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第3編 海洋の区分(1):内水

第1章 総説

第1節 定義
 内水Internal Waters)」とは聞き慣れない言葉だが、これは領海の基線より陸地側の全ての水域のことである(海洋法条約第8条@(※注1)。例えば、(1)霞ヶ浦やサロマ湖、琵琶湖といった潟湖(2)利根川、信濃川といった河川(3)中川、大河津分水路といった運河は、領海ではなく内水となる(もっとも、河川、運河、潟湖は陸地の一部を構成し、厳密な意味での内水ではない、という説もある(※注2))。但し、新たに直線基線(後述)を採用したために内水となった水域(図のb部分)については、従来からの無害通航権(後述)は存続する(海洋法条約第8条A(※注3)

※図1 新海洋法秩序

第2節 内水の効果
 内水では、領土と完全に同様の管轄権(主権)が行使出来る(領海は必ずしもそうではない)。従って、領海のように例外(例えば、後述する無害通航権)を認める必要も無い。しかし、外国船舶に関しては、次の例外がある。

 外国船舶
 外国船舶も、内水に滞在中は沿岸国当局の管轄権下にあり裁判権が及ぶ
 しかし、
@専ら船内秩序に関する紛争A港の平和・静穏を害しない事件は旗国船籍を示すために船が掲げている旗の国)の管轄下に置かれる。これを、「蓋然的侵害の法理Moral Disturbance Theoryと呼ぶ(※注4)。つまり、外国船舶については、航行利益に優越する沿岸国の法益が存在する場合に限り、管轄権が認められるということになる。
 1872年7月9日の
マリア・ルース号事件(判例国際法115事件)(※注5)は、横浜港に入港中のペルー帆船マリア・ルース(Maria Luz)号から脱出した中国人奴隷が英国軍艦に保護を求め、身柄引渡を受けた我が国政府が同船船長の行為を奴隷輸出契約として訴追・有罪を宣告したもので(中国人労働者は帰国)、事件を審理したロシア皇帝アレクサンドル二世を裁判官とする仲裁裁判所は1875年、日本の外国船籍の船の船内事項に関する訴追行為(管轄権の行使)は違法ではないとする判決を下した(※注5)

 外国軍艦・政府船舶
 外国軍艦・非商業目的の政府船舶は、内水にあっても沿岸国の管轄権から免除される。また、外国軍艦に対する民事訴訟も、主権免除の法理によって成立しない(※注6)
 しかし、上陸した水兵・船員までもが管轄権から免除されるのではないし、沿岸国法令が遵守されないときは沿岸国から
退去を求められる(※注7)
 1952年6月28日の
神戸英水兵事件(判例国際法75事件)は、朝鮮国連軍に参戦した英海軍の重巡洋艦「ベルファスト」の水兵2名が神戸に上陸した際、強盗罪容疑で逮捕され、英海軍憲兵・在神戸英国領事らの身柄引渡要求にも係わらず我が国が刑事裁判権を行使。両名に懲役2年6ヶ月の実刑判決を下した事件(その後、大阪高裁は執行猶予3年の有罪判決とした)で、神戸地方裁判所は、「英国軍艦の乗組員であることを理由としての我が国裁判所の刑事裁判権の否定は当を得ない。」として特権免除を否定した(※注8)

※注釈
1:
栗林前掲書、264ページ。また、
 香西 茂他 『国際法概説』第3版改訂 有斐閣双書、1994年香西他前掲書、129ページ。また、

 奥脇直也・小寺 彰 『国際法キーワード』1997年、有斐閣双書 
118ページ。
 なお、「直線基線」については、後述。
2:山本前掲書、352ページ。
3:栗林前掲書、264ページ。
4:
山本前掲書、358ページ。
 内水にある外国船舶に対しては、
(1)英米主義(沿岸国の完全な管轄権が及ぶのが原則で、管轄権の放棄は国際礼譲)、(2)フランス主義(専ら船員に関する事件は旗国の管轄、上陸した船員の犯罪や船長・領事等に援助を求められた事件については沿岸国の管轄)の2つの立場があったが、現在では両者が歩み寄った形で実行されているという。
5:田畑茂二郎・竹本正幸・松井芳郎 『判例国際法』 東信堂、2000年 488ページ。
 ここで仲裁裁判所は、
英米主義の立場に立った我が国を支持した。
6:
スクーナー船エクスチェンジ号事件(判例国際法19事件)米連邦最高裁判決(1812年2月24日)。
 
