており,同和がからむと問題がよけいに複雑になるんです.それだけに教育行政も,三教組と解放同盟寄りになっているんですよ.


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