上野動物園のライオン処分
 「戦意高揚目的」と説明
 市民団体の戦争展

[1999年03月09日 東京夕刊]


 太平洋戦争のさなか、東京・上野動物園でライオンやゾウなど27頭の猛獣が処分された。空襲の際、オリを出て人を襲う危険があったためで、戦争の悲劇として語り継がれている。ところが、東京都台東区の市民団体が開催中の戦争展で、薬殺されたライオンのはく製が展示され、「戦意高揚のため処分された」と誤って説明されていることが9日までにわかった。動物園関係者は「史実と違う。一方的な解釈」「動物を軍国批判に結び付けられてはたまらない」と反発し、区は調査に乗り出した。

 猛獣処分を「戦意高揚のため」としているのは、東京都台東区の浅草公会堂で開催中の「東京大空襲資料展」。

 会場の中央に、当時薬殺されたオスのライオン「アリ」のはく製を展示し、「東京都長官の大達茂雄氏が国民の戦意高揚をねらって上野動物園の猛獣を処分するよう指示しました」と説明。また、猛獣処分の史実を取材した新聞記事と、大達長官の人柄を批判して「虐殺は戦意高揚のため」とする「赤旗」のコラムを並べて展示し、全体的に当時の東京都と長官を批判する内容になっている。

 「上野動物園百年史」などによると、同園では昭和18年8月から9月にかけ、ライオン、トラ、ヒョウ、ホッキョクグマ、インドゾウなど14種27頭を薬殺、絞殺、撲殺、絶食などの方法で処分した。

 空襲でオリが壊され、猛獣が逃げ出して人間を襲ってはいけないから−というのが最大の理由で、食糧難も要因の一つだった。当時、動物園職員が涙ながらに動物を処分した悲劇は戦後に語り継がれ、教科書にも掲載された。

 資料展は、実行委員会などが主催し、台東区が共催、区教育委員会が後援している。東京大空襲があった3月10日に合わせて毎年開かれ、今年で12回目。はく製ライオン「アリ」の展示は3回目という。

 この展示について、「百年史」の編さん者で元上野動物園飼育課長の小森厚・日本動物園水族館協会顧問(71)は、「猛獣が逃げる危険が処分の大きな理由。戦意高揚は一つの推察かもしれないが、そんなに単純じゃない」と反論。

 元上野動物園職員の西山登志雄・東武動物公園園長(69)も「子供たちが大好きな動物を殺すことは、戦意高揚にならない。動物に失礼。都にもかっとうはあった」と指摘する。

 2人は百年史を編さんする際、多くの関係者に取材し、当時の新聞などを徹底的に調べたが、猛獣の処分がことさら軍国主義に利用された事実はなかったという。

 同園では戦前から、非常時に動物を処分するマニュアルを備えていた。

 資料展の共催者である台東区は、「細かいところに気付かなかった」と釈明。9日までに実行委員会に対し、「戦意高揚」の根拠を示すよう求めた。

 資料展は、会場の一角に「新ガイドライン法反対の世論を全国に広げましょう」などと書かれたポスターを掲げ、署名運動を行うなど政治色も強い。台東区はポスターの掲示中止などを求め、「来年以降の共催については見直すかもしれない」としている。

 資料展の実行委員会は、「猛獣処分は戦意高揚をねらった面と、空襲時の危険の両面があった。片面が抜け落ちている」と説明の誤りを一部認め、「展示の良い点と悪い点を総括したい」と話している。


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