人権センター批判はタブーか


 三重県教育の歪みは,最終的にはその教育内容についてこそ論究しなければならない.確かに勤評のオールB開示も,勤務時間内の組合活動も問題だが,ある中学校の1年生を対象に行なわれた「人権学習」で次のような“教師側の意図”が堂々とまかり通る異常さのほうがより深刻であろう.朝鮮と日本の歴史を題材に,「細かい歴史事実の相関よりも,日本が自国の利益のためにアジア,とりわけ朝鮮の人々に甚大な犠牲を強いたその身勝手さ,酷さが伝わればよい」というのである.いったいこれはどこの国の国民を教育するための授業なのか.一例にとどめるが(正論平成11年11月号松浦論文に詳細),これを偏向と言わずしてなんと言うべきか.
 こうした偏向は教育の現場ばかりではない.「平和・人権教育」の名のもとに,戦前の日本の“加害”の歴史をことさらに強調したり,祖父母の世代を一方的に貶めるような偏った展示,歴史観,社会観を押し付けるような施設も問題である.すでに問題とされた各地の施設をあげれば,大阪国際平和センター(ピースおおさか),地球市民かながわプラザ国際展示室,川崎市平和館,長崎市原爆資料館などがある.
 三重県はどうか.昨年,三重県人権センター(津市)の展示物に偏った歴史観に基づいた反日・自虐的な傾向が見られるとして,「三重の教育をただす会」(山野世志満代表)など市民グループが質問や改善を求める声を同センターに寄せた.それによると,同センターの1階常設展示場のパネルは一方的な内容で,2階図書室の書籍についても反権力・反体制の色合いが強く,行政の展示としてはふさわしくない点が多い,という.これに対し馬場左所長は,「思想的に偏った内容の書籍が多いのは確か」と認めたうえで,一定の改善を検討する旨を回答している.ここで歴史的事実に照らして疑義のある同センターの展示を一つだけ指摘しておくと,1階にある「侵略戦争の拡大と南京大虐殺」とタイトルの付けられた写真であり,日本軍が中国人を20〜30万人殺害した旨の説明文である.
 人権教育は“加害”の面だけを強調,非難すれば足りるのか.もっと多様な教え方をする必要があるのではないか.こうした問いかけなり批判は,果たして人権無視につながる行為だろうか.
 三重県人権センターの展示を批判したり,東條英機元首相に焦点を当てて東京裁判の不条理を描いた映画『プライド−運命の瞬間』の鑑賞を学生に勧めたことなどを理由に,鈴鹿国際大学(三重県鈴鹿市,勝田吉太郎学長)の久保慶一・国際学部教授が,同大学を経営する学校法人・亨栄学園(本部・名古屋市,堀敬文理事長)から教授職を解任され,事務職員にされたことが,久保教授の地位保全を求めた津地裁への仮処分申請によって明らかにされた.申請が出されたのは今年(平成12年)2月16日である.
 仮処分の申請内容や関係者の話などによると,久保教授は平成10年8月と12月,支部長をつとめる「日本世論の会」三重県支部のメンバーとともに人権センターを訪れ,「戦争関連の展示が自虐的で偏向している」として改善を要望したほか,11月5日付の地元紙三重タイムズのインタビューに答えて,「(人権センターの展示は)想像以上にひどい.ほとんどが部落問題で占められている.あとの2割ほどが反日,自虐史観です.どういう子どもや日本人を育てようとしているのか疑問に感じるような施設」と問いかけ,東京都の平和記念館問題とオーバーラップするとしたうえで,「日本でありながらまるでアメリカ史観,中国史観です」と発言した.また学園側によれば,平成10年夏頃には,「一般教養や学部,ゼミの講義などで学生に対して映画『プライド』を見れば(成績評価で)有利に扱う」と話したという.
 学園側は今年(平成12年)1月24日付で久保教授を戒告処分にするとともに,大学の教授職を解き学園本部付事務職員とする辞令を発令した.その後,仮処分申請直前の2月14日付で,事務職員と大学教授を兼務する新たな辞令を出したが,久保教授は研究室の使用や教育活動は禁じられたままであるという.学園側は処分理由について,人権センターへの批判や同和問題に関する久保教授の発言に配慮がなく,東條元首相の映画鑑賞を学生に強要したことなども含め,そうした言動が教授会で不適格と決議され,反省を求めても改善されなかった,としている.
 これに対し久保教授は,映画の鑑賞は学生に強要していない.人権センターへの要望や,三重タイムズのインタビューは歴史観に関するものが中心で,同和問題を軽視したものではなく,他の人権問題を含めて多様に展示してほしいという内容だった,と話している.
 記者の取材からは一私立大学の人事上の問題では済まされない構造が見えかくれしている.久保教授の三重タイムズのインタビュー記事が掲載された後,県教委事務局同和教育課や同県生活文化部同和課などから鈴鹿国際大学に何らかの働きかけがあったのではないか,という話しが関係者の間で囁かれている.県教委同和教育課の藤田郁子課長をはじめ県側はそれを全面的に否定しているが,学園側は具体的な内容とその相手については明かせないとしながらも,「有形無形の働きかけ」があったことを記者に認めた.久保教授の言動が大学教授として解任されねばならないほど不見識なものかどうかの判断よりも,実際に学園側が憂慮したのは久保教授の言動によって三重県内での学生募集に深刻な影響が出るのではないかということだった.それは“廃校の危機”という表現をもって久保教授に伝えられている.久保教授の言動が多くの国民の批判を浴びねばならないものかどうか,一般の常識に委ねれば自明と思われるのだが,それが廃校の危機につながりかねないとは,いったい何がそうさせるのだろう.学園の関係者は,「三重県の事情」としか語らなかった.
 憶測は避けよう.本号の発売時(平成12年3月),三重県は定例3月県議会が開かれているはずだ.また会計監査員の調査も入っている.そこで何か新たな事実が明るみに出るかもしれない.教育・学問という世界で,校長が自殺し,大学教授が解任される・・・.“見えない暗闇”が三重県を覆っている.

九九九より:話が前後してしまい,申し訳ない.この文章の後,三重県関連記事を読んでいただくと,話しの流れがすっきるすると思う.

参考 三重県関連記事
    概略(リンク先の下の方にあります)


引用集にもどる もどる