教育「荒廃」の元凶は親と日教組にあり

櫻井よしこ


はき違えた自由と権利

 今,中学校を訪ねると教壇がないことに気付く.高い所から見下ろすように教えるのはよくない,先生も生徒も平等という考えからだ.
 授業中も私語が絶えない.歩きまわり,騒ぐ生徒がいる.
「うるさいから外に出て立ってろ,なんて今は言えません.子供には授業を聞く権利があるというんですから」
 区立中学現役校長が嘆く.「騒いでいる子は,そもそも授業を聞く権利を放棄している上に他の生徒の権利まで侵害しているのに」と校長.
 横浜市の現役女性中学教師は,校内暴力の時代が懐しい,少くともあの頃は,教諭と生徒の間に血の通った会話があった,と指摘し,訴えた.
「今の子供は本当に過保護です.失敗を極度に嫌い,失敗したら立ち直れない.親の責任ですよ.ある日授業で,男子生徒を指名したら彼は分かりませんと小さな声で答えました.別になんということのない普通の授業風景です.しかしそのあと,親から電話で,分からない問題を当てないでくれというのです」
 分からないから学びに学校に来ているのだと言ってもこの親は頑として譲らなかったと,女性教師は言う.学級通信に「××君はこの点について頑張った」等と書き生徒のやる気をおこさせようとすると,通信に載らない子の気持ちを考えて特定の子のみほめるのはやめてほしいと,親からの抗議を受けた,ともいう.
 広島市の現役中堅教師も語った.
「親の目が鋭く,すぐに教育委員会等に通報されますから今や先生は,生徒に気に入られようと宿題を軽くし,決して怒らないなど,徹底的に迎合します」
 この教師はさらに信じ難い例を話した.中三の男子生徒が職員室に呼ばれて叱られていた.いくら先生が叱っても生徒は生意気な生返事を繰り返すばかりで,ついに先生が生徒を殴ってしまった.
 すると生徒は即,ポケットから携帯電話を出し,教育委員会に「今,この場で体罰がありました.××中学の××という教諭です」と報告したというのだ.
「皆,呆気にとられました.結局,教育委員会はとりあわなかったのですが,こんな状態では教師の指導は出来なくなります」と,中堅教師.
 これらが凝縮してみせているのは,悪しき平等と,はき違えた自由と権利である.
 『プロ教師の会』の河上亮一氏は言う.
「戦後50年間,特に最近の10年間程度,生徒の自由と人権が叫ばれた時代はありません.生徒には自由と権利がある.だから遅刻する権利,宿題や掃除をしない自由もあると言い出し始めました.先生も同じ人間だから,先生の言うことは必ずしも聞かなくてもいいとも言います.それを親もマスコミも後押しします.教育現場はアナーキーなのです」
 広島市の先の中堅教師が語った.
「ナイフ事件を受けて,私は子供のアンケート調査をしました.すると狂いそうだという生徒が10%,独りぼっちでたまらないという生徒が40%いました.黒磯のような(生徒を刺殺した)行動に,自分も出るかもしれないという子供も多くいました」
 この教師は,これらの数字が全てではないとしながらも,そこにこめられている子供の気持ちは,すでに態度に示されていると言い,体験を語った.
「ある日校庭に私の名前が石灰で大きく書かれ“死ね”と書き添えられていました.やった子はすぐに分りましたので私は彼に,注意しました.
 するとその生徒の口から出てきた言葉は“うるさい”“禿げ”“短足”でした.
 私は怒るより呆れて“おい,それじゃ説明になっとらんぞ”と言いました.再び生徒の口から出てきたのは“失せろ”“むかつく”“死ね”の3語でした」
 作文を子供たちに書かせ添削を通して指導をつづけている宮川氏はこの言葉の貧しさが,思考の貧しさを表わしているという.
「人間も社会も言語によってつくられます.子供だけでなく,大人も先生も言葉が貧しい,思想が貧しい.
 情報時代の子供は,今の大人や社会を越えた,幅広く,深い思考の枠をすでに持ちつつある.だが,彼らの思考を受けとめる現場がない.学校にも家庭にも.大型スクリーンにも匹敵する意識を,四畳半の小さな器にダイエットして無理矢理入れさせる作業が今の教育だと思うのです.
 だから子供は,手足をのばせば窓を割り壁を破り,反社会的といわれるようになる.
 ただ,今,壁そのものが弱くなっていますから,回りから皆で押さえようという意欲がなくなっているのです」
 この現状を宮川氏は「学校の敗北,日本の教育の敗北」「教師の怠慢」だと言う.
 では一体誰が悪いのか.解くべき問題はなにか.すでに明らかなのは,教育の場で基本的な価値観の誤解が蔓延していることだ.


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