教育「荒廃」の元凶は親と日教組にあり

櫻井よしこ


歪んだ社会の愛ゆえに

 冒頭の例で紹介したように,現代の家庭での教育,一にも二にも母親による教育の特徴のひとつは親による教師の否定である.
 親の教師への疑問や抗議はわが子に対する愛情の深さの一側面である.
 子供を愛する余り,全てを叶えてやろうとする親.護り抜こうとする親.子供の前の道にはどんな影もささせないように入りこんでしまう親.責任や義務や思いやりは,手の指の間からこぼれる砂のように散逸して全てわが子のためにまわるといつしか思ってしまう親.親の心は愛であっても,全てがその子を中心にまわる愛は歪んだ愛だ.子供に世界の中心は自分だと錯覚させる.全てが自分のためにあると思わせる.親が真剣に注いだ愛であっても,子供を限りなくエゴイストに育てる.子供のもてる能力も時間も,全て子供自身のために使わせるのであるから,他人への思いやりに欠けた天上天下唯我独尊の極みに子供を導くのだ.
 しかも,現代の親の愛は,現代の文明と経済の中にどっぷりとつかっている.お金と文明の力で,人類が体験したこともない程の唯物的機械的愛の形へと,知らず知らず,親の愛は変貌をとげている.
 子離れ出来ない母親の心の病,執着が多くの子供の病気の原因だとする名著『母原病』の著者で,医師の久徳重盛氏が語った.
「日本人も昭和20年代後半頃までは正常に育っていました.親が正常でしたから.しかし,残念なことに,人間はものを考えることは出来ても自分を見つめることが出来ない.家事が便利になるのに比例して便利な子供,便利な子育てを望みはじめました」
「経済が成長すると人間は壊れる.赤ちゃんの頃は“点けておけば大人しい”という理由でテレビを点けっ放しにします.少し大きくなればテレビゲームをさせます.
 その中で“殺せ,殺したら万歳”というふうな価値観を植え付けます.
 中学生くらいになればホラービデオやアダルトビデオも見ます」
「人間は脳を育てる動物」と氏は強調する.子供は育て方ひとつで神にも悪魔にもなるという.それなのに,経済至上の価値観で「便利な」子育てを通して,子供たちに「悪魔の玩具」を与えた.他方,60年代70年代の不毛の教育現場で権利の主張を旨として教わってきた親は,最愛の子供に,責任や思いやりを教えることが出来ないできたというのだ.
 その意味で日本ほど子供が,一見豊かな経済の恩恵を受けながら,実はその儀性になっている国はないという.
「作文教室をやってますと子供たちからハッとする問いかけをされます.“人を殺してもいいじゃない”“したい事をしてなんでいけないの”という問いかけに,大人はどう答えていくか」
 宮川氏が語る.
「こういう問いかけをする事はとても大切です.客観視する人間は行動化しませんから」
「子供たちは深い部分で秩序を求めている.哲学を求めていると僕は感じます.
 対する社会が単にこれはいけないことだというだけでは押さえきれないと感じます.
 子供たちの生(せい)の実感,展望をもって生きていく指針,自分が自分であってよいのだという安心感を与えることが出来るか否かだと思います」
 日本の母親は,そして家庭は,子供たちにその前向きの生の実感を抱かせることが出来るか.
「現代の母親は論理や知識を身につけていても,結果としてみると,子供の教育には社会として,失敗しています」
 と宮川氏.
 教育はやはり最初に人である.
 今回,中学生と高校生の何人かに話をきいた.色々ななタイプの子供がいたが全員が,この世の中で一番自分をわかってくれるのは「両親」と答えた.両親がとても好きだとも彼らは言った.
 子供にとって最初のモデルは両親である.
 文部省も日教組も教育の荒廃の責めを負うべきだ.だが,両親の姿もまた,いま,問われている.そしてそれは,ほかの誰でもない,私たち一人一人への最も鋭い批判であり問いかけであることを肝に銘じなければならない.

おわり


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