「主権免除の法理」とは、「国家主権平等の原則」のコロラリーとして、ある国の主権は他国のそれに従属することはなく、従ってある国は他国の裁判所によって裁かれることは無い、ということである。
7:山本前掲書、360ページ。
 例えば、我が国には時々、韓国海軍の練習艦隊や韓国海洋警察庁の巡視船が訪れるが、これらの艦船は治外法権になっている。もっとも、アメリカ海軍の艦艇は、そもそも日米地位協定に基づいて管轄権が免除されている。
8:『判例国際法』、319ページ。
 判決はまた、当時の吉田茂首相が国連加盟国軍隊構成員の地位について申し入れた「吉田書簡」について、日本側の一方的通報で交換公文ではないこと、法的拘束力があったとしてもその内容は行政権の範囲内において可能な事項を定めているに過ぎず、裁判権の行使に制限を加えるような内容を何等含んではいないことを挙げて、英水兵側の抗弁を否定した。

第2章 湾

第1節 定義
 海岸が単一国に属する場合、単なる海岸の湾曲以上の湾入(湾口の長さの合計を直径とする半円の面積以上の面積がある)は「Bays」とされる(領海条約第7条、海洋法条約第10条(※注1)。「湾」は、湾口の長さ(低潮線上の点の最短距離)によって扱いが異なる(従来は、10カイリを基準とししていた)。

(1)湾口が24カイリ以下のとき
:低潮線(LAT)上の点を結んだ直線(閉鎖線)を基線とする。
 その内側は
内水になる。
(2)湾口が24カイリ以上のとき
:湾内も外洋と同様の扱いになる。
 但し、湾内で水域が最大となるように
24カイリの直線基線を設定出来る。

第2節 歴史的湾
 また、湾口は24カイリ以上あるが、(1)歴史的に自国の湾として主張され(平穏かつ長期継続的な主権行使)、(2)他国もそれを黙認acquiescence)してきたような湾は「歴史的湾Historic Bayとされ(領海条約第7条海洋法条約第8条E)、例外的に閉鎖線内部は全て内水になる(※注2)
 現在主張されているもので、カナダのハドソン湾Hudson Bay、 湾口50カイリ)・サンタモニカ湾Santa Monica Bay、29カイリ)は認められたが、ピョートル大帝湾Peter the Great Bay、沿海州チュメン・ウラ河口とポポロトヌイ岬を結んだウラジオストク正面海域、湾口102ないし115カイリ)(※注3)については、旧ソビエト社会主義共和国連邦の内水化宣言(1957年7月21日最高幹部会布告)に対しては、我が国をはじめアメリカ、イギリス、フランス、カナダなど西側諸国が抗議した。また、シドラ湾Gulf of Sidra、296カイリ)は社会主義人民リビア・アラブが内水化宣言(1973年10月革命評議会声明)をしたが、米英ソ等多数が「歴史的根拠を欠き重大な国際法違反」として抗議を行い、アメリカは第6艦隊の空母機動部隊を「演習」の名目で同湾に展開し、対抗した(※注4)
 現在、「歴史的湾」として確定しているのは以下の通りである(※注5)

 ハドソン湾(カナダ)、フォンセカ湾(エルサルバドル、ホンジュラス、ニカラグア)、リオ・デ・ラ・プラタ湾(アルゼンチン、ウルグアイ)、タラント湾(イタリア)、アゾフ海(ロシア)、リガ湾(ロシア)、白海(ロシア)、チェシスカヤ湾(ロシア)、ピョートル大帝湾(ロシア)、マナール湾(インド、スリランカ)、トンキン湾西部(ベトナム)、ポーク湾(インド、スリランカ)、シャーク湾(オーストラリア)、スペンサー湾(オーストラリア)、セント・ビンセント湾(オーストラリア)

※注釈
1:
栗林前掲書、266ページ。また、山本前掲書、352〜353ページ。香西他前掲書、129ページ。松井他前掲書、150ページ。
2:海洋法条約以前は「」とされたのは湾口10カイリ以下だったので、アメリカのデラウェア湾(湾口10カイリ)・(養殖で著名な)チェサピーク湾(12カイリ)、カナダのシャルール湾(16カイリ)・コンセプション湾(20カイリ)、フランスのカンカル湾(17カイリ)・グランビル湾(17カイリ)等が「歴史的湾」として主張された。もっとも、
国連海洋法条約では湾口24カイリまでを「湾」として認めたので、これらの事例はもはや問題ではない。
(:山本前掲書、353ページ。)
3:「ピョートル大帝湾」の位置については、
第4章図2参照。
4:山本前掲書、353ページ。
 その際、リビア空軍機とアメリカ海軍空母艦載機が交戦し、リビア空軍機2機が撃墜された(
シドラ湾事件)。
5:波多野前掲書、165ページ。

