教育「荒廃」の元凶は親と日教組にあり

櫻井よしこ

 日本の教育はなぜかくも無残な状態になってしまったのか.エスカレートする一方の少年少女犯罪を前に,大人たちはただオロオロするばかりだ.悪しき平等主義に囚われ,自由と権利の意味をはき違え,人間社会のルールと規律を教えるはずの学校をよってたかってズタズタにしてきた「戦後教育」なるもののなれの果てである.ジャーナリスト・櫻井よしこ氏が,その荒廃の責任を追及する.


 日本の教育現場に行くと,限りない「愛」がみえてくる.ただしそれは自分のみがよければよいというエゴイスティックな形の愛に傾きがちだ.多様な形の溢れる程の「愛」が今の教育を歪めている.
 子供たちは責任と義務を教えられることなく,自由と権利の便利さを享受し続け,全ては個性だ,差別はいけないという価値観の下で,結果としての平等を保障される.
 現実には存在しない観念の世界で,子供は惑い,親は悩み,教師は疲れ果てている.水準の高さでは,おそらく世界一を誇る日本の教育は,いったいどこでこの迷路に踏み入ったのか.これに対して私たちに打つ手はあるのか.まず現状の一端をみてみよう.
 ここで紹介するケースは,東京のある街でおきた.ちょっとした都会ならどこにでもある高層住宅の棟々.その中のひと棟で,昨年(平成9年)11月5日,中学生たちが喫煙した.最上階の非常階段の踊り場が部屋状に仕切られており,中学生たちのたまり場になっていた.喫煙と放尿で独特の臭いがしみついていた.
 夕方,たまりかねた管理人が学校に通報,教師4名が駆けつけ,逃げる子供たちを特定した.翌6日,生活指導主任のA教諭は同僚と共に,生徒4人を改めて指導した.
 野球部の顧問であったA教諭は,指導した生徒のXが野球部の部員だったことにショックを受ける.熱血指導で可愛がっていたつもりの部員が,喫煙を繰り返し,他人のマンションの最上階を放尿で汚していたこと,さらには,Xが嘘をついていたことが分かり,A教諭はXを拳で一発,殴った.Xは,殴られてはじめてきちんと謝った.
 2,3日して,Xの母親が病院から全治10日の診断書をもって学校に抗議に来た.A教諭は,体罰を加えた非を詫び,母親にXの行動を説明した.Xは以前にも喫煙と万引きの経歴があったが,母親はこの点も認めて戻っていった.
 おさまったはずの同件はひと月後「○○中学に体罰教師あり.生徒たちがおののいている」という都教育委員会への匿名の手紙で蒸し返され,A教諭糾弾の声があがった.
 Xの母親は地元の区議に働きかけ,区議は校長に「徹底究明すべきだ.議会にもかける」と電話で伝えたという.
 結局,校長は全校生徒800人を前に朝礼で「学校で体罰がありました.申しわけないことをしました」と謝罪した.但し,“体罰”を誘ったXの行動については言及しなかった.A教諭は,区議会での政治的追及の気配もあり,嫌気がさして異動願いを出し,今春他校に移った.
 一方,Xは教師を“飛ばした”として,生徒のヒーローになった.髪をまず茶髪にし更に金色に染め,彼はそのまま卒業していった.
 「学校は生徒への思いやりに満ちた安心で安全な聖地であるべきという不文律があります.その結果,社会では許されないことが,学校では許される事態になっています.子供への気遣いから,学校は無法地帯になっています.消しゴムひとつでも,盗めば泥棒のはずですが,なぜか学校では許されます」
 教師は目の前で子供が何をしようとも叱ることが出来ない.なのに,親や地域は,全てを教師に押しつける.
 「例えばゲームセンターで子供が暴れているといっては教師を呼び出します.先日,亀戸で中学生が警官を襲った事件は夜中の12時におきました.それでも謝罪したのは校長です.本来なら謝罪すべきは親ではないでしょうか」
 Xの母親はある宗教団体の熱心な信者で,布教活動でいつも家を空けていたという.A教諭は子供の非行を学校に押しつけ,それを指導した教師が処分されることに納得いかないと憤慨する.
 区の教育長も述べた.
「今のきまりでは,殴った先生は処分しなければなりませんが,煙草を吸ったりした生徒を罰することは出来ないんです.悪いことをしたから罰せられるのは仕方がないというのは,残念ながら今の教育の現場にはないんです」
 教育の場から“社会の常識”はとっくの昔に消えてしまったというのだ.
 問題のあった中学校の校長は,当初A教諭らをかばうつもりがかばいきれなかったと述べ,区議会レベルでの追及の動きがあったのかと尋ねるとひざに置いた手の指が震え,黙って頷いた.学校名等が公けになると,更に政治的な動きに拍車がかかり吊し上げられると恐れているのだ.
 校長や教師は「完全に手足を縛られた状態」でしか,生徒指導が出来ない.そのような状況でどんな非行や犯行が行われているか,3月の最後の1週間を見てみよう.
「3月31日夜『おやじ狩り』と称して会社員を鉄パイプ等で殴り現金強奪,中学生5人を書類送検」「同日,主婦の顔をカッターで切りつけ現金をひったくり,中学生を逮捕」「3月28日,教諭らに暴力行為で中学生4人地検に送検」「被害額500万円にのぼる窃盗事件200件の犯人として中学生4人を逮捕」「千葉県四街道で友人の父親を殺害,中学2年の男子生徒を逮捕」「3月26日,強盗致傷と盗みの疑いで中学3年生5人を逮捕」「3月24日,ナイフ及びナックル等の不法所持で中学2年生を逮捕」「金属バットで会社員を襲撃,中学生7人を逮捕」
 わずか1週間でこれ程の少年犯罪が報道されていた.
「すぐに少年犯罪は少女犯罪へと裾野を広げますよ.今の子供たちを見ていると,それは避けられないと思います」
 国語作文教育研究所の宮川俊彦所長は憂えた.
 この他,報道されていない喫煙や小さな法律違反などは数えきれないくらいある.校内暴力も文部省のまとめでは96年度に8169件おきている.文部省の集計は控えめで,現実には発生件数はもっと多いと思われる.
 教育の場はなぜ,このようになってしまったのか.教室内の様子から探ってみよう.


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