教育「荒廃」の元凶は親と日教組にあり

櫻井よしこ


戦後教育の敗北

 今教育の場を支配する価値観はデモクラシーだ.かつてウィンストン・チャーチルは「デモクラシーは最悪の統治である.但し,その他の全てを除いて」と揶揄した.デモクラシーがすばらしいとしても独裁政治や恐怖政治に比較しての話であり,必ずしも完全な政治原理ではないと言っているのだ.
 だが,戦後,政治原理としてのデモクラシーは至高の価値として教育の現場に持ち込まれた.親も子も,教師も生徒も対等なのがデモクラシーだと解釈された.それが教壇を取り払って,物理的にも教師が生徒と同じ平場に立つ現象にあらわれている
 <だが,教育に関する限り,親と子,教師と生徒は,横の関係ではなく,教える者と教えられる者との間の縦の,不平等の関係にある>
 元都立大名誉教授の関嘉彦氏は『国内改革』の中で書いた.
 教師は生徒に,是非善悪の基準や社会生活のルールに従うことなどを教えなければならないが,これは理屈だけで教えることはできない.教師が権威をもって自らの言動を通じて教えなければならない.<しかるに教師からそのような権威を奪い去ったのが,誤った民主主義の教育理念であり,そこから派生するいっさいの権威を否定する自由放任の教育理論>と関氏は書いた.
 ヨーロッパでも生徒を規制せず自由に育てようとする試みが行われた.イギリスの教育思想家ニールらが自由放任教育を提唱,バートランド・ラッセルは1920年代に自ら学校を創設してその試みに取り組んだ.
 ラッセルの試みは失敗し,この議論は沙汰やみとなった.
 この自由放任の価値観が戦後の日本に紹介される一方で,マルクスの階級闘争と重なる日教組的な価値観も,大きな力を持った.対する文部省は,日教組押え込みのために管理教育を厳しく徹底した.
 60年代から70年代にかけて,教育の場はさながら政治闘争の場と化して,激しい鬩ぎ合いが続いた.
 日教組は,教師を労働者と位置づけ,組合活動を展開,専従教師は学校にも来ず,日々活動に明け暮れた.
 教師が子供に教えたことは「反権力」「自由」「人権」「校長と文部省,そして国は敵」ということだった.
 他方,国は,全体としてひたすら高度経済成長を追い求める一方で,教育現場を厳しく締めつけた.勤務評定制度を導入,学習指導の内容も教師の裁量の余地を残さないようにきっちりと定めた.文部省と日教組は,子供の教育をめぐって不毛の深い対立を続けた.
 この不毛の対立の中で教育された子供たちが,今,中学生や高校生の親の世代だ.
「経済成長を支えるための国の教育行政の下,政治闘争の色合いに染った組合主導の教育現場で育ったこの親たちが今,日本の教育の荒廃を子供たちの上に増幅させているのではないか」
 日教組と文部省の烈しい対立の時代に校長として現場にあり,今は教育評論家となった岡田春生氏が語った.
 1983年まで日教組の委員長及び書記長を21年間もつとめた槙枝元文氏は,一連の批判にどう答えるか.
「日教組の教育といっても1日24時間の中で4時間か5時間ですよ.あとの責任は家庭と社会です.今,子供が問題だといっても,大人が,ま,これも日教組が教えたといえばそうなんですが・・・・」
 氏はここで言葉を詰らせた.日教組教育が悪いのではなく今の大人が悪いと言い始めた時,彼らを育てたのが日教組教育だと気付いたわけだ.氏は再び言葉を継ぎ,
「日教組がよいことをしてきたというより,教育を悪くさせないためにどれだけ抵抗してきたかということですよ」
 いかにも苦しい弁明だ.
「私が言うと後輩には悪いかもしれないが」と前置きして,槙枝氏は今の教師と生徒の関係は日教組が目指したものとは異質だと語った.
「教師と生徒は人間として対等です.しかし教師は指導者で先輩ですから上下関係はあるのです.今は教師が子供をこわがっている.だから人間関係が出来ないのですよ」
 また槙枝氏は,子供たちが権利を主張することについて,
「人格形成教育としては完全な失敗.原因は文部省,学校と共に家庭における子供の躾にある.特に家庭は,問題以前の問題」と,断じた.
 だが,子供たちに自由と権利と平等を説き続けたのが日教組教育ではなかったのか.
 一方,町村信孝文部大臣も,家庭教育の大切さを重視すべきだと述べた.今年3月,中央教育審議会は,家庭教育の大切さを大きな柱に据えた報告を出した.「生きる力を身につけ」させるため,親子の対話や,父親の子育てへの参加なども重要だと説いた.
「以前の日教組との対立の中で,文部省も対抗上,政策をとっていましたから」
 と町村文部大臣は述べた.日教組との対抗上,教育現場を管理する発想に陥ったと言っているのだ.
 日教組も文部省も,家庭教育というもっとも大切な原点を忘れていた.両者ともに誤っていたと事実上認めたのだ.


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