■第3章 内海

 単一国に属する陸地等で囲まれているものの、2つ以上の海峡・自然水路で外洋と連結している海は内海という。欧米では例があまり無いが、我が国の瀬戸内海は、入り口が24カイリ以上あって湾の法理歴史的水域の法理を援用してこれに該当するとされる(※注1)。我が国漁業法によれば瀬戸内海は同法の適用海域とされ、我が国領海法によれば、瀬戸内海「内水」とされる(領海法第2条)。よって、瀬戸内海には国際海峡の制度は適用されないとするのが我が国政府の立場である(1968年第58回国会衆議院外務委員会における政府答弁)(※注2)
 瀬戸内海の法的地位については、我が国の国内判例(大阪高裁)で既に判断が出ている。それによると、1966年のテキサダ号事件(判例国際法35事件)(※注3)控訴審判決で大阪高裁は、以下の理由により、瀬戸内海が歴史的水域であると判示し、内水の地位を認めている(※注4)

(1)継続的・史的慣行事実
:歴史的・慣行上我が国が有効に管轄権を行使していること。
(2)非抗争性
:これに対して外国からの抗議も存在しないこと。

※注釈
1:
栗林前掲書、266ページ。また、奥脇・小寺前掲書、118〜119ページ。
2:山本前掲書、354ページ。また、奥脇・小寺前掲書、119ページ。
3:『判例国際法』、153ページ。
 リベリア船籍の鉄鉱石運搬船「テキサダ」号と日本のオイルタンカー「銀光丸」が、和歌山県日の御崎沖で衝突し、タンカーが炎上して15名が負傷した事件。テキサダ号の日本人船員2名が和歌山地裁に業務上過失傷害罪と過失往来妨害罪容疑で起訴された。和歌山地裁は、刑法第1条Aの適用を認め、更に瀬戸内海を歴史的湾の法理(控訴審の大阪高裁は「歴史的水域の法理」)により内水であると認定した。
4:一審の和歌山地裁は、「継続的・史的慣行事実」として1893(明治26)年の英国に対する瀬戸内海領海宣言、現行漁業法、「ペリカンステート」号事件(この事件でアメリカは我が国の事件捜査を容認した)を挙げている。

第4章 河川・運河

第1節 流域
 河川の全流域が単一国の領土からなる河川・運河(国内河川)は、当然のことながら内水を構成する(※注1)。例えば、我が国やイギリスの河川は、全て国内河川である。
 もっとも、流域が複数国にまたがっていたり、単一国であっても諸外国に通過通航を開放している場合は国際河川となる(※注2)。実例は、ヨーロッパ諸国によく見られる(ドナウ川、ライン川など)。

第2節 河口
 従来、河口については、@湾に順じて10カイリを基準とする説、A閉鎖線を基準とする説、B三角口に流入する場合に湾として扱う説の3つの立場があったが、現在では、(1)海洋に直接流入する河川については、河口両岸の低潮線Lowest Astronomical Tide, LAT)上の点の間を結んだ閉鎖線を基線とすることになっている(領海法第2条、領海条約第13条、海洋法条約第9条)。他方、(2)三角口に流入する河川については、湾の法理を準用し、河口24カイリ以内であれば閉鎖線を引くことが出来る(※注3)
 1961年、ウルグアイ東方共和国とアルゼンチン共和国との間に位置するラプラタ川River PlateRio de La Plata)について両国がその閉鎖線を以って領海基線とする旨宣言したが、河口が24カイリ以上あったので米英両国が抗議した(※注4)

※注釈
1:
栗林前掲書、264ページ。また、香西他前掲書、139ページ。もっとも、山本前掲書は、これを領土の一部であって内水ではないとする。
2:香西他前掲書、140ページ。
3:
山本前掲書、355ページ。
4:山本前掲書、356ページ。

第5章 海岸

 内水の基準となる領海の基線は、(1)沿岸国が公認する大縮尺海図に記載されている海岸の低潮線Lowest Astronomical Tide, LAT)、又は(2)直線基線の制度を採用して引かれた基線であり、この内側は内水となる(基線については後述)(※注1)。従って、満潮時には海水に覆われていても干潮時には陸地が現れるような場所は内水乃至領土を構成する。
 なお、高潮線MHWMean High Water)とも呼ばれる。

※図2 海岸と内水

※注釈
1:
栗林前掲書、264ページ。


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